連れ戻すために
*この小説はフィクションです。
司と流が隠れ住処を出ていって、武蔵に出会う前。
美鶴は二人を探すために外を出ていた。見つからない状況に焦りを感じ始める。
彼らはそう遠くには行っていないはず。行けるはずがない。体調が良くない流がいるからだ。
然し、いくら探しても一向に見つからない。少し遠くを行ってみようと歩を進める。
不意に美鶴に近づく人物が現れ始める。そっと近づいていくが、気づかれない。不意をつこうとする。
その瞬間、美鶴は後ろを振り向く。
「どうやら、そっちは追い込まれているようだな。一番の敵であるあいつはいなくなったしな」
現れたのは狂だ。狂は不敵な笑みを浮かべている。
その姿を目にする美鶴は怪訝そうな顔をし、睨みつける。臆することなく、笑い続ける狂。
「何の用? もしかして殺める気かしら?」
疑心な目を向けていた美鶴だったが、不意に口元を緩める。
狂に対して余裕を見せている。それには訳がある。
過去に一度だけ狂と戦ったことがあり、一度怪我をさせたことがあるのだ。
実をいうと、力弥より強いのではないかと思うほどの実力者かもしれない。
そんなこともあり、狂に余裕の態度をとれるのだ。
「今はいい。探してるんだろ? 天埜流と二丈司。探しても無駄だな。今頃は俺の仲間に殺られてるかもな」
つられて狂も余裕だ。
彼は全てを知っている。阻止する者のこともこの世の全ても。
それでも、美鶴は動じない。知られているのは分かっているからだ。
「何が目的なの? 過去を変えたら何が起こるかくらい分かるはずよ」
美鶴の言葉に狂は冷ややかに鼻で笑っている。
過去を変えたら何が起こるか。それは、狂も知っている。過去を変えれば、災害が起こってしまう。
過去の変えようによっては災害のレベルも変わる。小さな災害から大きな災害まである。
だが、小さな災害も積み重なれば大災害になってしまう。
それでも、狂は変えることをやめない。狂なりに考えていることがあるのだ。
小さなため息を吐き出すと、笑みを浮かべた。
「たとえ世界が変わろうと俺には関係ない。俺はただ変えたいやつの願いを叶えてやってるだけだ」
不意に美鶴の顔つきが変わった。
願いを叶えるということは過去を変えることに変わりはない。何かを企んでいる、そう疑わずにはいられなかった。
「何も企んではいない。人々を救ってやってるんだ。それよりいいのか? 一人死ぬぞ。ハハハ」
狂は言い残して消えてしまった。美鶴は悔しさに歯ぎしりする。
すぐに二人がいる場所へと向かいたかったが、行方が分からないとどうすることもできない。
取り敢えず、捜索しようとその場を離れようとした。
美鶴の前に少年が現れた。思わぬ人物に美鶴は立ち止まる。
「何の用かしら? あの子ならここにいないわよ。それにあなたは能力者じゃないわよね。ここにいては危険よ」
それでも、少年は離れようとしない。どうやら、少年は美鶴が発する『あの子』が目的ではないようだ。
次の瞬間、少年から予想外の言葉が出る。
「武蔵さんに言われたんだ。馨くんが側にくれば安全だって。今、僕たちがいる変える者は深刻な状況なんだ。内部が荒れるかもしれないって。武蔵さんと僕は内密に行動してたんだけど、それとは別に違う子が居なくなって、もしかしたら能力者じゃない僕は、」
淡々と話を続ける少年の言葉が途中で途切れてしまう。
咄嗟に美鶴が少年を庇うように動いた。その理由は居なくなったはずの狂が再び現れたからだ。
美鶴は何とか少年を庇いきり、攻撃を何とか避けることができた。然し、狂の攻撃が僅かに当たった。
「流石、あの男が認める強さだな。それでも、不意打ちを完全に避けることはできないようだな。そいつを寄越せ」
嘲笑うかのように言葉を言い放ち、要求する。有能な少年は逸樹だった。逸樹を連れ戻しにきたのだ。
美鶴が要求に応じないことが分かると、美鶴に襲いかかった。
狂の攻撃を躱わす美鶴だが、表情が曇っている。その理由は躱したはずの攻撃が頬を掠めていた。
「なんだ、弱くなったか? ここでいなくなってもらってもいいかもしれないな」
得意げに言葉を発し、攻撃を繰り返す。
美鶴は狂の攻撃を躱しているが、少年を守りながらでは限界がある。
現に立て続けに攻撃を受けている。そのせいで打撲痕が何箇所もできていた。
「だ、大丈夫ですか? 僕のせいで、」
美鶴は言葉を無視し、攻撃を受け続ける。歯を食いしばってこらえている。
美鶴は考えていることがある。逸樹と一緒に行動していた武蔵なら、ここに来るだろうと。
それまで攻撃を耐え続け、待っていれば必ずやってくると信じていたのだ。
心の中で信じながら待ち続けた。
何分経っただろう。
美鶴は攻撃が止まったことに何かを察する。
目の前には武蔵が背中を向けて立っていた。
「美鶴さん、逸樹くんを連れて戻ってください。私がなんとかします」
然し、美鶴はその場から離れようとしない。
「早く! 御二方は戻っています。流さんが危険な状態です。貴方が必要なんです!」
美鶴は武蔵の背中を眺めた後、逸樹を連れてその場を後にした。
去る前に武蔵に言葉を残した。
必ず戻ってくるように、と。
次話更新は5月15日(木)の予定です。
*時間帯は未定です。




