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最善策

*この小説はフィクションです。

今回は流血シーンがあります。苦手な方はブラウザバックでお願いします。

 流のところに駆けつけた美鶴と司。二人は流の姿に驚いている。

 それもそのはず。彼の片方の手の平に血がべっとりついているのを目にしたからだ。加えて、激しく咳き込んでいる。とても苦しそうにしながら下を向いていた。

「流ちゃん」

 美鶴が側に駆け寄り、診察を始めようとした。

 然し、服をまくし上げる直前に何かに気づく。それは司も気付いたようだ。

 その変化は分かりやすい。僅かだが、流の服が赤く染み込んでいる。

「診察させてもらうわね」

 美鶴が言葉を発した途端、流は服を脱がされまいと必死に服を押さえる。

 美鶴は違和感を抱き、険しい表情をする。

「流ちゃん、お願い。あなたを助けるためなの」

 それでも、流は服を押さえ続けている。何かを隠すように。

 その間にも服が赤く染まっていく。

 流は咳き込むばかりで言葉を発さない。

「流、頼む。苦しむ姿を見たくないんだ」

 司が気持ちを言葉にして伝えると、流は服を押さえるのをやめた。

 こんな状態になっていることに二人は理解できない。

 恐らく、理解できるのは流だけ。流は苦しそうで話すことができない状態。

 そんな流を気にせず、美鶴は黙って診察をし始める。


 上半身の服のボタンを外すと、二人は目を丸くして驚いた。

 流の体から血がにじみ出ているのか、赤く染まっている。負傷していたが、その傷や怪我は既に治っているはず。一瞬、理解が出来ず、二人は固まってしまう。

「なんだよ、これ……」

 司は思わず言葉を口に出す。今までの流で血を流したような姿はなかった。いや、誰にも見せないようにしていたのかもしれない。

 司が唖然とする中、美鶴は処置をする。美鶴の頭の中で『代償』という言葉が浮かぶ。

 それが本当のならば、ある決断をしなければならない。

 危険リスクを伴うが、それしか方法がない。

 とりあえず、近くにあった清潔なタオルを濡らし、流の体を拭いていく。血液が完全に固まっていないため、すぐに拭き取ることができた。

 それでも、また流の体から血が流れる可能性がある。

 美鶴は流の様子を観察する。

 流は咳き込まなくなったが、息苦しそうなのは変わっていない。まだ喋れないのか黙っている。

「ここじゃ治療は限界だわ。司ちゃん、ごめん。流ちゃんをみんなところに移動するから手伝ってくれないかしら」

 美鶴がてきぱきと動いて指示を出す。

 ベッドを動かそうとした直後、流が俯いた。

 はっとして我に返った美鶴は流の背中を摩る。

「美鶴さん、俺たちじゃ無理です。みんなを呼んできます」

 司は言葉を残し、走って出て行った。


 その間にも流は苦しそうに息をする。美鶴が心配そうに見ながら、苦しみを和らげようと色々と試してみる。

 少し落ち着いたのか、流が顔をあげた。

「すみ、ません」

 たった一言漏らすが、美鶴は首を横に振る。

「大丈夫よ。今は喋らなくていいわ」

 背中を摩り続ける。

 不意に流が口元を手で押さえた。美鶴がすぐに袋を用意する。

 吐くならここへと袋を開いた。

 然し、流は吐こうとはしない。徐々に顔色が悪くなるだけ。

 美鶴は扉のほうを見つめ、焦りの色をにじませた。


 数分後、ばたばたと駆ける音が聞こえてきた。

「流さん!」

 探が大きな声をあげ、一番に入ってくる。流の姿を見て不安そうな表情を示す。

 探は流に駆け寄り、流に触れようとした。咄嗟に美鶴がぐいと探の腕を掴んだ。

 探の能力を止めるため。探は掴まれて驚くが、我に返る。申し訳なさそうに美鶴を見つめた。

 探が人に触れようとするのは仕方のないこと。そのことを知っている美鶴は諦めたようにため息を吐いた。

「流、大丈夫か? 無理しないでくれ」

 不意に流が前に倒れた。

「とりあえず、流ちゃんを連れていくわ。司ちゃん、」

「これですよね」

 美鶴が指示する前に司が車輪付きのストレッチャーを廊下から持ってきた。

