第1章:追放の夜
僕、ロゴは、かつて勇者パーティーの一員だった。魔王討伐という大義を掲げ、光に満ちた聖剣を振るう勇者レオン、華麗な魔法で敵を薙ぎ払う魔法使いサリア、そして……地味な補助スキル【魔素吸収】を持つ僕。パーティーの誰もが僕のスキルを役立たずだと嘲笑し、僕自身もそう思っていた。魔物を倒し、その魔素を吸収して一時的に身体能力を上げる。それだけのスキルに、何の意味があるというのか。
今日も、魔物の巣窟と化した洞窟の深部で、僕らは激しい戦いを繰り広げていた。レオンの聖剣が唸り、サリアの炎がほとばしる。僕もまた、微力ながらも魔物を引きつけ、レオンの攻撃をサポートしていた。
「ロゴ、貴様は本当に使えないな。そんな地味なスキルで何ができる?」
戦闘の合間、レオンが冷たい視線を僕に向けた。彼の言葉は、まるで鋭い氷の刃のように僕の胸に突き刺さる。サリアもまた、鼻で笑うだけだった。僕は何も言い返せない。彼らの言葉は、いつも僕を打ちのめした。
洞窟から戻った僕らを待っていたのは、無情な追放宣告だった。
「ロゴ、貴様にはもう我々のパーティーにいる資格はない。勇者パーティーは最強でなければならない。貴様のスキルでは、足手まといになるだけだ」
レオンの声は、村人たちにも聞こえるよう、あえて大きく響かせられた。村人たちの好奇の視線が、僕の全身に突き刺さる。屈辱で顔が熱くなった。サリアは「今までご苦労様」と、感情のこもっていない声で僕に告げた。彼女の言葉は、僕をさらに惨めにした。僕はただ、俯いてその場を立ち去るしかなかった。
夜の森は、昼間の喧騒とは打って変わって、静寂に包まれていた。聞こえるのは、自分の足音と風の音だけ。僕は、行き場のない怒りと悲しみを抱えながら森の奥へと進んでいく。どこへ行けばいいのか、何をするべきなのか、何もかもが分からなかった。
その時、森の奥から不気味な咆哮が響き渡った。グロテスクな姿をした魔物が、闇の中から現れる。複数いる。疲弊した体に鞭打って、僕は【魔素吸収】を発動した。魔物の魔素が僕の体へと流れ込み、一時的に体が軽くなる。僕は持っていた錆びた剣を構え、魔物と対峙した。
必死だった。追放されたばかりの惨めな僕には、生き残るという選択肢しかなかった。斬り、避け、また斬る。泥臭い戦いの末、僕は辛うじて魔物を撃退した。地面に倒れ込み、荒い息を吐く。
「くそ……っ」
全身を走る痛みに顔を歪めながらも、僕は漠然と感じていた。魔物を吸収した時の、この体の変化。レオンたちが言うほど、僕のスキルは本当に役立たずなのだろうか? もしかしたら、このスキルにはまだ、僕の知らない別の可能性が隠されているのかもしれない。
夜空を見上げた。満月が、まるで僕の行く末を案じるかのように、優しく森を照らしていた。僕は立ち上がり、再び歩き出す。この屈辱を晴らすためにも、僕は強くなってみせる。この世界に、僕の存在を認めさせてみせる。僕の旅は、たった一人で始まったばかりだった。