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第一章 空き家の中の住人・3

『藤原くんは、なんで日本縦断しようと思ったの? 自転車じゃなくても電車とか。ほら、青春18きっぷの旅とかあるじゃない? それでも良かったんじゃないの?』

「だよなぁー。電車で充分だよ。鉄道も北から九州まで通ってるわけだしさ。今からでも遅くないから電車にしろ、藤原青年!」


『えっと、電車だとちょっと……』

『電車がダメな理由って?』

『ダメじゃないんですけど。僕、自分探し? っていうか、そういうのしたくて。いや、自分探しっていうとカッコいいんですけど、僕って何にもないなって思って』

『なんにもないって、どういうこと?』


 レポーターが食い気味に質問をする。


『京大に入るためにがむしゃらに勉強してきて、入学出来たんですけど。合格するって目標を消化して、この2年ちょっと目標もなく単位落とさないように講義を受けてて』

『うん。それで?』

『結局、趣味もないし、大学卒業したらこういうことをしたいって目標もないし、あっ、優しく包んでくれる彼女もいないし』

『それがなんで日本縦断に結びつくの?』


 彼女のくだりはウケると思って話したのだろうが、見事にリポーターにスルーされ苦笑いをしながら藤原青年は質問に答える。


『なんか成し遂げたら違う世界がみれるかな、って。それに、日本って何気に北から南まであるじゃないですか気候もそれぞれ違って。僕、福井出身なんですけど、福井や大学のある京都はそれなりに知ってますけど、他はあんまり知らなくて。知りたいって思ったんです。せっかく日本に住んでるんですから、日本を肌で感じたくて』

『やっぱり頭良い子の考えてることは違うねぇー』

『その土地土地の美味しいものを食べられたらいいなって、まぁ、それが本音かもしれないです』


 伊吹は、藤原青年の言葉を反芻する。


「日本にはその土地土地の美味しい食べ物がある……」


 東京に住んでいれば、日本全国の食べ物を簡単に食べることが出来る。けど、それは東京で食べる味で。

 現地の食材で、現地でしかわからない郷土料理、そしてその土地に住む人に直接美味しいものを教えてもらう。なんて魅力的なんだろう。それに解雇されて休職中の自分には時間はたくさんある。藤原青年に倣って日本縦断、いや47都道府県制覇というのはどうだろうか。

 キャンピングカーがあれば、ホテルに泊まらなくてもそこで寝泊まりが出来る。


「よし、まずは資金がどれだけあるか……」


 幸い、これといった趣味もなく将来の店の開店資金を貯めるために生活費以外はあまり余分な買い物をしてこなかった。いままでの貯金でキャンピングカーの購入費と当面の生活費くらいはどうにかなるだろう。お金が足りなくなってきたら現地で日払いのバイトでもしたらいい。

 そう思い伊吹は、引き出しに入れていた通帳を取り出す。


「えっと、いち、じゅう、ひゃく……250万か」


 新車は無理でも中古車のキャンピングカーくらいは買えるかもしれない。さっきまで転職サイトで飲食店を物色していた画面を切り替え、キャンピングカーの検索を始めた。すると顔がどんどん曇っていき、眉根を寄せ渋い顔になる。


「キャンピングカーってこんなに高いのか?」


 今暮らしているこの部屋の家賃に、食費を抑えたとしても悠々自適にキャンピングカー生活を送れるわけじゃなさそうだ。それに、日本全国の美味しい食べ物巡りに出かけるのに食費を抑えることを第一に考えるなんて本末転倒だ。

 頭の中で生活費、食費、キャンピングカーの費用をざっくり計算する。それに終わって戻ってきた時にすぐ就職できるとは限らない。出来るだけお金は残していた方が賢明だ。


「せっかく久々にワクワクしたのになー」


 ふたたび布団に寝転びスマホを両手で抱え、グルグルと寝返りをうつ。


「でも、日本全国津々浦々の郷土料理とか、食材は気になるよなー。あのひょろっひょろメガネの藤原青年ができて、同じ藤原が出来ないはずはないよな。重い鍋やビールケースを持った腕に、何時間もの立ち仕事に耐えられる足もある」


 謎理論だが、伊吹はうんうんと何度も頷き、キャンピングカーのサイトからロードバイクのサイトに切り替える。

 キャンピングカーが150万くらいだったのに対し、バイクは5万から10万弱で収まりそうだった。


「自転車にキャンプ用品とか全部揃えても余裕だな。でも、かかる期間が長くなっちゃうな……家、どうすっかな」


 退去してまた半年後に戻ってきた時の初期費用を考えると、このままでいいのかもしれない。途中で断念して自宅に戻ってくる可能性だってある。伊吹は、家はそのままにすることにした。


「よし、そうと決まったら準備しないといけないものとか、どういうルートで回るかきめないと!」


 寝転んでいた体を起こし、近くにあったメモ帳とボールペンで調べたことを書き始めた。

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