アルマンナギャオ ― 前章戦
仲間たちが駆ける先で、異形の気配が静かに蠢き、
その大地は、まだ誰も知らぬ“本当の戦場”へと姿を変えようとしていた。
天空が悲鳴を上げ、轟く雷鳴にオーロラがひび割れる。
現実と非現実の大地が軋み、裂け目の底から瘴気が吹き上がっていた。
氷原を切り裂く風が、戦場の匂いを運んでくる。
その時、セシルたちの通信機が震えた。
スーマの声が、ノイズ混じりに割り込む。
「カリースと戦ってる奴がいる!――紫のデカい奴だ。用心しろ!」
前方、100メートルほど先で土砂が爆ぜ、白い雪煙が空を覆う。
その中心に、異形の影が蠢いていた。
――だが、彼らの進路を遮るものが現れる。
「ザザザザッ!」
急停止したバギーの前に、巨大な二本の牙を吊り下げた獣が立ちはだかった。
その一歩ごとに、氷原が鈍く軋む。
魔界印で使役されたセイウチ――その巨体は、氷原の王者をさらに異形へと変貌させていた。
「奴は目の前なのに……邪魔しやがって!」
ルクジムが飛び出そうとした瞬間――
「ババッ!」
後方のバギーから、大きな影が飛び越える。
次の瞬間、轟音が氷原を震わせた。
「ドドズウンッ!」
跳んできたのはカーロス!
セイウチにも劣らぬ巨躯で、拳を叩き込む。
衝撃で氷塊が砕け、雪煙が舞い上がった。
「ここは俺たちが引き受ける!先に進め!」
エドがカスタムベレッタを構え、鋭く叫ぶ。
その横を、ミラとジョーのバギーが疾走する。
「先導するから、付いてきて!」
ミラの声が風を裂き、セシルとルクジムが追いかける。
「頼みましたよ、エド!」
セシルの声にルクジム、ヌエも無言で頷きエドたちを見送った。
――だが、戦場は容赦なく牙を剥く。
「ズドーンッ!」
ミラたちのバギーに、もう一匹のセイウチが突進した。
氷原が割れ、雪煙が爆ぜる。
「大丈夫だ、先に行け!」
ジョーがミラを抱え、瞬時に雪煙の中へ飛び退く。
その背に、ルクジムが叫ぶ。
「すまねぇ、ジョー!」
叫びながら、ルクジムは前を向いた。
振り返れば、足が止まると分かっていたからだ。
加速するバギー。
その背後で、二組の戦いが始まっていた。
「ミラ、ジョー!気ぃ抜くなよ!」
エドが前方に怒鳴る。
「あんたらこそ、大丈夫でしょーね!」
ミラがベレッタを抜き、声を返す。
カーロスに殴り飛ばされたセイウチが、ゆっくりと立ち上がる。
真紅の意思なき瞳。
厚い外皮と脂肪に覆われた巨体は、魔界印で強化され、もはや自然の獣ではなかった。
氷原に、血と鉄と魔の匂いが満ちていく――。
だが、それはまだ“本当の戦場”の入口に過ぎなかった。
「天使の涙 ― 守護者」へ続く。




