失われた逃げ場
*この小説はフィクションです。
勇輝と御角が変えたい者を見つけてから数時間が経った頃。
彼らは意識を失い、連れ去られてしまっていた。
理由は狂が現れたからだ。狂は瞬と対面していた勇輝に用があった。利用するために。
不意に勇輝は目を覚ました。辺りを見渡し、様子を確かめる。軽く手足を縛られて動くことができない状態。自由が利かない。
それでも、どうにかして辺りを見回してみる。
近くに御角と瞬が倒れているのを目にする。それ以外は何もない。
勇輝はどこかに閉じ込められているような感覚を覚える。
とりあえず、二人に近づいてみた。二人とも勇輝と同様に手足を縛られている。
小さな声で呼びかけてみるも反応がない。気を失っている。
勇輝は手足を縛られている状態ながらも、自力で体を起こそうとした。
「目、覚めたか。残念だが、逃げられない」
見覚えのある声に顔を向けると、狂の姿が勇輝の目に映る。彼は表情に余裕を見せている。
彼にとって勇輝を手に入れることが目的の一つでもあった。その理由は勇輝にしかない能力『記憶』が関係している。
そんなことも知らず、勇輝は狂から少しも目を離さない。少しでも視線を逸らせば、身に危険が及ぶと感じていた。
勇輝と狂の視線が合う。その瞬間、勇輝の頭に脳天を撃ち抜かれたような鋭い衝撃が走った。
ある記憶が流れ込んできたのだ。
『お前の父親を殺したのは俺だ』
思いも寄らない言葉が脳裏を横切る。はっとして我に返り、狂を見やった。
狂は不敵な笑みを浮かべ、勇輝を見つめている。突然、勇輝の頭に痛みが襲う。咄嗟に目を瞑った。
その間に狂はその場から去ろうとする。
「待って」
勇輝が声を掛けようとするも届かず、再び勇輝は気を失った。
それから一時間が経とうとしていた。勇輝は意識を取り戻した。
「あ、起きた」
声のほうを振り向くと、御角がにこっと笑っていた。彼女の手足は自由だ。一定の距離を取っている瞬も同じ。
「そんな深刻な顔する必要ある?」
黙っている勇輝に苛立ちを覚え、ため息をつく瞬を御角がきっと睨みつけた。
「目が覚めてこんな状況だよ? 誰でも混乱するでしょ。頭悪いの?」
「は?」
今にも戦闘が始まりそうな二人のぴりぴりとした雰囲気に勇輝は気まずい顔をした。
「こんな時に喧嘩はよくないよ」
勇輝が言葉を発すると、二人は勇輝を刺すような視線を向ける。
勇輝は視線を逸らしてしまったが、あることに気づく。自分の手足も自由だということ。
いつ解けたんだろうと考えていると、瞬が眉をしかめて勇輝を見ていた。
「知ってるっていうこと? 解くの簡単じゃん」
黙り続ける勇輝に疑い深い目で眺める。
瞬の視線に勇輝は笑顔を取り繕った。心の中では能力者によって拘束されたなら、簡単じゃ解けないよと呟いていた。
そんなことを考えつつ、瞬を心配そうに見る。
「それより大丈夫なの?」
勇輝の言葉に瞬は睨む。勇輝が心配するのには理由がある。
勇輝の記憶の中では瞬が行方不明で生きてるのかも分からない状況だったはずだった。
突然、勇輝の頭に痛みが走る。
勇輝の頭の中に記憶が流れてきた。ペンダントを瞬に見せ、力弥が死んだことを伝えている。
然し、瞬は聞き入れずにペンダントを潰したのだ。
「ペンダント……」
思い出したようにぽつりと呟く勇輝の様子に瞬は軽く舌打ちをした。
勇輝が持っていたペンダントは瞬によって破壊された。それがきっかけで勇輝は覚醒したのだ。
過去に瞬と対立した時のように、一瞬にして態度が変わったかと思えば、とてつもない力を発揮した。
それはまるで心に秘めていたモノが呼び起こされたかのように。
そんなことも知らない二人。
咄嗟に瞬が身構える。然し、勇輝はきょとんとしている。瞬をじっと見つめた後、頭を抱え込んだ。
衝撃を受けたような頭痛に襲われていた。次第に痛みが強烈になり、叫びをあげる。
異様な光景に瞬は不安そうに周囲を見回す。
ここは変える者の住処の一部。瞬も御角も知っている場所。
勇輝の体調よりも誰か来るのではという不安を募らせる。
「ねぇ、このままじゃ誰か来るんじゃない? どうすんの!」
御角が混乱して思わず声をあげるが、誰かの殺気を感じて表情を変える。咄嗟に扉の方向に目を向けた。
斉と剣十がいた。二人の視線が刺さった御角は少しずつ後ろへと下がる。
「どうして、いるんだよ……」
「何を今更。裏切った者が言うことか?」
御角の言葉に斉が言葉を吐くように口に出す。
斉は変える者。御角も同じ組織の一員だった。
だが、御角は敵であるはずの阻止する者の勇輝と一緒にいる。
当然、斉からすれば御角は裏切り者だ。斉は御角を睨みつけ、攻撃を仕掛けようとした。
咄嗟に勇輝が御角を庇うように守った。
「女の子に手を出しちゃいけない。たとえ、裏切り者だとしても」
斉は勇輝の言葉に苛立ちを覚え、勇輝を睨みつける。勇輝の真っ直ぐな眼差しに大きなため息をついた。
直後、瞬を無理やり捕まえると、連れて行ってしまった。
後を追おうとする勇輝だが、剣十に立ち塞がれてしまう。
「退いて!」
大声を出すが、剣が振り翳される。瞬時に躱すことができたものの再び剣十が行く手を阻む。
「抵抗すれば、斬りつける」
勇輝の心に悔しさが滲んだ。
*
勇輝たちに危機が訪れようとしている頃、美鶴は勇輝たちを探しにはいかず、ある場所へとたどり着いていた。
以前、武蔵が狂を阻止しようとしていた場所だ。その時に逸樹と美鶴も一緒にいた。
狂から逸樹を守っていた美鶴を助けるために武蔵が代わりにこの場所に残った。
だが、武蔵は倒れている。美鶴は駆けつけ、呼びかけたり、体の具合を見たりと状態を確かめる。然し、反応がない。
美鶴は顔を曇らせる。辺りを見渡した。最悪な状況ねと言葉を呟き、その場を離れた。
次話更新日は11月27日(木)の予定です。
*時間帯は未定です。




