失う辛さを知って(多知 探)
*この小説はフィクションです。
今回は一人称視点です。
俺は夢を見たんだ。あの時の悲しい夢だった。
風粏のこともあったけど、あの時のような出来事はもう嫌だ。もう二度と誰も失いたくない。
誰だって嫌なんじゃないかな。
*
今日は休日。学校が休み。休みを利用して家族で買い物をしにいくことになっている。
いつもなら、休日は友だちと遊ぶことが多い。家で集まって遊んでいる。けど、みんな他のことがあるみたい。
世間は連休って言われてるから、みんなも家族でどこかに行ったりしているのかも。
俺も楽しもうっと。
車で遠いところまでお出掛け中。
俺も楽しみなんだけど、一番楽しみにしているのが姉ちゃん。なんでも限定品があるみたい。何の限定品なのかは興味がないから聞かなかったけど。
そんなことを考えていたら、急に車が止まった。目的の場所に着いたみたい。
「ほら、着いたぞ。そういえば、今日はずいぶん静かだったな。探、気分悪いのか?」
「車酔いよ。長く乗ってたんだもの」
父ちゃんと母ちゃんは話し出す。俺、車酔いしないんだけどな。でも、車酔いってことにしとこう。
気がつけば、二人は心配そうな顔をしている。その視線が少し怖かった。無理もないかな。
学校がある日の俺は体のどこかに傷をつけて帰る。知らん顔をして誤魔化す。虐められているんじゃないかって疑われた時もある。
気付いた時には、俺には能力があると知った。けれど、家族にも友だちにも言えていない。
言ってしまえば、何かはわからないけど、何かが変わってしまう。そう思ったんだ。
誰にも言わずに能力を活用してきた。使いすぎると体に負担が掛かってしまうから使わないこともある。
それでも、怪我をしてる人や辛そうな人を見てると使ってしまう。その人たちの役に立ちたいと思ってしまうんだ。
そうなった時は体にどうしても負担が掛かってしまうから、怪我の手当てを勉強したり、応急処置用に絆創膏などこっそり持ち出している。
そんなことは置いといて、今は休日を楽しもう。
車を降りて、家族と大きなお店が立ち並ぶ建物の中へと入っていった。
建物の中はとても広い。
幾つもの飲食店や洋服屋、雑貨屋や家電を扱っているお店、更には映画館や玩具屋さん、子どもが遊べる空間までもある。
俺も未だに友だちと来た時は遊んでいる。凄く楽しいんだ。
「探、何してるの? 迷子になっちゃうよ」
姉ちゃんの声が聞こえると、急いで走った。
数時間経った頃かな。
なんだか騒がしい気がしてきた。何かあったのかなと思った次の瞬間、どこからか大きな音がした。
その瞬間、俺は軽く吹っ飛んだ。一瞬なにが起こったのか分からない。
あたりを見渡すと、煙が薄らと見える。目を凝らす。周りにたくさんの人たちが倒れている。なんとか立ちあがろうとする。そこで気づいてしまう。
自分が怪我していることを。それに感覚が薄れている。全く感覚がないわけじゃないからいいけど、気分が悪い。
そういえば、どこにいるの?
「母ちゃん、父ちゃん、姉ちゃん! どこにいるの! 返事をして!」
できる限り大きな声で叫んだ。それでも届かない。聞こえてくるのは呻き声やぜいぜいと息を切らして苦しそうにしている呼吸だけ。
誰も助けてくれない状況。
とにかく、ここから離れなきゃいけない気がする。外に出て誰かを呼ばなきゃ。何度も転びながら、俺は必死になって出口を探すことにした。
なんでこんな状況になってしまったんだ。こんなところで死にたくない……誰か……
必死になって出口へと向かう。そのおかげで、たどり着くことができた。これで助けを呼べる、そう思ったのは間違いだったの?
