ゴールデンサークル(アルマンナギャオ) ― 天使の涙
穏やかな時間の裏側では、世界の均衡を揺るがす気配が密かに形を取り始めていた。
眼下に広がる雲の波が、厚いコンクリートを無造作に敷き詰めたように果てしなく続く。
その間際を飛ぶオメガワンは、後方に雲を左右に割りながら進んでいた。
ルクジムは、ヌエの提案でラボの中で座禅を組んでいた。
「月影の呪牙は、踏み込みと同時に影が一瞬ずれる技だ。だが今のお前は、その一瞬に力を込めすぎている。お前の動きは力み過ぎだ。無駄が多い。」
ヌエの声は静かだが、鋭さを帯びていた。
「それと……ここで禅を組むのが関係あるのか?」
ルクジムが疑問を投げる。
「肉体的な鍛錬は薄皮の塗り重ね。結果を得るには長い年月が必要だ。」
ヌエは続ける。
「禅を組み、己の動きを見つめ直せ。初動を力任せに頼るな。大きな動きは必要ない。自分の姿をイメージしろ。」
ヌエの言葉は、武道哲学の核を突いていた。
「要は……イメージトレーニングだな。」
ルクジムは目を閉じる。
(理解が早いな。それに素直だ。)
ヌエの口角が、わずかに上がった。
「ツーツーッ」
全員の通信機に連絡が入る。
「みんな聞いて。私の捜査で分かったことがあるわ。」
ミラの声が、全員の通信回線に響く。
「周知の通り、オルド・アークは政府機関的には異常事象対策局です。でも、その中にはオルド・アークの存在を知らない純粋な局員もいる。」
「オルド・アークという影の部分を知りながら、声を上げられない人もいます。私たちが直接戦っているのは――**パクトユニット(契約者部隊)**です。」
ミラの声は、セシルの過去を聞いた動揺を隠せず、わずかに震えていた。
「ミラ、変わるぜ!」
スーマが通信に割り込む。
「ミラの報告と、非オルド・アークの人員からの情報で分かったんだが――パクトユニット構成員は全部で7人。」
「アレクサンドロ(ミラの兄)、ネイビー、ラデム、バイパー、ファントム、そしてバレン仰。それに――カリースだ。」
スーマの声が低くなる。
「つまり、相手はもうカリース・ヴァングレアただ一人!しかし、ヤツが最大の難敵だ。対抗策は俺たちが必ず考える……ま、考えるのは主に俺様だがな!もうすぐオメガソナーも反応するだろう。気を抜くなよ!」
本部に向かう小型機から、スーマが通信で伝える。
通信を終えたと同時に――ソナーが反応した。
赤い警告ランプが点滅し、予測値が割り出される。
レイキャヴィークから約50km――アイスランド、ゴールデンサークル:アルマンナギャオ(Almannagjá)。
ソナーの反応と同時に、ルクジムの頭に映像が走った。
大陸と大陸がぶつかり、交差し合う――地球の境界線のような風景。
それぞれのプレートが、違う時間を動いているような錯覚を覚える光景。
第三の封印――『天使の涙』それは、解かれれば奇跡をもたらし、同時に世界の均衡を一つ失わせる。
「ギャオ ― 世界の分け目」へ続く。




