助けを求める声に②
*この小説はフィクションです。
橙色に光っている建物がある。中からは大声で助けを求める声が聞こえてくる。建物の前には消防隊が消火の準備をしていた。
その少し離れたところには野次馬に混ざっている馨が立ち尽くしていた。黙って見ていたが、助けを求める声が耳に入り、我にかえる。
「助けなきゃ」
ぽつりと呟くと、一歩を踏み出す。消防隊の目を盗み、建物へ進もうとした。
その時だった。消防隊の一人に見つかってしまった。
「君、下がってなさい。ここは危険だ」
それでも馨は振り払おうとするが、未成年。鍛えられた大人の力には敵わない。押し戻されてしまった。
そんな時、馨を呼ぶ声が響き渡る。
馨は驚いて、思わず振り返る。野次馬を掻き分けて進んでくる治人の姿が視界に入った。
「治人さん」
自然と言葉が流れ出る。馨は俯きながら、治人の方向へと進んでいく。途中、治人と会うことができたが、馨の目から涙があふれていた。
その理由は途中で女性が運び込まれたのを見てしまっていた。様子からぐったりしている状態だった。すぐに担架で運ばれていった。
その後の救助活動は終わったらしい。おそらく、馨が助けを求めていた声の女性は最後に救助されたのだろう。
助かってほしい、その思いで治人のところへと向かったはずだったのだが、嫌な予感が脳裏をよぎった。
治人と会った馨は何も言葉が出なかった。
「馨くん、行きましょう。二人に合流しましょう」
その言葉を合図に、馨と治人は現場を離れる。
治人は歩き出すが、馨は辛い過去と目の前の現実が重なって立ち止まってしまっている。治人が馨の背中を支えて、ゆっくりと進んだ。
二人は無事に寧々と探に合流した。然し、なんだか二人の様子がおかしい。
暗い表情をしている。
「どうしたのですか?」
治人が声をかけると、探が何か言いかけた。言葉を飲み込んだ。とても悩んでいるように見える。
治人は不思議に思い、辺りを見渡す。辺りは怪我人が多くいるが、ほとんどが付き添いがいる。何も問題がないように見えた。
それにも関わらず、寧々と探の顔色が曇っている。
「大丈夫で、」
「治人さん、ついてきてくれる?」
再び治人が声をかけようとしたとき、不意に寧々が静かに声をかけた。
治人は返事をし、馨とともに寧々たちにある場所へと誘導された。
寧々たちに連れてこられた場所。そこには男性が倒れていた。寧々と探は治人に経緯を説明する。
最初に寧々が気づき、探を呼んだ。
酷くぐったりしていたが、呼吸と脈拍はある。助けられる。そう思い、自分ができることをやってみたという。
探も加わり、二人で応急処置をした。然し、男性は意識が戻らず、浅い呼吸を繰り返している。
なんとか頑張って二人は処置を続けた。それでも、良くならない。
諦めてその場を離れたところ、治人と馨を見かけたという。
「とにかく、私ができることをしてみます」
治人は言葉にすると、男性の様子を確かめる。すぐに応急処置を始めた。
黙って見ていた二人は戸惑いを見せる。寧々の視野に茫然と立ち尽くす馨の姿が目に入った。馨は元気をなくしている。
「馨、大丈夫?」
寧々は声をかけたが、返事が返ってこない。相変わらず、俯いたままだ。
「ねぇ。馨の様子、変だよ。もしかして、」
寧々がひそひそとささやく。探は振り向きもしない。その理由は探の視線の先に治人が処置する男性が映っている。
探は考える。もし、男性の体に触れて能力を使えれば、少しは役に立てるのだろうと。
今は能力を使ってはならない。美鶴から能力の発動を禁止されている。代償があまりに大きくなり、体に負担がかかってしまうからだ。
黙って見ることしかできない。探の様子を察した寧々は探の腕を掴む。
探は寧々に心配そうに見られていたことに気づいた。
「私たちにはできなかったけど、治人さんに任せれば大丈夫だと思う」
探は否定の言葉を飲み込んで、そうだよねと返した。
「それより、馨の様子が変だよ」
不意に探は馨のほうを見やる。馨は俯いている。
「馨、どうしたんだよ」
心配そうに馨に声を掛ける。
寧々は探にひそひそと耳打ちをする。寧々の言葉を聞いた探は心配そうに馨を眺める。
探が馨に触れようとしたとき、馨がその場を離れようとした。
咄嗟に馨が掴もうとするが、届かない。馨は走り去っていった。
探はその後を追いかけていく。
「二人とも!」
寧々が呼び止めるが、あっという間に二人はその場からいなくなってしまった。
寧々は治人と二人が向かったと思われる方角を交互に見る。
「あの二人は大丈夫です。寧々さんはこっちを手伝ってくれませんか? 私一人じゃ難しいかもしれません」
「は、はい」
治人に声をかけられ、二人を余所に寧々は治人を手伝うことにした。
*
走り出していった馨が足を止める。その間に探に捕まった。
「どうしたんだよ。何があったんだよ」
探は心配そうに馨に声を掛ける。馨は答えない。掴まれていた手を振り払った。
不意に雫が地面にぽつりと落ちる。
「探には、悔しい気持ちが分からないだろ。目の前の助けられたかもしれない人を助けられなかった悔しさが、」
「知ってる。あの時、俺たちは風粏を助けられなかったでしょ。今でも思い出すときがあるんだ。でも、落ち込んでたら風粏のためにならない。だから、俺だって、」
言葉が切れた。
ぽたぽたと涙を落とす。
「悪い。俺、何も考えずに。戻ろう」
馨が静かに言う。二人は慰めながら、風粏がいた頃のことを思い出しつつも治人と寧々がいる場所へと戻っていった。
次回の更新日は3月26日(木)の予定です。
*時間帯は未定です。




