対魔獣 ― 希望を乗せる白刃
砕けた雪と白い息が舞うその奥で、
それぞれの選択が、避けられぬ運命へと収束し始めていた。
雪氷が砕けて舞う粉塵は、顔や指先で溶け、外気温差で再び氷結する。
呼吸に血の味が滲み、体力は限界に近づいていた。
セイウチは弾丸を浴び、動きが鈍り始めている。
だが、カーロスのダメージも深刻で、体力も限界が近い。
その時、ベレッタを構えるエドにスーマの通信が割り込む。
「刻印弾が効いてるのは画像でも確認できる!――Ωブレードを抜け、エド!」
「抜けって……これ、柄しかねぇんだぞ!どうすんだよ!」
困惑するエドの声が荒野に響く。
「柄しか無いんじゃない!刀身が別次元に存在してるだけだ!」
スーマの語気が鋭くなる。
「握りの上部の『Ω』マークのボタンを押せ!」
「えっ……」
エドが柄を確認する。
冷たい空に、スーマの声がさらに冴え渡る。
「ボタンを押せばSheath(シース/鞘)が空間に固定される。そのまま抜刀しろ!」
「……こうか?」
「カチッ――ヅオンッ……」
ボタンを押した瞬間、空間が歪み、空間の虚空に刃の気配が静止する。
エドが柄を引き抜くと、光の粒子が舞い、刻印を纏った白刃が姿を現す。
「QRボットコーティングを施し、魔術紋章を刻んだ高周波ブレード。電磁振動で、物理・霊的両方の障壁を破壊可能だ!」
スーマの声が、戦場の轟音を切り裂いた。
その瞬間――
残りの体力を爆発させ、セイウチが飛び掛かる。
カーロスが力任せに迎え撃つ。
「ギギッチキチキッ!」
義足の異音が、限界を告げる。
「……悪く思うなよ、トド公!」
(撃つのは慣れてる……だが、斬るのは――)
エドがカーロスの背を見て、決断した。
白刃が閃き、空気が一瞬固まる。
「ザザンッ!」
一拍遅れて、衝撃音が氷原を震わせた。
次の瞬間、横一文字に血しぶきが飛ぶ。
「ドドドズウンッ!」
セイウチは糸が切れたように崩れ落ち、巨大な牙が空を掻いた。
Ωブレードの軌道は、魔界印の真上を断ち切っていた。
絶命していくセイウチの眼は、皮肉にも赤から黒へと変わっていく。
「……やったのか?」
肩で息をしながら、カーロスが呟く。
義足の内部で、金属片が砕ける音がした。
エドは黙って頷いた。
その刹那、スーマの声が再び響く。
「…エド、悪いが至急サンプルデータを取って送ってくれ!」
我に返るエド。
「了解。」
その声の前方で、ミラの銃声と風音だけが、ギャオの間を行き交っていた。
戦況は休む暇もなく動いていく。
折り重なった断層が切り立つ荒野に、白い雪が舞い、薄く地面を染めていった。
「境界の大地 ― 魔界印の悲しみ」へ続く。




