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目を背けたい事故 (鷹野 隼人)

この小説はフィクションです。

*今回は墜落事故を書いているため、残酷な表現・描写があります。苦手な方はブラウザバックをお願いします。


 もう嫌だ。あの過去は思い出したくない。だから、蓋をしたのに。

 それなのに、思い出すとは。勇輝の言葉から思い出してしまった。決して勇輝のせいではない。

 きっとこれは、いつか克服しなきゃいけない記憶なんだ。蓋をしてちゃいけない。

 だから、俺は……


 *


 外は少し曇っていた。そのせいか、目が痛む。

 仕方ないとは思っていても、気持ちが悪い。

「隼人くん、大丈夫かな? 目が痛かったらいってね」

 優しく声をかけてくれた看護師さんは笑ってどこかに行ってしまった。

 俺が今いる場所。病院。なぜ、ここにいるのか。

 俺は小さい頃から目が悪い。それは、あくまで表面の話。

 気付いてしまったんだ。俺には何か特別な能力があることを。


 小さい頃、周りを把握できるほどによく見えると思った。それが普通、人の視界だと思ったんだ。

 でも違った。ある時から『目がいいんだね』とか『どのくらい見える?』『すげぇじゃん』など言われるようになった。

 自慢じゃないが、目がいいことが自信になっているような気がする。

 そう思うはずなのに、いつからか目がかすむようになった。

 そのせいで、何かに躓いたりぶつかることが多くなっていく。それは今も続いている。


 親に心配され、病院に連れて行かれた。多分、気のせいだろうと思って放っておいたのが悪い。病院で『視神経炎』と診断された。

「大丈夫よ。きっと良くなる。治療を続けよう」

 母さんは言葉を口にする。本当は目がいいことが裏目に出たんじゃないだろうかと思うようになった。

 治れば関係ない。そう思ったはずだ……。

 結局、目がかすんだまま、月日が経っていた。良くなるどころか、症状が悪化している。

 自信もなくなっていって、気づいたら学校に行かなくなった。


 小さい頃に夢を見ていたものがある。

 いつしか、空高くから景色を見たいと思うようになっていたこと。

 航空操縦士パイロットになるのが夢だった。歳が離れている兄さんの影響かもしれない。それに他の人より視力がいいこともきっかけの一つ。

 だが、条件として視力が良いこと。今の俺はそれも遠い。

 目が悪くなったせいで、手術を受けなければいけない。

 家族は大丈夫だって口にするが、視力の低下は自分が一番よく分かっている。それにこの力だって。

「隼人、変わってやれなくてごめんな」

 不意に兄さんの言葉が聞こえてくる。

「何言ってるんだ! 兄さんは航空操縦士パイロットだろ。目が悪かったら水の泡じゃないか!」

 俺よりも飛行機が好きな兄さんがそんなことを言うとは思わなかった。

「悪かった。でも、俺は弟の隼人のほうが大事だ。変わってやりたいのは本当のことなんだ。分かってもらわなくてもいい。ただ、嘘じゃないと分かってくれ」

 何も言葉が出てこない。

 兄さんは優しい。優しいからこそ出る言葉。でも、気持ちは考えたって分からない。分かりたくもない。

 俺は兄さんみたいには優しくないから。


 そんなこともありながら、手術を受ける日がやってくる。

 母さんたちは何も言わず、俺の手術を見守ってくれるらしい。

 だが、兄さんと目を合わせることが出来なかった。気まずさを感じたんだ。


 手術はあっという間だった。それもそうだ。

 大体の目の手術は小一時間で終わってしまう。俺もそのくらいだったんだろう。

 日帰りするのが一般らしいが、俺は経過観察も兼ねて少しだけ入院することになった。恐らく、今までの症状が重かったからだと思う。

 手術が終わった後、兄さんは泣いていた。失敗したわけじゃないから泣くほどでもないのにと思いつつ、言わないでおいた。



 手術を終えて一カ月。

 俺の視力が回復してきた。能力を使ってないということもあるかもしれない。

 家族全員で兄さんが操縦する飛行機に乗って、旅行することになった。兄さんは止めてくれと言ったが、きっと乗ってくれて嬉しかったんだと思う。

 兄さんは恥ずかしそうにしながらも嬉しそうに笑っていたから。


 俺は心の中では楽しみにしていた。なぜなら、兄さんが操縦する飛行機の旅だ。

 ただ一つ、気になることがある。曇っていていつもより雲が多い。飛行機が飛ぶには大丈夫だとは思うが、少し不安だった。

 それでも、無事に離陸し空へ飛んだ。


 暫くすると、機内はいつもの日常風景になった。みんな、音楽を聴いたり映画を観たりと寛いでいる。

 俺は窓際の席だったこともあり、窓から見える空をぼんやりと見つめている。

 さっきの曇り空と違って、青く澄み渡っている。これなら心配しなくても良さそう。

 のんびりと過ごそう。


 離陸してどのくらい経ったんだろうか。それは起きた。

 不意に機内が大きく揺れ始める。大きな揺れは続く。長い間、がたがたと揺れている。

 そのせいで機内が騒がしくなる。

 すぐに機内放送が流れる。兄さんの声じゃないのは分かる。多分、もう一人の飛行機操縦士パイロット

 とりあえず、席でじっとしていることが安全だという。

 客室乗務員に従った。

 暫く揺れは続く。

 窓を見ると、雲が異様な色をしている。なんだか嫌な予感がする。

