天使の涙 ― 因縁の雷鳴
仲間たちが境界へと集い、静かに息を整える中、
その先で待つ“何か”だけが、確かに世界の均衡を震わせていた。
稲妻が空を裂いた。
土煙と雪の結晶、砕けた雹が雷雲に巻き上げられ、螺旋状にうねる。
その中央――頭部に三本の角を持つ影が、確かに確認できた。
ドローンの映像が乱れる。
「こいつは……やっぱり間違いない。カリースだ!」
ルクジムの奥歯が、無意識に噛み締められた。
映像に映るのは、ギャオの裂け目の中で佇む異形。
モスグリーンの肌に、赤いひび割れ。
高エネルギーの電波干渉と土煙で画像は不鮮明だが――記憶の底に焼き付いたその姿は、間違うはずもない。
最大の難敵にして、最愛を奪った厄災――カリース・ヴァングレア。
他のドローンからの映像に、大きな影がもう三つ。
「熊……?しかしあのサイズ、北極熊か!それにもう二つは……セイウチか!」
エドの声色が変わる。
「奴ら、厄介なもんを魔界印獣にしやがったぜ。しかも片方は**レッドアニマル(絶滅危惧種)**だ!」
通信機越しに、スーマの声が鋭く響く。
「オッサン、ルクジム!もう止めねぇが、体力を温存しろ!バギーを出せ!」
「一小隊はキャンプの護衛だ。エド、ミラ、ジョー、カーロスはΩブレードを携帯しろ!セシル達を頼む!」
スーマが素早く指示を飛ばす。
「Ωブレードって言っても……これ、柄しか無いぞ?」
エドが不思議そうに三人へ配る。
セシルとルクジム、ヌエのバギーは雪を巻き上げ、裂け目へと疾走する。
「ったく、あいつら少しはこっちの事も考えろ……。」
エドたちのバギーも後を追う。
「ケイト、ライアン、タイラー、ビル――QRボット散布後、念のためオメガワンで待機してくれ。」
スーマはオメガワンクルーにも指示を出す。
「……救護用カプセルに高反応リンクシステムマニュピレーター搬入終了。こっちの360度スクリーンに専門医10名待機済よ。」
リリアンの通信が入る。
(誰の命も奪わせはしない。)
ドクター・リリアンの心の声が、冷たい空気に溶けた。
「んっ、画像が乱れて見にくいが……カリースに対峙している紫色の大きな影は何だ……?」
一瞬映り込んだ映像に、スーマが息を呑む。
緊急を告げる警告灯が、激しく点滅していた。
天使の涙は、まだそこにあるのか――
それとも、すでに“誰か”に触れられているのか。
轟く大地に雷鳴が吹き荒れ、嵐が裂け目を飲み込む――
その境界線に向かうメンバーが目にするものは……。
「アルマンナギャオ ― 前章戦」へ続く。




