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二丈家の災難(二丈 司)

*この小説はフィクションです。


 俺の家族は普通だった。否、未熟な時はそう見えていたのかもしれない。

 それに二丈にじょう財閥だ。元々、普通の家庭とは違うらしい。

 一般とは違うと思い知った。何が違うといえば、金銭感覚や立ち振る舞いなど。元々、普通の家庭には家従や料理人などいない。

 父は厳しいが、母は優しい。兄弟はいない。一人っ子だ。

 親戚はいるが、集まることは少ない。なぜなら、厳格な父親がいるんだ。無理に近寄ろうとしないだろう。

 そのためか、跡継ぎは俺となる。

 小さい頃は無意識に従っていた。


 成人になろうとしていた頃、それは突然のことだった。不意に食卓で告げられた。

「司、お前はもうすぐ成人を迎える。ということは後継者になるということだ。まずはそうだな。打ち合わせに顔を見せろ。どういうものか慣れておくといい」

 父は当たり前のように言葉にした。

 ふと、母に視線を移す。一瞬、不安そうな表情をしていたような気がしたが、すぐに何事もなかったような様子を見せる。

 何を思ったのかわからないが、母は父に逆らえないのだろう。

 何か言えば、不機嫌になるんだ。俺が代わりに……。

 そう思った直後、父が持っていた食器を置いた。

荻楼おぎろう、次の予定は?」

 父は切り替えて、武蔵に予定を聞き始める。

「はい。お昼が終わりましたら、貝原かいばら社と打ち合わせです。どうされますか?」

 武蔵の言葉を最後まで聞くこともなく席を立つと、さっさと立ち去ろうとする。一度立ち止まり、振り返った。

「司も参加してみたらどうだ? いい機会だ」

 珍しく、笑っている。そんな姿が少し不気味に見えた。だが、断れるわけがない。

 俺もこの機会をものにしたいと思った。

「はい、参加します。今すぐ準備を、」

「ゆっくりでいい。確か、十三時半だったな?」

 準備をしようと席を立つが、言葉を遮られる。父は武蔵に確認すると、武蔵は返事をした。

 予定を聞いといて、意外にも覚えているんだなと思った。

 いつの間にか父はいなくなっている。奥の部屋にいってしまったんだ。

 俺は出されている食事を急いで食べようとする。そのせいで、俺は喉をつかえる。

「急がなくていいのよ。ゆっくり、焦らず食べていいのよ。あの人は忙しいから早いだけよ」

 母はそう言うと、残っている食事を口に入れる。

 何かを言えば、状況が一転する。そういう家族だ。

 取り敢えず、水を飲んで落ち着こう。納得がいかないままだが、食事を済ませた。


 会議が始まって十分が経っただろうか。怪しい雰囲気を醸し出している。

 その理由は目の前の白い封筒にあった。

「では、よろしくお願いします」

「ああ、よろしく頼む」

 父は白い封筒を受け取って懐にしまった。その後、俺を真剣な表情で見てきた。

「この件は誰にも言うなよ」と言いたげだったのと、実際に見たことが俺の心の中で疑心が抱き始めたきっかけだ。


 それからの日々は父を疑うようになった。事あるごとに行動を観察するようになった。

 そんなある日、偶然にも父と母が不在の時がやってくる。

 俺は父の書斎に忍び込んだ。そのはずが誰かに見つかってしまう。

「司坊ちゃん、何をしているのですか?」

 その言葉に振り返る。武蔵だ。何かを探していると言えば、父に報告されるかもしれない。

 咄嗟に出している書類や資料をあった場所へと急いで戻す。

「何でもない」

 誤魔化そうにも言葉が思いつかない。行動が怪しく見えてしまう。すでに不審に思われているかもしれない。

 取り敢えず、普段と変わらずに接すれば問題はないはずだ。

「もしかして、総一そういち様の行動が気になりますか?」

 やっぱり気づかれていたか。もう逃げられないが、覚悟はできている。

「ここだけの話です。実は、」

 話を切り出し、武蔵は俺が予想していなかった言葉を発する。


 話によれば、武蔵も父の行動が怪しいと思っていたらしい。以前、武蔵が参加していた打ち合わせや会議があった。秘書も兼ねているからだ。

 最近では家では使われるが、会議などは席を外してくれと言われて参加していなかったという。もしかしたら、内密に何かを進めているのではと思うようになったらしい。

 行動を詮索しようと試みたが、父は隙を与えようとしない。

 いつにも増して、武蔵を使うようになった。それは、父の息子である俺も感じていた。

 武蔵に指示をする回数が増えたなと思っていたからだ。

 そんな時、俺にも打ち合わせに参加するようにと告げられた。

 その日から武蔵は俺の行動も観察していたらしい。

 父と協力するか、不審がるか。

 父が不在の時、書斎に立ち入るということは疑っているのだろうと確信したらしい。

「それで何か掴めましたか?」

 俺は首を横に振った。

 この場所は数多くの資料や書類がある。二丈財閥の歴史や関わっている企業のことが多い。

 何か掴めるかと思ったが、そう上手くはいかない。

 内密にということは厳重に保管されているのだろう。

「取り敢えず、何か分かったら報告します。今回はこの辺にしましょうか。もうすぐ総一様が戻ってくるでしょうから」

 その言葉を合図に書斎を後にした。思ってもいない状況になることはこの時は思いもしなかった。



 父の行動を観察して数ヶ月。意外にも早かった。

