すれちがい
*この小説はフィクションです。
美鶴が司のところへ行ってしまった後、癒維は思いめぐらせる。
美鶴に見破られてしまったこと。
流を救うために能力を使ったのは間違いない。然し、そうする外なかったのだ。
流は重体だった。その状態で隠れ住処に戻ってきた。正確には武蔵に背負われて。
医療に携わっている癒維でさえ、手の施しようがなかった。
癒維が治療するために能力を使うのは最終手段。とは言ったものの、力弥が生きていた頃は能力に頼られてきた。それは、軽い怪我だったからでもある。
それを守っていても能力を使うほど流の体は危うい状態だった。
その理由は敵から攻撃を受けただけではなく、能力を使ったことにより体に影響を受けているからだ。
不意に癒維は頭を押さえる。彼女もまた体に違和感を覚えている。
「癒維さん、大丈夫?」
顔をあげて声がする方へと向けると、勇輝が心配そうに見つめていた。
彼女は大丈夫と答えて、中断していた検査を再開した。
検査は定期的に行っている。
なぜなら、変える者が本格的に動き出したことによるからだ。
それだけ能力者に負担が大きい。代償がある限り。
三十分程度の検査を終え、休憩に入る。早速、隼人がノート型パソコンを開いた。
その姿を見ていた探。すぐにパソコンを奪い取ろうとする。
止めようとするも払いのけられてしまう。
「何やってるの? 美鶴さんに言われたでしょ。駄目だよ」
そんなことは隼人も知っている。知っていても、自分にはやらなければならないと気持ちをつき動かしていた。
ノート型パソコンを開き直して作業を始める。
探が開いていたノート型パソコンをぱたんと閉めてしまった。
隼人の指を挟んだが、探にはどうでもいいこと。先ずは、作業を止めたいのだ。
「何するんだ。邪魔しないでくれ」
隼人は言葉を吐き捨てるように口を開くと、探をぎろりと睨んだ。
今の探は恐れを知らない。咄嗟に隼人に触れる。直後、探の片目の視界が暗転した。
パソコンを弄る隼人に視線を向ける。
「片目、見えてないじゃん」
探がぼそりと呟くように発すると、隼人の手が止まる。
「お前に何が分かるんだよ。たとえ、片目が見えなくなってもやらなければいけないことをやるのが能力者の役目なんだ。敵は世界を滅ぼそうとしてるんだ。だから、そうじゃないと敵を倒せない。俺がやることに構わず放っておいてくれ」
その場の空気が凍りつく。
一旦、騒ぎが止んだものの険悪な雰囲気は変わらない。ぴりぴりとしている。
突然、何が叩きつけられる音が聞こえてくる。
一瞬何が起こったのか、大半の者が理解できなかった。
「なにすんだ! 集めた情報を無駄にする気か!」
隼人の大声が響く。能力者たちは状況を把握した。
探がノート型パソコンを突き落としたのだ。
隼人と探が言い争う。すぐに探が出ていってしまった。
馨が探を追いかけようとするが、隼人に放っておけと言われてしまう。
美鶴に待つように言われたことを思い出す。それでも、仲間を放っておけない馨は気にせず出ていった。
その場に止めれる者はいたはずだ。然し、場は混乱していた。
勇輝は不安な表情でその場を動かない。
その理由は探と隼人にも原因だが、癒維が倒れてしまっていたのだ。
すぐに医療隊員が駆けつけ、様子を見ていた。癒維は体を起こすが、顔色が悪い。
二人を止めたかったが、それどころではない。
能力を使ったことで体に多少とも影響を受ける。
何度も大丈夫かと聞かれても癒維は大丈夫と答えるだけ。然し、立ちあがろうとするも力が入らない状態だ。
「癒維さん。もしかして、」
医療隊員の一人が癒維の変化に気づく。
癒維の体の変化は恐らく流の治療のときの影響だということを。
医療隊員もその治療に当たっていた。思い出せば、すぐに理解できる。普段は重傷の治療に能力を使わない癒維が能力を使っていたのだから。
「すぐに美鶴さんを、」
「美鶴さんには、知られてる。戻ってくる時、真っ先に、流のところに、行ったから、何か、あったのかと、」
途切れ途切れに話す癒維を心配そうに見つめる医療隊員たち。
それは、勇輝も同じだ。勇輝はペンダントが生み出す不思議な力で癒維の変化に気づいていた。それにも関わらず、どうすることもできずに見守っていた。
美鶴に報告しようと思っていたのだが、美鶴はすぐに出ていってしまったのだ。
「癒維さん、喋らないほうがいいと思う。熱、あるでしょ」
勇輝の言葉に一斉に振り向き、勇輝を見つめる。
「とりあえず、楽な姿勢で体を休めてください」
てきぱきと動く医療隊員たちに癒維は謝罪と御礼の言葉を口にし、体を休めた。
一方、探と言い合っていた隼人は元変える者の逸樹の手助けにより、普段の落ち着きを取り戻していた。
どうやら話し合っている。お互い情報分野を担当しているということもあり、気が合うようだ。それぞれが情報交換している。
そんな中、勇輝は辺りを見渡して安堵の吐息をついていた。
*
医療室を出ていった探。馨が探に追いつき、探の腕を掴んだ。
「取り乱すのは分かる。俺も隼人が心配だからさ。でも、あれはやりすぎだと思う。パソコンを落とすなんて、探らしくない」
探は馨の声に思わず振り返る。一瞬、馨を睨む。然し、しょんぼり俯いてしまう。
探もやりすぎたと反省していた。同時に不安が押し寄せる。
「風粏や力弥さんのことがあったし、流さんだって良くないみたいなんだ……。俺、見ちゃったんだ。流さんが吐血するのをさ。だから、仲間には無理をしてほしくないだけなんだ」
顔をあげる探の目から涙があふれだす。馨は探を励まし、大丈夫と言い聞かせる。
そんな時、二人の耳に届く。
『おそらく、流ちゃんは長くないわ。どれだけ能力を使ったかによるけれど、流ちゃんは能力をもう使ってはいけないかも。生まれ持った能力者だから年齢的にも限界よ』
美鶴の言葉だった。二人は思いがけぬ話に衝撃を受ける。癒維たちがいる場所に戻ることにした。
次話更新日は6月12日(木)の予定です。
*時間帯は未定です。