 ここはあくまで阻止する者(ブロッカー)の隠れ住処アジト

 然し、医療に携わる者が少なくない。そのため、医療に使う道具がたくさんある。ストレッチャーもその一つ。

 そのおかげでみんなのところに居る場所へ安全に連れていくことができた。


 流が運ばれると、その場所にいた者は一斉に振り向く。

 流は意識不明になり、状態がかなり悪化していた。

 一刻も早く処置をしなければ命に関わり、最悪は死に至るかもしれない。

 美鶴と医療隊員はてきぱきと処置をし始めた。


 それから数時間ほど経った。

 なんとか流の処置を終え、医療隊員はほっと安堵していた。

 ただ、美鶴は険しい表情を浮かべている。流のために使った輸血パック。

 流の体から血が多量に流れていた。原因は恐らく『代償』だ。そのために輸血パックも多く使用した。

 輸血パックの数は決められている。使うなら深刻な状況になった場合。然し、それが先ほどだったから仕方のないこと。

 それを分かっている美鶴だが、それ以上に深刻な状況になれば、対応しきれないかもしれないと考え始めた。

「みっちゃん」

 不意に声を掛けられて正気に戻った美鶴の視線の先に勇輝の顔が映る。

 勇輝は心配そうな顔をしているが、どこか真剣な眼差しでもあった。


 勇輝の視線に笑みをにじませる。大丈夫よと目で合図を送るように伝えた。

「みっちゃん。僕、分かってるから。だから、」

 勇輝が言葉を発した直後、突然どこからか大きな音が聞こえてきた。

「今のって……」

「やばいんじゃないか」

 驚きを隠せない年少者たち。一方、大人たちは冷静に見えるが、険しい顔をしている。

 敵《•》が動き出したと感じたのだ。

「美鶴さん、もしかしたら過去を変えられたかもしれません。俺が行って、」

「そうしたいけど、待って。作戦を立てるべきよ」

 司が一声を口にすると、美鶴が止めようと言葉を制した。然し、司は聞く耳を持たず、一人で先を行こうとする。

 すかさず美鶴が司の肩を掴んだ。

「ダメよ。言わなくても分かってるでしょ。無理させるわけにはいかない」

 美鶴の言葉に司は答えない。代わりに勇輝が何かに気付いたのか、美鶴の袖を掴む。

「みっちゃん、戦いに行くんじゃないよ。司さん、そうでしょ?」

 司はそうだと答える。


 美鶴の表情が変わらない。

「でもね、敵に遭遇したら戦うことになるでしょ。これ以上、犠牲を出したくないの」

「それはみんな一緒だよ。誰一人犠牲を出したくないよ。そのために必死になるんだよ」

 勇輝は美鶴の言葉に答えるように言葉にすると、逸樹と隼人に視線を移し、ある事を思いつく。

「過去を変えた変える者(ブラックチェンジャー)が戻ってくるはず。次に備えるために、みっちゃんと司さんは足止めをお願いしたい。僕は御角さんと一緒に連れていかれるかもしれない変えたい者(チェンジャー)を保護しにいく」

 指示する勇輝にその場が騒然とし始める。その理由は美鶴と司にしか指示してないからだ。

「俺たちも行っていいだろ」

「そうだよ。勇輝だけ行くのはずるいよ。私たちも行く」

 馨と寧々は納得していない。

 探も納得していないが、流のことが気がかりなのか、ずっと俯いていることが多い。口を閉ざしている。

「だめだよ。みっちゃんは分かってると思うけど、みんなの検査結果良くないんだと思う。だから、待機してもらうしかないんだ」

 それでも、彼らは納得しない。納得するはずがない。

「それはあなたも同じよ。二度、記憶をなくして、」

 美鶴は言葉にするも勇輝の真っ直ぐな瞳に言葉が途切れてしまう。


 美鶴は感じていた。勇輝の強い思いを。美鶴にとっては初めてのことだ。

「僕なら大丈夫。必ず戻ってくるから。じゃないと、父さんに怒られちゃうよ」

 笑いながら話す勇輝に美鶴も笑みを浮かべた。

 今の勇輝を信じてみてもいい、そう思ったのだ。

 長い時間は話していられないと判断したのか、早々に解散し、それぞれ行動を開始した。

次話更新日は8月7日(木)の予定です。

*時間帯は未定です。

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