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深刻化する状況

*この小説はフィクションです。

 美鶴が逸樹を連れて阻止する者(ブロッカー)の隠れ住処アジトに戻ってきた。

 真っ先に癒維がいると思われる場所へと向かっていく。

「あの、」

 不意に逸樹が声を掛けようとするが、美鶴の雰囲気に黙ってしまう。何も分からないままついていくことしかできない。

 すぐに目的の場所へと着いた。

「癒維ちゃん、この子をお願い。できれば馨くんに会わせてあげてちょうだい。それと流ちゃんはどこかしら?」

 癒維は美鶴の姿に驚いている。美鶴の体や顔にいくつもの痣や傷があるせいだ。

 何があったのか聞きたい気持ちを押し隠し、美鶴に流の居場所を伝えた。

「あとはお願い」

 美鶴は一言を残して去ってしまった。


 流がいる場所へ急ぎ足で向かう中、美鶴の頭にある言葉がよぎる。

『一人死ぬぞ』

 狂の言葉だ。

 美鶴にとって狂が何を考えているのか分からない。ただ、信じたくはないと思っていても狂の予言は当たる。

 実際、流の体調は良くない。休養が必要な状態で外に出ていってしまったのだ。

 狂の言葉が本当に起こるとしたら流だろう。流のことを考えれば、不安が募っていくばかり。

 美鶴は流がいる部屋の前へと着くと、立ち止まる。

 寧々と探の会話が聞こえるが、流の声は聞こえてこない。癒維はここに流がいると言っていた。

 美鶴は万一の事態を考える。

 扉を開け放ち、部屋に入っていった。


 いくつもの管に繋がれた流は体を起こしている。その周りを囲うように寧々と探が椅子に座って会話をしている。

 美鶴はその雰囲気に何かを感じ取った。

 美鶴の目には流が何かに耐えていると思えたのだ。すぐに彼の目の前に行き、そっと様子をうかがう。

「美鶴さん!」

 寧々が大きな声をあげた。

 咄嗟に美鶴が静かにと口に人差し指を当てるように合図する。

「美鶴さん、司に、」

「流ちゃん、能力を使ってるでしょ。今すぐ能力を解きなさい」

 その言葉に驚いたのは流ではなく、寧々と探だ。流が能力を使っているとは思っていなかった。

 流を心配そうに見つめる二人を余所に流は苦笑いしている。

「能力は、使ってません」

 流は平然と答えるが、美鶴から反射的に目を逸らしてしまう。美鶴にはそれが嘘だと気づく。

 美鶴は流を見つめた。

「嘘はいいから能力を解きなさい」

 真剣な表情が険しくなっていく。それでも、流は能力を解かない。それを見兼ねて美鶴は一つ溜め息をつく。

「私を信じなさい。何があっても助けるから」

 やっと流が能力を解いたのか、苦しそうに息を切らしている。繋がれていた機械からは音が鳴り響く。

 美鶴が流の後頭部を優しく支えながら、後ろに倒していく。

 それから、取り付けられている点滴の中身を確認し、周囲も確認していく。

 様子を見ている寧々と探は不安なまま待っていたが、不意に探が動き出す。

「動かないで。お願い協力してちょうだい」

 美鶴の声で探は止まった。流が心配だが、美鶴に任せるしかない。

 美鶴を信じて彼らはじっと待つことにした。


 美鶴は流を診察し、状態を確認する。息が荒く、脈も速くなっている。

 不意に流が美鶴の腕を掴んだ。美鶴は動揺することなく、流の顔を見つめる。

 とても苦しそうにしている。

 美鶴はあることを決めた。

「流ちゃん、今からとても強い薬を打つわ。少しちくっとするけど、我慢してちょうだい」

 言葉にしながら、どこからか注射器を取り出した。針を出し、流の腕に刺した。

 流はぐっと耐えるように顔を顰めたかと思えば、瞼を閉ざしていく。

 完全に目が閉じると、美鶴は流の体を再び診察し始める。

「美鶴さん、大丈夫なの?」

 流の容態が落ち着き始めているが、眠っている流の様子に不安になるばかり。寧々が心配そうに問いかける。

 美鶴は答えない。流を診察し続けている。

 その状況に不安が募る。

 探も心配そうに見つめている。


 一旦、診察が終わると、美鶴は流の口元に酸素マスクを装着した。

「とりあえず、大丈夫よ。寧々ちゃん、流ちゃんの様子を見ててくれる? あとで癒維ちゃんに変わるように伝えておくわ。それまで流ちゃんをお願い。探くん、あなたは私と来なさい。皆のところに戻るわよ」

 二人の返事を聞く前に美鶴は部屋を去ろうとする。

 不意に後ろを振り返り、動かない探に視線を向ける。

「探くん! 行くわよ」

 美鶴の言葉にようやく動き出した探は去り際に流を心配そうに見つめていた。


 美鶴は探を連れて、癒維がいる場所へと急いで戻った。

 彼女は探と言葉を交わさない。

 普段の探は元気で美鶴に対しても恐れを見せない。

 美鶴を恐れて声をかけない者がいるが、探は美鶴にも話しかけることが多い。

 それなのに、萎れたように元気を無くし、とぼとぼと歩いていた。

 最近では探が元気ないのは珍しくない。風粏と力弥が亡くなった時もそうだった。

 今回は流の苦しそうな姿を見てしまったからだろう。

 美鶴は探のことも気にかけるようにした。


 すぐに癒維がいる場所へと着くと、美鶴を追い抜いて探は奥へ進んでいく。

 咄嗟に美鶴は探の腕を掴んだ。

「離して!」

 探が大きな声をあげた。周りにいる者は一斉に振り向く。

「流ちゃんが心配なのは分かるわ。だからといって自分の体の心配もしなさい。感覚を取り戻したばかりでしょ。まずは検診をするわ。みんなもよ」

 いつの間にかこの部屋にいる一員メンバーが集まっていた。

 勇輝、隼人、癒維、馨と逸樹。それから数名の医療隊員。

 能力者ではない逸樹を除いた他の者は目を丸くしている。

「みっちゃん、僕も?」

 今まで検査を受けたことがない勇輝が不思議そうに尋ねる。

「ええ、勇輝くんもよ。その前に私は司ちゃんのところにも行かなきゃいけないわ。この子たちの検査は癒維ちゃん頼めるかしら?」

 美鶴の言葉に癒維はすぐに返事をする。

「それじゃあ、私が戻ってくるまで静かに待ってなさい。特に隼人くんと探くんいいわね?」

 一同が返事をすると、すぐに美鶴は立ち去っていった。


 美鶴は癒維に頼むと同時に伝えた。

 流の状態を含め、癒維が流に能力を使ったのでは、と。

 もし、癒維が能力を使っていたのなら、流の状態から相当な能力を使ったことになる。

 それは、癒維の体に大きな負担をかけるという意味でもある。

 美鶴は恐れている。能力の代償を。

 癒維の体を気にしながらも司のいる場所を聞き出し、すぐに向かった。

次話更新日は5月29日(木)の予定です。

*時間帯は未定です。

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