身近な者の死
*この小説はフィクションです。
美鶴は急いで隠れ住処に戻ってきた。司の姿を見つけると、真っ先に駆け寄る。
司は振り向いて美鶴に視線を向けた。何か良くないことだと予感した。その理由は美鶴の表情が険しいからだ。
美鶴に呼ばれ、何もない場所へと誘導された。司は黙ってついていくだけ。嫌な予感はしている司だが、内容までは分からない。そのせいか、不安が募っていた。
不意に司はごくりと唾を飲み込んだ。
突然、美鶴が立ち止まる。再び、司が唾を飲み込む。
「落ち着いて聞いてちょうだいね。武蔵さんが、」
美鶴は言葉を切り出すと、何があったかを司に説明した。
武蔵が倒れていること。容体を確認したが、手遅れの状態だったのだ。
司は衝撃を受けた。顔を曇らせ、落ち込んでいる様子を見せている。
美鶴は不安な表情をしつつも、声を掛けようとした。
「美鶴さん、教えてくれてありがとう。武蔵の思いは、やはり阻止する者に、あったんだな」
司の言葉に美鶴が言い直そうとしたが、司の表情を見て、言いかけた言葉を押し戻した。
司の目から涙があふれていたのだ。
「少し休むといいわ。その間、私は勇輝くんたちを捜してくるわ」
「休んでいる余裕はないです。俺も、」
美鶴の言葉に答えようと、司の口から出た言葉が途切れてしまった。美鶴に手巾を渡されて気付いた。
「俺、こんなつもりじゃ……」
「無理もないわ。立ち続けに大切な人を二人も亡くしたんだもの。ゆっくり休んで後は任せて。その代わり、あの子たちをよろしく」
美鶴は言葉を残して、その場を去ってしまった。
司は受け取った手巾で涙を拭いながら美鶴を見送ったのだった。
*
隠れ住処を後にした美鶴。彼女が向かった先はとある場所。
司には勇輝たちを捜してくると伝えていたが、勇輝たちの居場所に心当たりがあった。
隠れ住処から少し離れた場所。
そこは鳥肌が立つほどの気味の悪さを感じさせる路地裏。美鶴は過去に来たことがあった。
まだ戦いが始まる前に。
突然、美鶴が来ることを待っていたかのように誰かの姿が現れた。狂だ。
狂は美鶴の姿を目にして不敵な笑みを浮かべている。
「まさか、ここに来るとはな。泰我と同じ運命を辿ることに、」
「兄さんの話はやめてちょうだい。私はそっちにつくつもりはないわ」
美鶴には兄がいた。彼は誰に対しても優しかった。然し、その優しさから狂に利用され、変える者になってしまった。
本当の理由を知るまでは美鶴は兄である泰我のことを許せなかったのだ。
本当の理由を知るまでは。
美鶴の言葉に狂は思わずにやりと笑った。きつく睨みつける美鶴だが、狂は平然としている。
「そうだろうな。そっちの最高者がいなくなって大変だろ」
狂の言葉に美鶴の怒りがふつふつと沸き上がる。同時に、纏っている気配を放つ。
それでも、狂が怯むことはない。怒りが頂点に達しようとした時、狂が千堂勇輝と名前を発した。
「誰よりも良い能力を持っているやつだ。利用させてもらうぞ。ハハハ」
その瞬間、ついに美鶴の怒りが爆発して狂に襲いかかった。然し、攻撃は狂に当たらない。躱されたのではない。
狂の体が透けていたのだ。
「まぁ、そう焦るなって。代償が少ない能力者といえども体に負担かかるぜ」
「うるさい。勇輝くんはどこなの!」
美鶴が大声をあげると、狂は姿を消してしまった。
当然、美鶴の怒りが鎮まる。一度、深いため息をつく。少しずつ冷静さを取り戻していった。
「大丈夫。絶対、連れ戻すから」
誰に言うともなく言葉を呟いて、その場を引き揚げた。
美鶴は隠れ住処には戻らず、渡り歩いていた。
その間、ある記憶を思い出していた。
『美鶴。今まで、悪かっ、た。詫びと、して、俺の、能力、渡す、から、後は、』
苦しそうにしながら、泰我が美鶴に託した最後の言葉。泰我は息を引き取る前にある方法で美鶴に能力を譲った。
その方法は泰我しか知らない方法でもある。そのおかげで、美鶴は泰我の能力、自分から放つことができる雰囲気を纏うことになったのだ。
美鶴にとっては兄の最期の姿は何十年経っても、頭の中にしっかりと焼きついている。その姿を見た後、世界を変える悪の組織にいた姿から見方が変わったのだ。
優しすぎるからと利用されたのだと美鶴は思うようになった。
そんなことを考えていると、負の連鎖に陥ってしまうと思い、振り払った。
「とりあえず、勇輝くんたちを見つけなきゃ。あの人に託されたからには守らないといけないのよ」
独り言を呟くと、勇輝たちを捜しにいった。
勇輝たちを捜索してから約三〇分後。
ある場所にたどり着いた。先ほどの不気味さを感じさせていた路地裏と似たような場所だ。
より一層、不気味さが漂っている。
そこに聳え立つ廃墟らしき建物を美鶴は見上げる。言葉を発さずとも異様な空気を感じる。
美鶴は足を踏み出し、建物の中へと入っていった。
中に入ると、人気を感じないほどに周囲が静まり返っている。一瞬、身震いしてしまいそうだが、美鶴は物怖じない。
不意に誰かの気配を感じ取る。
「運が良かったのね。それで、勇輝くんたちはどこに?」
美鶴が後ろを振り向かずに声をかける。
「答えると思うか? ここに来たなら分かるだろう」
美鶴は険しい表情を浮かべる。直後、背後にいた斉が襲いかかろうとした。
美鶴が素早い動きで躱し、すぐに斉の後ろに移動した。
「勇輝くんたちを返してもらうわよ」
「そうはさせ、るか」
美鶴の行動に反応する斉だが、不意に身動きができなくなる。その理由は美鶴の異様な雰囲気に怯んでしまったのだ。
言葉が途切れ、額に冷や汗を滲ませる。一度戦ったときより美鶴の強さに圧倒されていた。
「教えなさい。やられたくないなら、ね」
得意げに言葉を発すると、斉を追い詰めた。斉は追い込まれる状況だが、能力を発動する。然し、美鶴のただならぬ雰囲気は放たれたままだ。
「無駄よ」
美鶴が言葉を言い放つと、斉は勇輝たちの居場所を教えた。
次話更新日は12月11日(木)の予定です。
*時間帯は未定です。




