君に届いた紙飛行機
"学校って息が詰まる。こんなの虐待よ。教育反対!"
ミナミはふと浮かんだ思いの丈を書き殴り、その紙で飛行機を折る。
空に投げたそれはボトルメールとよく似た、けれど宛て先どころか行き先もない手紙だ。
「あ、痛っ!?」
休み時間。いつも通りぼんやりと窓から外を眺めていたミナミの額に何かが刺さる。
"虐待って何(笑) 面白い考え方すんね"
突き刺さったそれは、どうやら数学のプリント。開いてみれば、自身の丸文字とは違う硬い文字でそんなことが書かれていた。
「飛行機メール、届いちゃった……」
一言書いて、折って投げる。そんな一風変わった手紙のやりとりは、思ったよりも長く続いた。
"イミフすぎ。微積分イズ何"
"微積分イズ無限の可能性。一番楽しい分野でしょ"
文通相手のリュウキは初めのチャラそうな印象とは裏腹に、頭の良い人間だった。一方のミナミはというと、勉強は大嫌いな普通の高校生。
"模試、普通に爆死。進路どうしよう"
"頑張れとしか(笑) もし浪人したら家庭教師してやるよ"
"いや、むしろ今やって!?"
今時友人同士でだって滅多にしない文通。それを声も知らない相手としているなんて変な話だ。
それでも文字から伝わるリュウキの人柄に、ミナミは少しずつ惹かれていった。
"ねえ。卒業式の日、会ってみようよ"
何度も書き直したその言葉。ようやく送れたその紙飛行機は、書いた事を後悔し始めた頃になってようやく返事が来た。
"良いよ。なら放課後、ミナの教室で待ってて"
「とか言ったのに。いないじゃん!」
当日、待ちぼうけを食らったミナミは口を尖らせながら机に突っ伏す。
珍しくミナミが呼んで欲しいと伝えたあだ名で手紙が来たから期待したのに。
「アホらし。帰ろ」
「美園美波ーーミナ、か」
その時、聞き覚えのある先生の声と共に頭に何かが突き刺さる。
「痛!? って、え?」
「学生時代に文通していた相手が、まさか未来の生徒だったとはな」
先生の言葉に、美波は初めて思い出す。
「佐竹……リュウキ先生」
やや気恥ずかしそうに笑った先生の顔は、文字の先に見た彼のイメージそのものだった。
「うっかり何年も探しちまったよ」