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*この小説はフィクションです。


 力弥に担がれて勇輝が着いた場所はとある一室の前。不意に扉を勢いよく開ける音がする。

 力弥が大きく開け放ったのだ。余りにも音が大きかったせいか、勇輝はびくっと肩を振るわせて驚いた。

 中に入ると、勇輝は降ろされ、辺りを見渡す。隼人と流がいたが、記憶を無くしている勇輝は隼人を知らない。

 流と隼人は音がしたほうへと振り向いた。力弥の荒っぽさには慣れているのか驚きはしない。

「勇輝くんも連れてくるとは聞いてませんよ」

「瞬と一緒に居やがった。瞬は勇輝を攻撃して逃げた。ったく、問題児だな」

 流の言葉を無視し、力弥は愚痴を漏らす。流の表情が曇る。

「なぜ追いかけなかったんですか?」

「あ? お前たちも知ってる通り、大きく揺れただろうが。あんな状況じゃ勇輝を守るのが精一杯だ。それにあいつは逃げ足が速いし逃しても仕方ねぇ」

 当然のように答える力弥は苦笑いを浮かべる。黙っている隼人だが、一つ気になった。

 もしかしたら、瞬は能力を使って奴らのところに行ったのではないか、と。

「今の瞬は大丈夫だろ。だが、いずれ野郎共の下につくかもしれねぇな。そうなると厄介だ」

 隼人の心を読んだかのように力弥は誰にともなく言葉を漏らす。弟子である瞬がいなくなったのにも関わらず、意外にも落ち着いている。

 多少は不安を抱いているが、表に出せば流と隼人を不安にさせるだろうと力弥は思った。そのためか、敵側につくだろうと口には出せなかった。


 どんより濁った空気が流れる。ふと、力弥が隼人を見やる。隼人は視線を感じて力弥に顔を向けた。

「あいつらは?」

「大きな揺れだったこともあり、本部内に被害がないか見に行ってもらってます」

「そうか」

 無言の流と勇輝を余所に二人は言葉を交わす。勇輝は起きた揺れを思い出す。確かに被害が起きてもおかしくはない。それだけ、大きな揺れだった。

「それで、俺を呼んだのは別件だろ?」

「はい、先程の地震であいつらの動きが分かりました」

 一同が隼人に視線を向けると、驚きを見せた。



 一時間前。大きな揺れが起きた。勇輝は力弥がいたおかげで助かった。その後、力弥は室内放送で呼び出され、勇輝とともにある場所に向かう。そこで隼人と流と合流。思わぬ情報を聞かされる。

 隼人によると、大きな揺れが起きたことにより敵の動きが分かったらしい。

「で、野郎共はどこにいる?」

「南西区域です」

 力弥の質問に隼人が答えると、力弥は真っ先に部屋を飛び出そうとする。直ぐに流に腕を掴まれてしまった。

「おい、離せ。野郎共を止めねぇと、」

「お気持ちは分かります。ですが、今行って何が出来るんですか? 戻れなくなったら、透子さんが泣きますよ」

 無理矢理振り払おうとする力弥に流は言葉を掛ける。力弥の表情が一瞬ひきつったが、元の険しい顔に戻る。

「あいつはもういない。関係ねぇだろ!」

「関係あります。力弥さんに長く生きていてほしい。透子さんは今でもそう思っているはずです」

「お前に透子の何が分かるっていうんだ! 生意気な事を言いやがって!」

 力弥は怒鳴り散らす。力弥の過去を知っている流は怒りに怯むことなく、言葉を必死に伝えようとする。

 知っているからこそ力弥に透子の気持ちを分かってもらいたいと流は思っていた。至って冷静で真剣だ。


 それでも、力弥の怒りが鎮まらない。怒鳴り散らし続ける。不意に横目で勇輝を捉えた。力弥の脳内に透子の言葉がよみがえる。

『勇輝をお願いね。ごめんなさい……』

 弱々しい声が力弥の脳に語りかけるように呼び起こされる。直後、力弥は思い詰めた表情をした。首に下げているペンダントの鎖を引っ張り出すと、ロケットペンダントを取り出して握る。

 何を思ったのか深いため息をつく。握ったペンダントを首元にやり、シャツの下へと隠した。

「悪い。言い過ぎた」

 突然、力弥は落ち着きを取り戻し、反省の言葉を発する。その様子に流は安心したような表情を浮かべ、掴んでいた手を離す。事情を知らない隼人と勇輝は口をあんぐりと開けていた。

「本当、力弥さんは世話が焼けますね」

「うるせぇ!」

 流が苦笑いしながら口にすると、力弥が叫ぶように声を上げた。

「あの、いいですか」

 隼人が申し訳ないと思いつつも二人に割って言葉を掛ける。二人は我に返り、お互い見やる。隼人と勇輝がいることを思い出し、苦笑いを浮かべた。

「悪い。本題に入るとするか」

 言葉を切り出すと、隼人に視線を向ける。力弥の強い眼差しを受け、隼人は少しばかり動揺した。

「隼人、あいつらが戻ったら市民の被害があるかの様子を見に行け。時間が出来たら、怪しい人物がいないか聞き込みだ。怪しい人物がいたら近付くな。いいか、絶対だ」

「はい」

 力弥は隼人の返事を聞く前に視線を流に移す。流は視線で何かを察する。

「流、お前は司と南西区の偵察に行け。俺は勇輝を連れて修行する。後で合流だ」

「分かりました」

 流の返事を耳にした後、勇輝を担ぐ力弥。唐突に自分の体が浮いて驚き、抵抗する勇輝。当然、力弥の力には及ばず身動きが出来ない状態となってしまった。

 力弥はそのまま部屋を出ていこうとする。一度止まって、流と隼人を見やる。

「能力を使いすぎるなよ。早死にするぞ」

 言葉を残し、その場を去っていった。二人は思った。誰が一番使っているんだ、と。



 力弥が去った後、部屋に残った流と隼人。部屋は静まり返っている。それだけ力弥の存在感が大きいと二人は実感する。

「そういえば、ここ最近は本部に戻ってませんが、司さんは元気ですか?」

 ふと隼人は問い掛ける。流は苦笑いする。実のところ、放浪している司の居場所は流にも分からないのだ。

「本部に戻れって言ってるんだけどね」

 唯一、居場所を知っているのは力弥だけだ。それを知らない流は心配している。徐々に顔が強張っていく。


「体《•》良くないですよね? 俺の目は誤魔化せないですよ。無茶はしないでください。それじゃあ、失礼します」

 隼人は語気を強めて言葉を残すと、部屋を後にした。一人残された流は突然、重りが外れたように体が倒れそうになる。壁に手をつけ、なんとか体勢を整える。

「バレて、いたか。力弥、さん、俺はもう、」

 言葉を発した後、吐き気を覚え、咄嗟に手で口を塞ぐと何かを吐き出した。流は抑えていた手を見ると、血が付いていたことに気がついた。

 いつまで持つか、不安になりながらその場にへたりこんでしまった。



次話更新日は12月14日(木)の予定です。

良ければ感想、評価、コメントしてくださると嬉しいです。

誤字脱字もお待ちしてますm(._.)m

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