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約束(天埜 流)

*この小説はフィクションです。

 いつだって忘れない。彼女のことを。

 ただ、この世界に犠牲を出したくない。その思いから必死になっていただけなんだ。そのせいで俺の身体はぼろぼろだ。

 そんな俺を許してくれ。ごめん、こずえ

 けど、俺は生きなきゃいけない。そう、約束したんだ。

 とりあえず、今は体を休めなくては。

 *


 俺は普通の人間と違うらしい。そう気づいたのは確か小さい頃だっただろうか。

 元々、体が弱かった。いや、本当は普通と違う人間だってことを知らされたんだ。

 その事実を知るきっかけは突然だった。


 ある日のこと。

 学校帰りにある光景を目の当たりにした。一人の女の子が横断歩道を渡ろうとしている。

 その右側から車が走ってきている。女の子は気づかない。手をあげたまま、渡り続けている。

 止めなきゃ。そう思っても、声が出ない。

 そういえば、風邪を引いてしまっていたっけ。そのせいか、喉の調子が悪かったことを思い出した。こんな時に限って。

 お願いだ、止まって。最悪なことが起きてほしくないんだ。

 願いが届いたのか、車は女の子の手前で止まった。安心したのも一瞬、体がふらついて吐き気が襲ってきた。

 この感覚は初めてじゃない。何度も感じたことがある。

 とりあえず、何かに寄っかかれる場所を。

 突然、目の前が真っ暗になった。


 目を覚ましたら、天井が真っ白の場所にいた。病院だ。何度も来てるからすぐに分かった。

「流くん、大丈夫?」

 呼びかける声に目を向けると、母さんが心配そうな顔で見ていることに気がつく。

「大丈夫」

 そう答えたのに母さんの表情が変わらない。多分、何度も言われた言葉だからだと思う。父さんも大丈夫だと言い続けて亡くなったらしい。

 でも、今は大丈夫なんだ。体が重くない。簡単に起き上がれ、ない。あれ? いつもなら起き上がれるのに。

「また能力を使ったの?」

 その言葉に驚いた。能力?

 なんのことか理解できなかった。

 けど、思い当たることがある。あの時、車が突然止まった。まるで、自分が願ったことが叶ったように。

 もしかしたら、偶然なのかもしれない。それなのに、その他に起こったことが次々と浮かんでくる。

 無意識に能力を使っていたのかもしれない。

「母、さん?」

 怖くなり、思わず母さんに問いかけた。目から涙が流れてきているのが分かる。どうしたら、いいんだろう。

「今まで隠して、無理させてごめんね」

 母さんは謝りながら、そっと抱きしめてくれた。


 それから、一週間。無事に退院できた。あれから、母さんに能力のことを色々と聞いた。

 父さんのことも。父さんは同じ能力者で母さんのために能力を使って体調を崩したらしい。僕が産まれて少し経ってから亡くなったという。

 父さんみたいになってほしくないって母さんは泣きながら話していた。

 もし使ったら、必ず影響を受けるから使わないようにと約束したんだ。

 それでも、無意識に使ってるみたいで一週間のうち何度も体調を崩してしまった。検査をして無事に退院できたからいいんだけど。

 そんなこともあり、中学まであっという間に過ぎた。

 相変わらず、体調崩しがちな毎日を送っている。母さんと約束はしたものの守れずにいる。

 その理由は単純なものだった。あの時のように人が危険に陥ろうとする瞬間だ。

 思わず願ってしまうんだ。人が助かりますようにと。誰だってそう思うだろう?

