似た者同士
*この小説はフィクションです。
探と司は無事に癒維たちが待機している隠れ住処に帰還した。すぐに癒維と寧々が駆けつける。彼女たちは二人の姿を見て、目を丸くする。
二人は傷だらけで司に背負われている探はぐったりとしている。
二人で安全な場所に移動して手当てを済ました後、戻ろうと言葉を交わした。途中で探は倒れる。
能力の代償により感覚が鈍っていることに加え、体にできた幾つもの傷。あまりにも損傷が大きすぎたのだ。
徐々に探の顔色が悪くなり、うっすらと冷や汗を掻く状態に。司は不安な顔をするが、何も言葉を掛けることなく探を背負う。そのおかげで無事に帰還することができた。
癒維は司と目を合わせると、すぐに治療室へと向かう。司はその後を追う。
「探、もう大丈夫だ」
やっと一安心したのか探に声を掛け、治療室に入っていった。
その姿を寧々は心配そうに見ていた。
何分経っただろうか。漸く、探の様子が落ち着いた頃、探は司と流と話をするまでに回復していた。
「二人とも無理をしちゃいけない」
『一番無理してる人が言うこと?』
流の言葉に司と探の言葉が重なる。実際、一番無理をしているのは流だ。
流は二人の言葉に苦笑いを浮かべる。言われたことよりも二人の言葉が重なったことに苦笑いしたのだ。
二人とも似た者同士だなと心の中で呟く。
そんな二人はお互い目を合わせて笑い合っている。
「探、俺に似てきたな」
司は探の頭を優しく撫でながら、何気なく呟く。
「そうかな? 俺、司さんに憧れてるからかな」
嬉しそうに笑って応える探だが、顔が引きつる。傷が治りかけているためか、少しずつ感覚を取り戻してきているのだ。
顔を引きつらせた探に気がつく司は大丈夫かと声を掛けようとする。
その時だった。
部屋の扉が開き、寧々が恐る恐る顔を出す。
「だ、大丈夫かな?」
少し申し訳なさそうにしながら、三人に問いかける。三人は寧々に視線を向けると、時が止まったように寧々を唖然として見つめている。
すぐに笑みを浮かべて、大丈夫だよと流が答える。
実をいうと、寧々は二人を心配していた。特に疲弊していた探を。
今は落ち着いている探だが、体に巻かれている包帯が痛々しさを感じさせている。時々、痛みに顔を歪めている。
「寧々が行かなくて良かった。探もこんな状態になっちゃったしな。なにしろ女子を戦いに参加させなくて正解だ」
司が発した言葉に寧々は機嫌を損ねる。女子だから戦いに参加できないのは寧々にとって納得いかない言葉。
女子だからではなく、能力者だから戦いに参加したかった。探を見れば痛々しそうだが、すっと目を逸らす。
「司、言い過ぎだ。分かってるだろ。寧々だって能力者だから戦いたいはずだ。寧々、悪い」
寧々は不満げに頬を膨らませる。その場を逃げ去るように出ていってしまった。
寧々が来たというのに、司が追い返したようなもの。流は司をきつく睨みつける。司は苦笑いをしている。
「力弥さんだったら、寧々を連れていったと思う。みんなの気持ちを一番理解してる人だったから」
突然、探がぽつりと言葉を漏らす。彼は寂しそうな表情をしている。
流も寂しそうな顔をする。司だけ平然としていて、ほとんど表情を変えない。
「今の指揮が美鶴さんで良かったんじゃないか? 俺、ちょっと癒維のところに行ってくる。ゆっくり休めよ」
司は言い残して出ていってしまった。
残った流と探。二人の間にぎこちない空気が流れる。
流は読んでいたであろう本を開いて読み始める。探は部屋の扉をぼうっと見つめている。
「流さん。司さんは大丈夫かな。無理をしてる気がする。俺の勘なんだけど……」
ふと、探はぽつりと呟く。
流は読んでいた本を閉じる。内心では探の言葉に驚いていた。
司の変化を自分以外で気づく人はいないと思っていたのだ。司に憧れている探ならあり得るかもしれないと考え直す。
「流さん?」
流は我に返り、探をちらりと見やる。不思議そうにきょとんとする探に微笑みかける。
「司なら、大丈夫。ただ、何を考えているのか分からない時がある。おそらく、俺より抱え込む癖があるんだと思う」
「俺、行ってく、」
探はベッドを抜け出し、司の後を追いかけようと立ち上がる。その瞬間、転倒してしまう。
咄嗟の反応で手をついて大事にならずに済んだ。
感覚を取り戻してきているが、完全に感覚が回復していない状態。バランスを崩すのも当たり前。
「敵と戦ったばかりなんだ。今は休んだほうがいい」
流の言葉を無視して探はなんとか立ち上がり、司の後を追うように駆け出す。
流はため息を漏らしたものの呼び止めず、読みかけの本を開いた。
*
探は駆け出したおかげで司の姿を捉えることができた。
「司さん!」
呼ぶ声に気付いた司は立ち止まって振り返る。駆けてくる探が目の前までやってくると、ひょいと躱わす。探は司の腕を掴もうとしていたのだ。
躱されて探は転びそうになるも司に支えられる。
「危ないな。自分から触ろうとしたら駄目だろ。というより大人しく休め。俺は今から、」
言い掛けた時、司は探の表情に視線を向ける。
とても心配そうな眼差しで見られていたのだ。
「司さん、隠さないでほしい。俺には分かるから。司さんだって能力の代償の影響を受けていないわけではないよね。もっと頼ってよ。じゃないと……もう、誰も失いたくないんだ。だから、」
探の目から涙があふれる。その姿に司はふっと微笑が顔に浮かぶ。
ぽんと探の肩を軽く叩くと、探を背負う。
「ありがとな。でも、本当に俺は大丈夫だから。傷痛むだろ。安静にしてなきゃ駄目だ。力弥さんが居たら、言われてたかもしれないぞ」
探はそうだねと返事をして手の甲で涙を拭う。
彼らは言葉を交わさず、流がいるところへと戻っていった。
つかさああ!
久々に寧々ちゃんが現れたのに…追い返すような言葉を口にするなんて…寧々ちゃん大丈夫かな
探が司のことを分かってても作者には分からない←え
実は探と司には共通点があります。
ムードメーカー
誰かと接する時、周りを明るくする雰囲気を持っています。その共通点があるけれど、その分お互い抱え込んでいる部分はあるはず。
そう思って、二人で行動すると何か見えてくるのかなと思って書きました。
今回は探を主に出したかったので、探の視点で司の何かに気付いたことを少し出しました。
司の抱え込む何か。司を主に出す時に明かしていこうと思ってます。
次回、探の過去編の予定です。
次話更新日は11月28日(木)の予定です。
*時間帯は未定です。
よろしくお願いしますm(._.)m