 二丈財閥が資金を不正利用していることが発覚し、ニュースや新聞、あらゆるメディアで報じられた。

 当然、放送局や野次馬が二条家の門前に集まり始める。異常な状況に追い詰められていた。

 そんな状況の中、母が父をまっすぐ見つめていたが、不安な表情へと変えた。

「嘘、なんですよね?」

 母は不安そうな表情をし、父に問いかける。母にとっては信じているからこそ出た言葉なんだと思う。

 嘘ならば、嘘だと言うはずだ。だが、俺は父を疑っている。世間がそれを明らかにしただけ。

 父は黙っている。

「あなた?」

 駄目だ。今は不機嫌すぎる。何も言わないほうが……

「黙れ! なんとかする。こんなことがあってはならないんだ」

 遅かった。父の気に障ってしまった。

 大声を上げて言葉を吐き捨てると、その場から去っていった。

 その後は武蔵以外は誰も喋らず、一日が過ぎていった。


 父が自室に引き篭もって一週間。

 非常事態が起こった。

 引き篭もってるはずの父が遺体で発見されたという一報を知ることになる。

 その事実を知ると、俺は父が引き篭もっていると思われる部屋を覗いた。

 父はいない。きっと誰もいない時を狙って、家を抜け出したんだ。

 そんなことがあってたまるか。

「そんな……」

 後をついてきた武蔵と母が部屋を眺めていたことに気づいた。母は座り込んでしまった。


 嫌なことは続いた。

 どのくらい経っただろうか。実際、そんなに経っていないだろう。

「司坊ちゃん、来てください!」

 突然、武蔵が俺を呼んだ。酷く焦っている様子だ。

 案内された場所、そこには信じられない光景が映った。

 母が倒れている。一瞬、何があったのか分からなかった。

「司坊ちゃん、先生を!」

 はっと我に返るが、足が動かない。結局、その場に立ち尽くすことしか出来なかった。

 母は大きな病院に運ばれたが、数日後に息を引き取った。

 理由は父の訃報に耐えれなくなり、自ら命を絶ったのだと告げられる。

 母が倒れた後、武蔵が必死になって専門の先生を呼んだりして対応してくれたらしい。俺は唖然として立ち尽くしていた。

 あの後、俺も一緒に何かをやっていれば変わったのかもしれない。

 父の行動を必死になって探っていたのが悪い。最初から俺が……。

 何も出来なかった俺は存在する価値などない。今すぐ消えることができるのなら……

「坊ちゃん、司坊ちゃん!」

 我に返ると、武蔵の視線が俺に向いていることに気がつく。

 武蔵に手を伸ばそうとした瞬間、気づいてしまう。自分の姿が透けていることに。

「何だ、これは……」

 思わず声に出た。普通はありえないことだ。状況が飲み込めない。どうしたら……

「武蔵。俺は、消えて、しまうのか?」

 突然のことでなかなか手の震えが止まらない。いったい何が起きているんだ。

「大丈夫です。司坊ちゃんは消えません。消えたくないと強く念じるのです!」

 武蔵は声をかけてくれるが、初めての出来事に動揺してしまっている。それに全ての出来事は俺の責任だ。消えたくないと思えない。

「司坊ちゃん! このままでは本当に消えてしまいますよ。しっかりしてください!」

 突然、頬に痛みが走った。咄嗟に頬を押さえる。

 気付けば、身体が揺さぶられていた。武蔵が俺の意識を保とうとしてくれていた。

 その後のことは何も覚えていない。ただ、泣いていたことは覚えている。武蔵に俺らしくないと言われてしまった。



 それから五年ほど経っただろうか。

 武蔵の協力もあり、二丈財閥の不足の事態を立て直すことに成功した。それなのにだ。

 どうやら、俺は運が悪いらしい。また、困難が待ち受けていた。

 大きな災害が起き、壊滅的な被害を受けた。一般市民にもだが、二丈財閥にも多大な損害を受けたんだ。

 立て直すことは無理だろうと思われた。

 そんな時、俺と武蔵の前にある男が現れる。千堂力弥さんだ。

 初めて会うはずなのに、武蔵は知っているようだった。

 それから能力者のこと、現実に起きていることを教えてもらった。

 武蔵に聞かされたが、二丈財閥も関わっているらしい。

 普通ならば、混乱するはずが何故か受け入れた。

 実際に身に起きたからかもしれない。体が透けるという現象がそうさせたんだ。

 俺はこの人、力弥さんに協力したいと強く思った。


 暫くして、俺たちがいなくなった二丈財閥が再起したと報道を耳にした。なぜだか何が起こったのか、一瞬で理解できた。

 過去を変える者(ブラックチェンジャー)がいるらしい。そいつらは変えたい者(チェンジャー)を探し出し、能力を使って過去を変えるという。目的は分からない。

 ただ一つ分かること、変えたことによって大災害が起きることを知った。そいつらの仕業なら、止めなくてはならない。

 だから協力したんだ。

 再び起きた災害で武蔵を失うとは思ってもいなかった。


 もう、誰も失いたくない。失いたくないんだ。


 どうか目を覚ましてくれ。



次話更新日は4月17日(木)の予定です。

*時間帯は未定です。


*今更ながら、司の苗字が二条になっていた回「ep58 先走る気持ち」があったので修正しました。正しくは二丈です。

(登場人物紹介3回分には二丈になっています)

作者なのに覚えとけええ!!


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