窮地に追い込まれ
*この小説はフィクションです。
司は能力を使い、自分を含めて流と御角の姿を消して隠れ住処を抜け出した。
巧みに掻い潜って、抜け出すことに成功したものの困難な場に立たされている。
その理由は流の体調と御角の態度にあった。
「ねぇ、僕殺されちゃうじゃん。どうしてくれるんだよ!」
御角は不機嫌になっているせいか、司に八つ当たりをする。そんな御角を無視し、司は流の体調を心配している。
隠れ住処を離れて、それほど時間は経っていない。それにも関わらず、流の表情が青ざめている。
「なんだよ。今にも倒れそうな顔してんじゃん。もう諦めたらいいんじゃないの? 二条坊ちゃん」
御角が言葉を言い放った直後、司が御角をきつく睨んだ。御角は不満そうに口を尖らせる。
「呼び方やめてくれ。その呼び方は好きじゃない」
言葉を発すると、流を見やる。
目を背けた御角は突然何かを感じ取る。
「ねぇ、僕の仲間、」
次の瞬間、御角の首元に剣の切先を突きつけられる。剣がぎらりと光る。
「剣十、なんのつもり?」
御角は問いかけるが、寡黙な剣十は何も答えない。
聞かなくても周囲の状況に気づくだろう。
彼らの敵であるはずの阻止する者の司と流と一緒にいることで剣十は勘づいたのだ。
彼はすぐに二人の姿を視界に捉える。
司を見ると、口元に笑みを浮かべる。
「また、会ったな。今度こそ終わりだ」
やっと寡黙な剣十が口を開く。直後、御角を人質にとったまま、司に向かって剣を投げ飛ばした。
司は気付いたものの、あまりの早さに避けきれないと思い、腹をくくる。
然し、剣は司の手前で落ちた。
「俺の存在を、忘れては、困るな」
つらい表情で話す流を司は心配そうに見つめる。
流の体調はまだ良いとは言えない。そんな状態で能力を使えば、体に負担をかけることになるだろう。
それでも、流の意志を確かめた司は連れてきた。流に能力を使わせず、守りながら戦うと決めたからだ。
それにも関わらず、流は能力を使ってしまった。
そんなことは分かりきっているはず。
司は心の中で自分の愚かさに腹が立った。
そうこうしているうちに、剣十が再び剣を出現し、投げつける。それも流の能力で防がれてしまう。
「やめろ!」
司の声が響く。当然、剣十にではなく流にやめさせるように大声を出したのだ。
このままでは流の体が思うように動かなくなるだろう。
然し、流は言うことを聞かない。
息も絶え絶えになりながらも司の言葉を無視して、剣十のほうへと突っ走る。
「おい、やめろ! お前の体が持たない。やめてくれ」
司の言葉など聞こえない。聞こうともしない。
剣十の目の前まで来ると、能力を使って俊敏な動きで攻撃を仕掛ける。
然し、上手く躱わされてしまう。
それでも、流は攻撃をする。二人の激しい攻防戦が続いた。
攻防が繰り返される中、御角に合図を送る流。一瞬の油断のせいで、剣十の攻撃を受けてしまった。
腹部から出血し、思わず手で押さえる流だが、危うい状態。
痛みに顔を歪め、よろめく。
その間に御角が能力を解放し、剣十を空間に閉じ込めた。
能力を発動した御角を他所に流が限界で倒れ込んだ。
肩で息をする流に司は駆け寄った。
「流!」
大きな声で呼びかけるも答えはない。荒く息をはずませていて話せない状態なのだ。
取り敢えず、司は能力で流だけの姿を消そうと念じる。然し、どれだけ念じても流の姿が消えない。
「ねぇ、後ろ!」
御角の声に反応して振り返ると、見知らぬ男が立っていた。
「誰だ?」
問いかけた直後、司は後ろに飛ばされる。
すぐに体勢を立て直し、立ち上がった。
いつの間にか御角の能力も無効にされたのか、空間に閉じ込められていた剣十が御角を取り押さえている。
二対三。御角は裏返ったと言ってもいい。阻止する者のほうが有利に見える。
然し、流は無謀な行動で負傷してしまう。最悪な状況だ。
そんな状況の中、阻止する者に更なる危機が訪れようとしていた。
男が倒れている流に攻撃を仕掛けようとしている。
「やめろ!」
司が声を出すが、男は耳を貸さない。
司の声で立ちあがろうとしない流は大きな損傷を受けているようだ。元々、体調が悪い状態だった。
司は絶望を感じた、その直後だった。
男の目の前に新たな人物が現れた。武蔵だ。
武蔵は流を守るように男の目の前を塞ぐ。男の腕を掴んで離さない。
「過去を変えることは止められませんでしたが、やっと捕まえましたよ」
男は険しい表情で武蔵を睨みつける。
男の名前は朝霧斉。
武蔵の言葉の通り、少し前に遡る。
武蔵は過去を変えようと動いた斉と剣十の動きを止められなかった。後を追わず、逸樹のところへと戻った。情報を得るために。
然し、すぐに事が起きてしまう。異変を感じ取った武蔵。
実際、どこかで事は起きていた。それも僅かな変化だ。能力者の中で気付くのは少なくはない。
流もその異変に気付いていた。恐らく、美鶴たちも気づいているだろう。
武蔵は彼らの居場所を特定するように逸樹に頼んだ。辿り着いたのが、特定の付近のこの場所だった。
この場所で何かが起きていると思った武蔵は様子を見に行ったところ斉の他に司たちがいたのだ。
「武蔵……やっぱり生きていたのか」
司は武蔵の姿を目にして驚いている。あの時よりは少し老いているが、武蔵なのは変わりない。
「司坊ちゃん、元気でしたか? ちょうどいい。力を貸してください」
その言葉にはっとして我に返る司。一方、斉はふっと微笑む。
「忘れたのですか? 能力は利かないと、」
斉が言葉を口にした直後、彼の言葉が途切れた。彼の目には二人の凛々しい姿が映っていた。
過去に二人が組んでいたような、そんな姿に見えたのだ。実際、武蔵は司に仕えていた。似たようなもの。
「司坊ちゃん、いいですか?」
隙を見出して武蔵は倒れている流を連れて司のところまで来ていた。
司は嗚呼と答えると、姿を消すような速さで斉に向かっていった。
攻撃開始の合図に斉と剣十たちも動き出した。
次話更新日は3月6日(木)の予定です。
*時間帯は未定です。




