仲間のために
*この小説はフィクションです。
阻止する者の住処内。室内がしんとしている。ただ、時計の針が動く音だけが聞こえてくる。
司と隼人がアジトを出てから数日が経過していた。未だに戻ってこない二人を待つことしかできない彼ら。会話が続かないが、美鶴と逸樹は違った。
逸樹は隼人と話し合ったことを美鶴に話した。
「僕、過去を変える人たち側にいたから、隼人さんに情報を教えたんです。隼人さんは僕たちといた人たちの居所を突き止められないって話してたんですが、」
説明するように話をしていたが、途中で言葉が途切れてしまう。美鶴は無理に話を進めようとはせず、言葉を待った。
逸樹は一度、言葉をひっこめたものの美鶴に伝えた。
逸樹が言うには変える者たちは居場所を転々としているらしい。変えたい者たちに出会いやすくするために居場所を変える。
彼らの目的の一つは過去を変えること。そのためには阻止されない方がいいのは当然。見つからないためには居場所を変える必要があるのだ。
そのことを伝えるのに少し躊躇っていた。
「逸樹くん。もしかしてだけど、弱味を握られてたりするの?」
逸樹は美鶴の言葉に遠くを見つめる。美鶴は何も言わない逸樹に守ってあげるから大丈夫よと声を掛けた、その時だった。
突然、駆けてくる足音が聞こえてきた。
逸樹と美鶴の場所に隼人が入ってくる。
「美鶴さん、司さんが負傷してます。お願いします」
深刻な表情で伝える隼人に美鶴は慌てた様子を見せ、すぐに医療器具を用意して飛び出していった。
美鶴が出入り口付近まで来ると、司はいなかった。辺りを見渡してもいない。後を追うように後ろからきた隼人が美鶴を呼んで司が居る場所へと案内した。
進んでいる方向に美鶴の表情が見る間にこわばっていく。歩を速める速度が上がっていく。
その場所までやってくると、隼人が言葉を発する前に美鶴は入っていった。
「司ちゃん、何があったの?」
美鶴が寂しそうに見える後ろ姿に一声かける。司は何も答えない。ただ一点を見据え、不安そうな様子をしている。
司の目線の先、流の遺体があった。遺体は包帯を巻かれている。司が少し解いたようなのか腕が見えていた。
透明化は進んでいないものの透けている状態は変わらない。
「司ちゃん」
もう一度、美鶴は呼びかける。司は後ろを振り向くことなく、美鶴さんと発した。
「隼人と一緒に二丈財閥の秘密の場所に行ったんだ。途中で流が現れた。おそらく、奴らが過去から連れてきたんだ」
起こった事を淡々と話す司に美鶴は黙って聞いていた。話が終わると、流に視線を向ける。
遺体は透けているものの確かに存在している。然し、司の話も事実なのだろう。
美鶴は司の言葉を待った。
「流を説得できなかった。その後、梢さんのことを聞いたら別れたと言った。その後、混乱したのか暴れ出した。おそらく、記憶が関わってるんだ。今と過去の流の進む道が違ってる。だから、目の前の流は、」
司は落ち着いた雰囲気で話していたが、不意にくすんと鼻をすする音が聞こえてきた。美鶴が何かを言いかけたときだった。
「流の火葬は、いつですか。早く、」
「私たちは能力者。こんな状態じゃ今は無理だわ。もう少し待ってほしい」
司は肩を落とした。これ以上の言葉が美鶴には見つからなかった。静かに司の肩に手をのせ、ぽつりと詫びの言葉を漏らすと、静かに去った。
美鶴が司から離れて歩き出すと、隼人が美鶴を呼んだ。美鶴は振り返らず、歩き続けている。
「見てほしいものがあるんです。二丈財閥の資料です」
美鶴は一度立ち止まる。然し、美鶴は振り向きもしない。今はそれどころではない状況。
司が予想以上に精神的に追いつめられている。その事を考えれば、それどころではなかった。
再び歩き出し、隼人から話を聞くのをやめた。
「司さんの代わりに役に立ちたいんです。お願いします」
「ごめんなさい。もう少しだけ待ってほしいわ。二丈財閥のことなら司ちゃんも知ってほしいの。今はそんな状況じゃないから、司ちゃん抜きではできないの」
それでも、隼人は諦めなかった。美鶴の前に資料を突きつけ、必死に訴える。
申し訳なさそうに話す美鶴の表情が変わった。隼人の強い気持ちに美鶴は気持ちが動かされそうになるのをぐっと押さえる。
司と流が親しそうに笑い合っていた頃を思い出す。その記憶を思い出すと、どうしても前に進むことができなかった。
「ごめんなさい」
たった一言、言葉を発してすたすたと立ち去っていった。
隼人は去る美鶴の後ろ姿を見据えながらも、悔しそうに唇をかみしめる。
「俺が、なんとかしなきゃならないんだ。司さんのためにも、」
誰に言うともなく呟いた直後、不意にそれは起こった。
今までよりも大きい揺れが発生した。隠れ住処内の警告音が鳴り響く。
誰もが危機を感じるだろう。然し、誰も焦りはしない。なぜなら、彼らは能力者。
何が起こってもいいように訓練されている。
「探、救護セット持ってるよね。貸して」
「癒維さんがいるじゃん。癒維さんに頼めばいいんじゃない?」
寧々と探が口々に言葉にする。その会話を耳にした癒維は二人に近づく。
「寧々ちゃん、もしかして外に出ようとしてるよね。勝手な行動はしないで。まずは美鶴さんに相談しなきゃ」
癒維の言葉に寧々は分かったと答えた。
探は寧々がしようとしていることに呆気にとられて口をあけている。
暫くして、警告音が収まった。
次回の更新日は3月5日(木)の予定です。
*時間帯は未定です。