 願ってしまうとその通りになる。良かったとほっとする。直後、体に違和感を覚える。

 母さんが体に影響を及ぼすと言っていた。悪影響を受けてしまう。

 それでも、使ってしまう。人を助けるためには仕方ない。

 恐らく、父さんも仕方ないと思っていたはず。母さんには申し訳ないことだとしても、謝ることができなかった。


 考えごとをしていて忘れていた。今と向き合わなきゃいけない。

「大丈夫?」

 ふと我に返る。声のする方へ顔を向けると、彼女が心配そうな顔で見つめている。

「ごめん、梢。大丈夫」

 家族と同じくらい大切な人ができたのに、思い悩むなんてどうかしてる。

 それよりも気分が悪い。そういえば、昨日はいろんなことが起きた、から。

 いつの間にか、意識が遠のいていった。


 気付いたら、見覚えのある場所にいた。ここは病院、いや保健室だ。

 何かある度にここにいることが多い。能力があるから仕方のないこと。

 実をいうと、能力のことは母さん以外は知らない。

 彼女の梢も知らない。そもそも能力があるなんて信じてもらえないだろうし、あり得ないことだ。

「流?」

 声をかけられて振り向く。彼女が不安そうにしている。

「もしかしてだけど、能力、」

「天埜くん、大丈夫? また無理したんでしょ。無理はしちゃ駄目よ」

 彼女が何かを言いかけた途端に先生がいつものように話す。無理はしてないと言ったら嘘になるだろうか。

 そんなことよりも気になる言葉が頭の片隅を過ぎる。彼女が能力という言葉を言いかけたこと。

 気のせいではない。確かに耳にした。どういう意味なんだろうか。

 聞こうとしたが、先生が体温計を手にし、熱を計るように促してきた。熱はないはずなのに、頭がくらくらする。


 数分後、体温計を渡すと、先生がため息を吐いたのが分かった。

「三十九度。やっぱり無理したんじゃないの。今、氷嚢を用意するから寝てなさい。担任の先生には私から言っておくから」

 先生はそう言って、その場を外した。梢は相変わらず、心配そうにしている。

 笑って大丈夫と伝えると、ちょうど鐘が鳴ってしまった。

「ほら、授業始まるから。また、あとで」

 追い払うような身振りをすると、彼女に叩かれてしまった。思わず、痛っと声が出る。

「ばか!」

 突然、声が響き渡る。彼女はすたすたと立ち去っていった。

 正直、心配してくれるのは嬉しい。けれど、これ以上彼女に迷惑を掛けられない。心の中でごめんと謝る。

 そんなことを思っても、彼女には届かない。

 結局、彼女はこの日は来なかった。


 翌日の放課後。

 彼女と約束をした。学校が終わったら、話したいことがあるから会う約束を。

 世間でいう別れ話かと思った。一瞬、あの言葉が浮かびあがる。『能力』という言葉。もし、彼女に能力のことを話せたら信じてもらえるだろうか。

 少しの期待をいだいて、待ち遠しく放課後を待った。


 そして、放課後。

 彼女は俯いて、言葉を切り出そうとしない。

「話があるんじゃないか?」

 彼女の代わりに聞いてみた。一瞬、彼女が不安な顔をした気がした。

 彼女は辺りを見渡し、様子を確かめている。周りを気にする話ということはもしかしたら……

「能力者、だよね? 体、大丈夫?」

 思わず、どきっとする。やっぱり聞き間違いじゃなかったんだ。彼女は『能力者』について何か知っている。そうじゃなければ、能力者という言葉を使わないだろう。

 彼女の問い掛けにどう答えればいいのか分からない。どうすればいいのだろうか。

「実はさ、私も能力を持ってるんだ。信じてもらえないかもしれないけど」

 そんなことってあり得るのだろうか。

 彼女をじっと見つめる。彼女も能力の影響で苦しんできたのかもしれない。だから、不安な顔をしたんだ。

「ごめん、突然言われても混乱するよね。でも、」

「信じる」

 一言を発する。何を言われようと彼女を信じる。大切な人なんだ。

 次の瞬間、衝撃を感じた。彼女が抱きついてきた。一瞬、倒れそうになるのをなんとか体勢を立て直す。

「ありがとう。大好き」

 彼女は泣いていた。


 *


 それからはあっという間に過ぎていった。

 体調不良が続くのは相変わらず。それでも、幸せな日常を送っている。

 その理由はもちろん、彼女といる日々が増えているからだ。

 俺たちは歳を重ね、二十歳を過ぎていた。

 実をいうと、婚約をしている。能力者として、それぞれ抱えている問題はあるけれど、一緒にいたいという考えが一致したんだ。

 思わず嬉しくて顔が緩んでしまう。

「流?」

 我に返ると、彼女が不思議そうに見ている。

「ごめん。嬉しくて、つい」

 彼女の方に目を向けると、頬を膨らませている。

「嬉しくなかった?」

 彼女は下を向いている。どうしたんだろうか。

 顔をあげて見つめている。照れているのだろうか。顔が赤くなっている。

「ありがとう」と小さく呟いて嬉しいと口にしながら、抱きついてきた。優しく抱きしめ返すと嬉しそうに笑い合った。

 その時に約束したんだ。もし、どちらかの身に何かが起きたら、片方はその分まで生きる、と。

 そんなことが起きずに幸せがこれからも続けば良いと思っていた。思っていたのに……。

 現実はそうもいかない。

 突然やってきたんだ。あの災害が。

 それは、俺たちの幸せを嘲笑うかのように。


 その日はいつもより厚い雲に覆われた空で雨が降りそうな天気だった。

 体に違和感を覚え、怠さも感じる。

 何か悪いことが起こらなければいいと思いながら、一日を過ごすことに決めた。

 午前十時。大きく揺れた。地震だ。地震にしてはかなり大きい。

 俺は咄嗟に動いて、揺れがやむのを待った。

 どのくらい経ったか分からない。けれど、長く感じた。

 揺れがおさまると、俺は衝撃な光景を目にする。建物の中にいたため、外に出る。

 地面が大きく抉れていて、所々が通れない状況だ。

 建物のほとんどが倒壊していた。

 目を疑うほどの光景に体が硬直してしまう。彼女はどうしてるのだろうか。

「こず、梢!」

 確か、午前中は。

 必死になって、彼女がいる場所へ駆け出す。

 辿り着くと、驚愕する。そこに建っているはずの建物が倒壊していた。

「梢!」

 出せる限りの大声で呼びかける。それでも、返答はない。

 どうか、生きていてくれ。どうか……

 意識朦朧とする中、俺は必死に梢を探した。それでも、探し出すことができなかった。

 後に知ることになる。犠牲者の一人に彼女の名前があることを。

 それからの記憶は覚えていない。

 気付いたら、知らない男の人に保護されていた。大人を保護する必要はないはずだが、様子が違った。

『能力者』

 それを知って、俺は男についていくことにした。

 それからは能力者として戦うことになる。

 役に立てる。そう思っていたのに、体が悪化していった。

 

 ごめん、梢。できるだけ頑張ってみるが、限界かもしれない。もし、何かあったら、その時は約束を果たせなかったことを許してくれ。

次話更新は7月10日(木)の予定です。

登場人物の追加などを更新する予定ですが、もしかしたら本編も更新するかもです。

よろしくお願いしますm(._.)m

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