目に映ったのは多くの人たちが倒れている光景だった。
「そんな……。誰か、助けて」
絶望を感じた瞬間、目の前に男の人が現れる。自分の体が宙に浮いた。
「もう大丈夫だ。ここは危険だ。安全な場所へ移動する。しっかり捕まってろ」
安全な場所? 待って、まだ姉ちゃんたちが。
「待って! まだ姉ちゃんたちが中にいるかもしれないんだ。助けてよ!」
叫んだけれど、どんどん離れて遠ざかる。泣くことしか出来なかった。
連れていかれた場所は大きな秘密基地みたいなところだった。人通りもないし、誘拐されたのかと思った。
「司、こいつを癒維のところに連れていってくれ。野朗共が爆弾を仕掛けやがった。こいつは巻き込まれたらしい。俺はもう一度確認しに行ってくる」
「分かりました。気をつけてください」
そんな言葉が耳に入ってきた。
俺は誰かの背中の後ろに移ったみたい。大丈夫だったか聞かれたけれど、限界だった。その後は何も覚えていない。
目が覚めたら真っ白な天井が映った。
体を起こして状況を把握する。
「目が覚めたか? しばらく安静にしててくれ。もうじき力弥さんが戻ってくるからその時に今後のことを話す」
突然、声を耳にする。
そうだ。俺はあの時、何かに巻き込まれてたんだ。爆弾っていってたのは覚えてる。もしかして、爆弾が爆発して巻き込まれちゃったのかな。
思い出すと、涙が出てくる。
もう、姉ちゃんたちと会えないんだ。俺だけが……
「怖かったよな。家族を助けてやれなくて申し訳ない」
たったそれだけなのに、涙が溢れてくる。この人の言う通り、怖かった。
「俺は二丈司だ。これからは俺たちと一緒に行動してもらうことになる。家族のために強く生きるんだ」
司さんは優しくて力強い言葉を掛けてくれた。その後、助けてくれた力弥さんという人が現れ、能力者のことやいろんなことを話してくれた。
俺たちと同じくらいの歳の子ともすぐに仲良くなれた。きっと、辛い気持ちが分かっていたからかもしれない。
少ししてから風粏って子も来た。その子ともすぐ仲良くなれた。それなのに、あんな事が起こるなんて……
**
「探、大丈夫か?」
目が覚めたら、あの時と同じ状況。司さんがいた。
俺がぼんやりとしていると、司さんは頭を下げる。
「ごめんな。俺のせいで、」
今まで見たことのない司さんを見ている気がする。心配そうに見ていると、司さんが気付いた。
司さんは何かを抱え込んでいる、そんな気がしたんだ。ここにいるなら、辛い過去を経験しているのはみんな同じ。司さんもきっとそうなんだ。
咄嗟に体が動いていた。司さんに触れてみる。
流れ込んできたのは怪我の痛みではなく、悲壮感のようなものだった。
司さんは一瞬驚いたように見えたけど大丈夫だって言う。
その後も触れてみようとした。触れさせてはくれなかった。
でも、俺には分かるんだ。いつか本当のことが分かったら、司さんを助けることができるのかな。
いや、絶対助けてみせる。
誰かを失うのは嫌なんだ。
探の悲しい過去
でも、探だけでも無事でよかったよ…
司の言うとおり、強く生きてほしい
探の過去編を終えて思ったこと
やっと書けた!という気持ちです。
実は数日前までどんな過去にするのか迷ってました。
能力者はみんな辛い過去を経験しています。なので、辛い過去なのは決まっていました。
その中で、前回の話と同様に司との関係も出そうかなと。
探といえば、亡くなってしまった風粏と一番仲良かったです。
風粏の死で悲しんでいたけれど、背負っているのはそれだけじゃないなと。
それなのに、平気そうに見えるのは探の性格も関係しているかもしれません。
次回は美鶴と隼人が敵に遭遇⁉︎
次話更新日は12月5日(木)の予定です。
*時間帯は未定です。
よろしくお願いしますm(._.)m




