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諦めたくない気持ち

*この小説はフィクションです。

 規則正しい機械音の中で、寧々がベッドの横の椅子にぽつんと座っていた。

 寧々の視線の先に流がやわらかい表情で眠っている。先程まで苦しそうにしていたが、今は落ち着いている。

 美鶴のおかげで今の状態に至っているのだ。

 苦しそうな流の姿を見ている寧々は不安そうな表情を浮かべて、流を見つめている。

 以前、彼女は流の異変に気付いていた。然し、今回は気付けなかった。

 能力を使うほどまでに体調が悪いとは考えていなかった。その理由は流が能力で体をコントロールしていたからだ。


 寧々の能力は聴力に関係する。それは人の呼吸音が聞こえるほどだ。何かあったら、寧々の耳に入ってくる。

 然し、聞こえてくるのは落ち着いている呼吸音。

 それなのに、寧々の不安は拭いきれない。じっと流を様子見続ける。

 徐々に寧々の瞼が下がっていく。ついにはベッドの端っこに頭を乗せて眠ってしまった。

 時間だけが過ぎていった。


 寧々が目を覚ますと、美鶴が流の診察をしていた。咄嗟に顔をあげる。美鶴と視線が合う。

「寧々ちゃん、ありがとう」

 美鶴の言葉に一瞬、寧々の表情が緩む。寝ている流に視線を移すと、表情に不安の色がにじむ。

「流さん、」

 流は今も目は瞑っているが、汗を垂らしながら苦しそうに息をしている。

 寧々の耳に流れ込んでくる荒い息づかい。両耳を塞ごうとした時、首に掛けていたイヤーマフが装着された。

 咄嗟に美鶴が駆け寄り、装着させた。

「流ちゃんは大丈夫。熱が出ているだけよ。もう少ししたら落ち着くわ」

 美鶴は安心させようと声を掛ける。寧々の手が震えていることに気がつくと、部屋の隅っこにいる司に視線を向けた。

 あとはお願いと目で合図を送り、寧々を連れて部屋を出て行ってしまった。


 取り残された司は一つため息をつく。流の側には近寄らず、隅っこの椅子に座ったままじっと動かない。

 流の様子も見ようとしない。一度、見ようとした。然し、苦しそうな姿を見ていられなかった。

 司は俯き、美鶴の言葉を思い出す。

 美鶴は流が長くないことを言っていた。できれば、この先も生きていてほしい。それは誰もが思っていること。

 願いとは反対に流の体調は悪化するばかり。

「俺のせい、」

「つか、さ、いる、ん、だろ。水、を、く、れ」

 司が自責の念に苛まれ、ぽつりと言葉を漏らすと不意に流の声が聞こえてきた。

 咄嗟に司は駆け寄る。流は酸素マスクを外して目を開けている。変わらず息は荒い。

「流、大丈夫なのか!」

 大声を出す司の言葉に答えず、水をくれとだけ言葉にしている。

 司は急いで水を用意する。コップに水を入れ、ベッドに設置されている机に置いた。

 体を起こそうとする流を手伝い、水を渡すと流は一気に飲み干した。辛そうに咳き込んでいる。

「大丈夫か?」

 司は声を掛けるが、答えることなく机に突っ伏してしまう流。司はただ様子を見守るしかできない。


 気まずい雰囲気を醸し出す中、司が言葉を発する。

「なぁ、美鶴さんから聞いたんだ。能力を使わないでほしい。お前には生きていてほしいんだ。仲間なら誰だって思うはず、」

「俺は、死ぬ気はない。約束、したんだ。どっちか先に、死んだら、片方は、その分も、生きるって。その為に、暫く使わない。今は、身体を、休める」

 司の言葉を遮り、流は突っ伏したままゆっくりと話す。

 司は過去に流が言っていたことを思い出す。ふと笑みを浮かべる。

「そうだったな。大切な人のために生きるって言ってたな」

 流の言葉を耳にして司はどこか安堵する。美鶴が戻ってくる間、流を見守り続けた。


 *


 美鶴に連れられてみんながいる場所に戻ってきた寧々は状況に驚く。

 自分がいない間に何が起こったのか把握できなかった。

 癒維がベッドに横になっていて、馨と探と勇輝がぽつんと座っている。

 意外だったのが、隼人がパソコンを弄っていないことだ。常にパソコンを弄り、険しい顔をしていた。

 今の隼人は逸樹と真剣に話し合っている。情報通の彼らの話を聞いても何のことか寧々には分からない。

 重大なことを話していることだけは理解できるが、寧々にとっては難しい話だ。

「寧々ちゃん、こっちよ」

 美鶴が立ち止まっている寧々に声を掛けると、寧々ははっとして我に返った。

 連れてこられた理由はあの場所から遠ざけるために気遣ってくれたのかと思っていた。

『寧々ちゃん。最近、耳が聞こえづらくなることあるでしょ。今から検査するからついてきて』

 聴力検査を受けるために呼ばれたのだ。実際、寧々の聴力が衰えている。

 美鶴にはいずれ気づかれることだと分かっていても、寧々にとっては隠していたかった。

 美鶴に知られのはわかっていたことのはず。それでも、黙ってまで隠したかったのには訳がある。

「美鶴さん、もし聞こえなくなったら人助けできなくなるかな?」

 寧々の言葉に美鶴は笑って大丈夫よと答えた。

次話更新日は6月26日(木)の予定です。

*時間帯は未定です。

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