動き出す未来
*この小説はフィクションです。
阻止する者の体調が不安定な頃、一人の男が変える者と対峙していた。
男の名は荻楼武蔵。武蔵は逸樹を庇っていた美鶴に狂が襲いかかっていたのを目にし、彼らを逃そうとした。
狂はその場に残った武蔵と戦い始める。その理由は逸樹を逃してしまったことにある。
変える者の唯一の情報網。逸樹は能力者ではないが、美鶴に保護されれば狂にとっては厄介になる。
取り戻す方法を見つけなければならない。それにも関わらず、狂は武蔵と戦うことに決めた。
その決断が良かったのか、狂は不敵な笑みを浮かべている。
なぜなら、武蔵が苦しそうに息を切らして立っている姿にあった。
老体であっても、武蔵は充分に戦える力、能力を持っている。
二丈家に仕えていた身だ。
それなのに息を切らしているのには訳がある。
変える者の頂点に立つ狂と対立したのだ。
通常、変える者は能力に対する代償を受けない。それは狂が関係している。
対立した者は敵とみなす。裏切り者。
武蔵は代償を受ける形で戦っていたのだ。当然、体にも影響が出てくる。
不意に武蔵が力尽きて倒れた。
「折角の機会を無駄にしたようだな。従っていればいいものを。残念だがこれで終わりだ」
狂はぽつりと言葉を漏らすと、倒れている武蔵に止めの一撃を刺した。
完全に動かなくなった武蔵を無視し、狂は立ち去ってしまった。
「さて、アイツはどうなってるか見に行くか」
ある場所へ向かった。
狂が向かった先は変える者の住処からさほど離れていない人気のない場所。
使われていない建物が一軒あった。
その建物の中に入っていく。
奥には少年が一人、ベッドの上で仰向けになっている。
どうやら、目を覚ましているようだ。天井を見つめ、ぼうっとしている。
「よう。調子はどうだ?」
仰向けになっている少年は声のするほうへと顔だけを向ける。
「まだちょっと気分が悪いかな。でも、戦える。勇輝の時は油断してたけど、今度は大丈夫。やれる」
「そうか。それなら、斉たちが戻ったらまた迎えに行く。それまでは大人しくしてろ。優秀な変えたい者がいるから抜け出すのは無理だと思うがな」
言葉を残し、気味悪く笑いながら去っていってしまった。
残された少年。体を起こすため、動かそうとする。
「瞬くん、動いちゃ駄目よ。怪我が治ってからね」
側にいた変えたい者が少年に声を掛ける。少年は瞬だった。
以前、瞬は覚醒した勇輝にやられ、致命傷を負った。然し、狂が連れ去り、人目につかない場所へと保護をした。
狂は使えなくなったら、見捨てる。そういう性だ。然し、勇輝に負けた瞬を見捨てず保護した。
その理由は瞬が勇輝を羨ましがっている負の感情を抱いているからだ。
未だに瞬の目から敵意が宿っている。負の感情が強まっている証拠でもあった。
「分かった。それよりさ、気になってたんだけど、お姉さんの知り合いって天埜流だって本当? 俺、知ってる」
その言葉を耳にした変えたい者は目を見開いて驚く。
「そう。天埜流くんよ。どこにいるのかも分かるの?」
変えたい者が疑問を問いかけるが、いなくなったはずの狂が戻ってきてしまった。
「一兎瞬、余計なことを言うな。直に流ってやつは死ぬ」
「それはどういう意味なの? ま、」
変えたい者が訝しげに問いかける。狂はすぐに姿を消してしまった。瞬はただ天井を見つめている。天埜流と小さな声で呟いている。
「俺、行かなきゃ、」
勢いよく体を起こそうとしたせいか、瞬は痛みに顔を歪ませる。まだ調子を取り戻していない状態だ。
我を失った勇輝の攻撃を受け続けたのだから、回復には時間が掛かる。
瞬は諦め、横向きに体勢を変えた。
「ねぇ、知ってるんでしょ。聞かせてよ。天埜流の過去を」
瞬の言葉に彼女は答え、記憶を思い出すように言葉を切り出した。よく怪我をしたり、体調を崩していた、と。
*
一方、阻止する者たちは全ての検査を終えていた。
美鶴がほぼ全員の状態を診たのだが、どうも様子がおかしい。
漸く落ち着けるはずの状況。それなのに、顔色がよくない。美鶴には何か嫌な予感を抱いていた。
その予感は当たったようだ。
美鶴たちのところに向かってくる慌ただしい足音が聞こえてきた。
「美鶴さん、流が、血を。とにかく、早く、」
司が慌てた様子で美鶴を呼んでいる。
司の言葉を最後まで聞くことなく、輸血パックを準備して勢いよく飛び出していった。
考えるよりも先に体が動いていたのだ。
司も後を追いかける。他の者たちは心配そうに視線を向けていた。
次話更新日は7月24日(木)の予定です。
*時間帯は未定です。