経験があっても
この小説はフィクションです。
美鶴たちが戦っている一方で、ある男が武蔵に近づいていた。
男の名は朝霧斉。斎は一人、武蔵の動向を探っている。それは、主導者の狂に命じられたからもあるが、自らも武蔵の行動を注視している。
なぜなら、武蔵は元阻止する者。不審な行動をしないとは限らない。
武蔵が現れた時から常に警戒はしている。
斉は武蔵の姿を見つけた。狂の言う通り、武蔵は変えたい者を連れている。
「武蔵さん。過去を変えてほしいと狂さんからの命令です」
だが、武蔵は言葉に耳を貸さない。変えたい者を庇うように盾となる。
「そうですか。今もそちら側ということですか。それならば、仕方ない」
斉は言葉を吐き捨てるように口にすると、ため息をつく。
次の瞬間、武蔵に向かっていった。
先に攻撃をしかける。武蔵は防御で攻撃を防いだ。然し、何度も攻撃を繰り返す。
「無駄ですよ。あなたは能力者なんですから、能力を頼らないと戦えない。歳を重ねていれば尚更です」
攻撃を受けた武蔵の表情が歪む。
防御しているばかりでは武蔵の体が持たないだろう。能力は封じられている。
その理由は斉の能力が原因だ。
斉の能力。能力を無効にする。
能力者に対して有効だが、能力者にとっては避けたい。それは武蔵もそうだろう。
武蔵は苦虫を噛み潰したような表情へと変わっていく。
「これで終わりです。よく頑張ったと思います」
斉が最後の攻撃を加えようとした、その直後。不意に目の前の見通しが悪くなり始めた。
斉ははっとして我に返る。
「よく頑張ったのは貴方ですよ。私に勝てると思いましたか?」
斉の視界が明るくなった。
かと思えば、武蔵が斉に襲いかかろうとする。斉は咄嗟の反応で防ぐことができた。
然し、驚いている。能力を発動したことを確認した。
それなのに、武蔵の能力も発動されている。
武蔵の能力。
相手に幻覚を見せることができる。但し、一回につき十秒という僅かな時間しか見せることができない。連続して使えば秒数など関係なく幻覚を見せ続けることができる。
能力者同士の戦いを経験している武蔵は自由自在に使いこなしている。
そのため、強さを発揮できるのだ。
斉の様子を察した武蔵の口元が緩む。
「なぜ、私が能力を発動できるのか、ですか? それは経験の差です」
瞬く間に、斉の視界から武蔵の姿が消えた。斉は警戒し始める。
「貴方は私に勝てません」
幻聴のように聞こえてきた武蔵の声に斉の表情に焦りの色がにじむ。
武蔵は斉に強い攻撃を加えた。斉は怯んでしまう。
斉の様子に武蔵は深いため息をつく。元阻止する側の武蔵だが、変える者の強さも知っている。斉は狂の右腕と言われるほどの実力を持っている。
武蔵の攻撃が強かったとしても、今の攻撃で怯むなどあってはならないこと。
「いつまでそうしているつもりですか? 貴方の実力はこんなものじゃないでしょう」
武蔵が言葉を発しても、立ちあがろうとしない。声をかけても反応がないことを確認し、変えたい者に向き直る。諦めてその場を立ち去ろうとする。
突如、斉が静かに顔を上げる。武蔵の背を睨みつけると、襲いかかった。
武蔵は咄嗟に振り向いたが、一歩遅れてしまう。背中に攻撃を受けてしまった。
予想外の衝撃に地に手をついて倒れる。隙を見て斉は再び攻撃を加えようとした。
咄嗟に武蔵は起き上がり、防御をする。
「私は簡単にやられませんよ」
余裕に満ちた表情を浮かべると、変えたい者のほうを向く。驚くことに変えたい者の首元に剣の刃が突きつけられていた。
剣の使い手、剣十によるものだ。
「少々遅れた」
剣十は一言を発する。よく見れば、変えたい者を人質にしている。
状況が一変してしまった。
武蔵は険しい表情になる。
「どういうつもりですか? その人から離れなさい」
それでも、剣十はちっとも動こうとしない。変えたい者は怯えている。
武蔵は考えた。この状況を脱するにはどうしたらいいのかと。
「無駄です。二対一。経験があっても力の差はこちらが上回っていますから」
剣十が現れたことにより、状況が悪化している。武蔵にできることは時間を稼ぐことしかできない。
「目的はやはり、過去を変えること、ですか? 過去を変えても何も変わりません」
斉はふっとため息を漏らす。変える者の目的は言葉の通り過去を変えること。だが、彼らにとって『何も変わらない』ことはない。
悲惨な過去を背負っているからには。それは、阻止する者も同じだ。
ただ、彼らとは考え方が違う。
阻止する者は大切な人がいたからこそ、変えることによって起こされる災害を止める。それが犠牲者を出さない考え方だ。
徐々に首元に当てられている剣の刃が押し当てられる。武蔵はにやりと笑いかける。
怪しげな空気が漂う。違和感を覚えた斉はじっと眺める。
「剣十、そいつから離れろ!」
時すでに遅し。剣十が人質にしていた変えたい者が武蔵に成り代わったのだ。
武蔵はがしっと剣十の両腕を掴み、動きを封じる。
身動きできなくなった剣十は力を入れ、振り切ろうとする。然し、上手くいかない。
武蔵のほうが力が大きいのだ。
そんな時、不意に斉があることに気づく。武蔵が剣十の両腕を掴んでいること。つまりは今が機会だということを。
すぐに変えたい者に近づく。身柄を確保すると、門を呼び出した。
突如、門が出現する。
武蔵が気付くも、隙を見計らって剣十が抜け出していた。
見るもなく、門は斉と剣十、変えたい者を吸い込んで、消えてしまった。
一人その場に残された武蔵は眉間に皺を寄せる。
「これは、困りましたね。どうしましょうか……」
誰に言うともなく呟くと、ある場所へと向かった。
保護していたチェンジャーが拉致された⁉︎
武蔵さんでも止められなかった…
過去を変えられちゃう(゜o゜;;
今回は美鶴たちが戦っているその裏で動いている武蔵の行動を書きました。
武蔵はブラックチェンジャー(変える者)なはずなのに、元ブロッカー(阻止する者)でした。
以前、力弥と接触しています。
サブタイトル『原因究明』にて参照。
なぜ裏で動いているのか、未だに謎な部分がありますが、今回から詳しく書いていけたらなと思っています。
ちょこっと出てた司との繋がりも書いていきます。
サブタイトル『見えない力』にて参照。
*今年から隔週の更新にします。その分、文字数も多くなると思います。
次話更新日は1月23日(木)の予定です。
*時間帯は未定です。
よろしくお願いしますm(._.)m