 飛行機に乗った時と同じ感覚だ。母さんと父さんにちらっと視線を向ける。

 とても不安な表情をしている。


 俺がなんとか安心させることはできないかと思った。辺りを見渡す。不安そうな表情をしている人が多くいる。

 突然、飛行機が大きく揺れた。

 飛行機が急激に下降しているような気がする。かと思えば、爆発音のような音が響き渡った。

 咄嗟に目を瞑ってしまう。大丈夫だと言い聞かせながら、体に気持ち悪さを感じつつも必死に耐える。

 悲鳴が耳をつんざくように聞こえてくる。聞きたくなくて、咄嗟に両手で両耳をおさえていた。


 きっと大丈夫。みんなも大丈夫。それなのに、体に衝撃が伝わってくる。どんと衝撃を受ける。

 体が重く、痛い。それに少し息苦しさを感じる。目を開けると、目を疑うような光景が映った。

「なんだよ、これ……。か、母さん! 父さん!」

 横に並んで座っていた母さんと父さんに視線を向けると、二人はぐったりとしていた。呼びかけても返事がない。

 はっとして我に返る。兄さんは無事だろうか。

 その場を動こうとしたが、足に痛みを感じて動けない。よく見ると、足に何かが刺さっていた。

 確か、引き抜くと多くの血が流れて良くないと耳にしたことがある。

「だ、だれかあああ!」

 助けを求め、大声を出しているのに返ってくるのは木霊する自分の声。

 だれか……助けてくれ……

 自然と目から涙があふれる。泣いたって無意味だって分かってる。

 息苦しくてここにいるのも問題だ。なんとかここから離れなければ……

 安全ベルトを外して、精一杯の力で抜け出そうとする。途中、足がずきずきと痛んだが、なんとか耐える。そのおかげか、その場から抜け出すことができた。

 部品らしき物が足に刺さったままの状態で。


 まずは兄さんのところへと向かった。もう少し前だった気がする。足を引きずりながら、前に進む。

 途中、呻き声が聞こえたが、俺はどうすることもできない。ごめんなさいと思いながら、涙を何度も拭った。


 落ちた場所は、人が一人もいない。ここはどこなのか分からない。海に不時着しなかったことだけが幸いだったのか。いや、落ちたくなかった。

「兄さああん!」

 出来るだけ大きな声を出すが、返事は返ってこない。

 もう、力が入らない……俺もここで死ぬんだ。



 目が覚めた場所は知らない場所だった。

「大丈夫かな?」

 声を掛けられ、顔を向けると女性が俺を見ていた。答えようとするが、上手く声が出せない。

 俺はどうしてここに。そういえば、兄さんたちは……

 そう思い返すと、体がうずくように痛んだ。

 痛くて、辛くて……

「美鶴さん。この子、」

「癒維ちゃん、ちょっといい? ごめんね。ちくっとするよ」

 そんな言葉が聞こえると、足に針のようなものが刺ささるのが分かった。多分、注射だ。

「痛み止めを打ったから、暫くは大丈夫。癒維ちゃん、あとはお願い。あの人に報告してくるわ」

「はい」

 そんな会話を聞いている間にさっきまでの痛みが無くなった。この人たちは誰なんだろうか。

 俺を助けてくれたのは間違いない。

「まだ安静にしててね」

 そう言われても動けないからじっとするしかない。そういえば、足に刺さっていたものは無くなっていることに気付いた。

 今日は疲れたから寝よう、再び目を瞑った。


 その後、何日か経つと怪我が治った。その時に聞かされた。

 あの時、起きたことは本当だったんだ。

 飛行機、墜落事故。信じたくなかった。俺は運良く生き残って、救助隊に救出される前に力弥さんという男の人に保護された。

 その人を含め、ここにいる人たちはある人間を保護すると決めているらしい。

 それは能力を持った人間。災害に遭ったり、事故に巻き込まれた人たちの中にいると言っていた。

 だが、俺が能力者なのかは……ああ、そうか。

 俺は生まれた時から視力が良かった。然し、俺がその力があると、なぜ知っているのかまでは分かっていない。怪しい。

 ただ、俺は帰る場所がないから、ここにいることになる。なら、いっそ……嫌な過去に蓋をしてここにいよう。

 

とても残酷すぎる…

隼人、よく生きてくれた(>_<)


今回の話は視力がいい隼人の過去を書きました。

実は前から考えてはいました。けれど、こんな残酷な描写を書いてもいいのだろうかと迷ったこともあります。

隼人と飛行機の関係はどうしても書きたいと思い、書いてみました。

隼人はブロッカーの中の十代では1番頼れる存在です。

年下の馨、探、寧々、風粏、勇輝。

年下の子は隼人よりあとに保護されます。

あとから来た子たちを慰め、実は面倒見がいい。だけど、それまでは辛い経験をしてきたからこその性格かもしれません。

保護される前は年の離れたお兄さんに憧れていました。実は10以上は離れているかも。

お兄さんを見てきたから、お兄さんのような存在になろうとしているのかもしれません。


墜落事故の模様を書いていますが、どういう風に起こるのか全く分かりません。勉強不足なこともありますが、フィクションなので実際とかけ離れていることを承知の上で読んでいただければと思います。


本日は年内最後の木曜日ですが、このあと登場人物紹介などの追加も更新いたします。

そちらもよろしくお願いします。


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