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大きな代償の結末

*この小説はフィクションです。

 流が亡くなって数時間。

 漸く、隔離された部屋から出てきた癒維と美鶴。美鶴は癒維を宥め、ある場所に向かった。

 癒維は黙って美鶴についていく。よく見ると、癒維の目元が赤く腫れている。悲しみで涙を流したのだろう。

 思いをずっと抱いてきたのだ。無理もない。

 彼女たちはすぐに目的の場所に着いた。そこには司と探がベッドに座っていた。

 美鶴が来たのを察して、司は顔をあげる。癒維の様子に気付き、寂しげな表情をする。

「司ちゃん、来てくれる?」

 美鶴の言葉に答えることもなく、腰を持ちあげた。

 司の隣に座っていた探が声を出そうとした瞬間、美鶴に断られてしまう。

 どうしてと問いかけるが、答えは返ってこない。不意に司が探の肩をぽんと軽く叩いた。待っていてくれと声を掛けて、美鶴たちと一緒に行ってしまった。

 探が追いかけようとすると、誰かに腕を掴まれる。

 馨が真剣な眼差しで見ていた。

「俺たちは行っちゃ駄目だ。いいと言われるまで待とう」

 馨の言葉で探は仕方なく諦めた。奥へと移動している司の背中をじっと見つめていた。



 司は美鶴と癒維とともに流が居る場所へとやってきた。正確には亡き流がいるところ。

 白い布を被せられている流の亡骸があった。

 三人は無言のまま、流の周りを囲うように位置につく。

「流ちゃんを助けられなくてごめんなさい。でも、」

 美鶴は言葉を発する。言葉が途切れた瞬間、司が分かってると答えた。

「流が望んだことだろ。それなら、それでいい。楽になってたら、いいんだ」

 司は言葉を吐き出すように話し、目を瞑る。黙祷を始めた。

 心の中では悔いていた。自分に何かできることがあったのではないか。無理をさせてしまったのが悪かったのかと。

 唯一の同じ年の能力者。司にとっては相棒と言えるほど、大切な存在だった。


 不意に美鶴が流の体と顔に掛けてあった白い布を捲り始める。

 目を開けた司が驚きを見せた。

 流の遺体が変色していたのだ。その色は死後に起きる死斑の色とは違かった。

 通常、死斑の色は紫から赤紫色。然し、流の体は血のように所々が赤い。切り傷のような痕は見えない。

「これって、まさか……。亡くなっているんだよな?」

「そうよ。体を拭いてあげたけど、落とせなかったの。恐らく、代償。流ちゃんはこの症状を予想していたの。あの子たちには混乱しないように見せないでくれと頼まれたわ」

 美鶴は司の疑問に答え、目を開けない流を見つめる。彼は美鶴にしか言えないほど色々と苦しんできた。その苦しみを知っている美鶴だからこそ、心の中ではずっと心配してきた。

 手紙を渡されたとき、美鶴は流が苦しみから解放されたのだと察した。

「癒維ちゃん、手紙を司ちゃんに渡してくれるかしら」

 その言葉を合図に癒維はポケットから預かった手紙を取り出し、司に渡した。

 司は受け取ると、声に出さずに読み始める。険しい表情を浮かべ、流に視線を移す。

「美鶴さん、流の姿を見せよう。あいつらは大丈夫だ。生まれ持った能力者なんだ。理解できるさ」

「でも、」

 司が言葉を切り出した。戸惑いを見せたのは美鶴ではなく、癒維だ。

 癒維は流の思いを捨てたくなかった。流が願っているこそ、守りたいのだ。

 然し、司は流の思いを気に留めず、若い彼らにも大丈夫だと判断した。

 美鶴は黙っている。癒維は美鶴が許可しないようにと願った。

 三人の間に気まずい空気が流れ出す。


 悩む美鶴を他所に司は隔離されている内側から外側をそっと見やる。遠くからでは分かりにくいが、彼らはじっと待っているようだ。

 不意に探と視線が合い、探の不安そうな表情を目にした。

「呼びましょう。あの子たちなら、きっと大丈夫」

「美鶴さん!」

 美鶴の許可に癒維が反応する。癒維にとっては流の思いを優先してほしかった気持ちで悔しさが込み上げていた。

 必死に涙をおさえた。美鶴が癒維を落ち着かせる。

「大丈夫よ。流ちゃんなら分かってくれる。そういう性格よ」

 それでも、癒維はやり場のない悔しさからその場から去ってしまった。

 心配そうな表情を浮かべながら、癒維が出ていった方向を見つめる美鶴だが、目を開かない流の顔に視線を向ける。

 心の中で御免なさいと呟いた。本心は流のことを一番に考えたかったのだ。

 それにも関わらず、呼ぶことを決めたのは彼らが流の体の変化を見ても大丈夫だと信じることにしたからだ。

 普通ならば、探たちは中学生。隼人は高校生だ。

 驚きはするだろう。能力者である限り、代償はつきもの。ただ流の能力の代償があまりにも大きかった。


 すぐに司が彼らを連れてきた。逸樹を除いた探、馨、隼人の三人。

 逸樹は能力者ではない。それに加え、元変える者(ブラックチェンジャー)でもある。

 そのため、流とは関わりがない。医療隊員たちと待機している。

 寧々は外側から顔を出すだけ。去っていた癒維の様子を見て、只事ではないと察したものの、来てもいいのか躊躇っている。

「揃ったわね」

 美鶴は辺りを見渡し、みんながいることを確認する。寧々にちらっと視線を移し、入ってくるように呼びかける。

 流の過去と死を一通り説明し終えると、彼らの不安な顔を目にする。然し、すぐに表情が変わった。

 美鶴は流の遺体の前と移動した。布を取り、顔と体の一部を彼らに見せた。

 顔は優しく微笑むような表情をし、体は赤く変色している。

 次第にくすんと鼻をすする音が聞こえてきた。

「流さん、天国で彼女さんと会えてるのかな。そうだといいな」

 寧々が涙目になりながらも静かに呟く。寧々の言葉に美鶴がきっと会えてるわと答えた。

 その後、彼らは黙祷し別れを惜しんだ。


 一通り終え、その場を離れようとしたときだった。

 突然、大きな音が響いた。司と美鶴はお互い目で合図を送る。念のため、未成年者や流を守る体勢を取った。

 然し、すぐに音が収まった。それでも、周囲を警戒している。

「そういえば、勇輝がまだ戻ってきてないな。何かあったんじゃないか? 様子を見に行ったほうが、」

 司が思い出したように言葉にしたときだった。美鶴がその場から飛び出していった。

 その場から離れる前に司に後を頼んだ。

 そのまま、勇輝を探しに外へと出ていってしまった。

次話更新日は11月13日(木)の予定です。

*時間帯は未定です。

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