仲間がいればきっと大丈夫
*この小説はフィクションです。
地響きを伴う鈍い音がどこからともなく聞こえてきた瞬間、隼人と美鶴が険しい目つきに変わった。
勇輝も反応はしたが、ペンダントのことで頭がいっぱいだ。彼は美鶴を見つけたものの、ペンダントの不思議な力のことを聞くことができなかった。
「隼人くん、司ちゃんを会議室に呼んできてくれないかしら。作戦を立てなくちゃいけないことも伝えて。私は癒維ちゃんのところに行ってくるわ。それじゃあ、あとで」
美鶴は隼人に伝えると、駆け足でその場を去ってしまった。
隼人も司を呼びに行く。
残された勇輝は俯いてしまう。タイミングの悪さに気を落とす。
咄嗟にペンダントを握るも不思議な感覚が消えている。いったいあれはなんだったのだろうと思いつつ、勇輝はぼんやり立ち尽くす。
「父さん、僕どうすればいいんだろう」
ぽつりと独り言を呟き、とことこと歩いていった。
あてもなく歩き続けた先にある一室に辿り着く。そこには風粏と力弥の遺骨が置いてある。
知らないうちにこの場所に来たのにはまだ気持ちの整理がつかない証拠。
勇輝は二人の遺骨が置いてある祭壇に近づいていく。目の前まで来ると、祈るように目を瞑る。すぐに目を開け、じっと眺める。
勇輝は心の底で願う。ずっと見守ってくれますようにと。きっと二人は大丈夫だと思っているのかもしれない。
勇輝の目から涙があふれる。次第にぽたぽたと垂れる。
古い記憶を思い出し、思い出に浸り始めようとした時だった。背後から誰かがくる。
「勇輝、ここに居たんだ。緊急会議だって。来れそう?」
声をかけてきたのは寧々だった。寧々はイヤーマフをしたまま、勇輝を探してくるように言われていたのだ。
勇輝は涙を手の甲で拭い、祭壇をまっすぐ見つめる。寧々のほうを振り返る。
「大丈夫。さっき地響きがあったよね。寧々は大丈夫?」
勇輝の問い掛けに寧々は目をそらす。
寧々は聴覚能力者。そのため、音に過敏。
当然、先ほどの地響きにも多少とも影響を受けているだろう。それを知っている勇輝は寧々の心配もしていた。
目を逸らしたまま黙り込んでいる寧々を不安げに眺める。
「だ、大丈夫だよ。ほら、早く行かなきゃ」
その場をはぐらかし、勇輝の腕を掴んでその場を後にする。
勇輝はちらっと振り返り、心の中で二人に挨拶をした。
*
二人が目的の場所に到着すると、扉の向こう側でなにやら深刻な話をしていた。それもそうだ。
地響きがどこかで起こった。それは変える者が動き出したこと。
次に何か起こる前に止めなければならない。
ただ突っ込むのは危険だ。作戦を考えなければならない。それが勝てる最適策。
犠牲者を出したくはないと美鶴は力弥と阻止する者を支えてきた。今まではそうだった。
然し、現実を見れば難しいこと。二人も犠牲者を出してしまったのだ。
一人は組織を指揮していた力弥。力弥は代償が原因だ。
代償は避けては通れない。能力をあまり使わずに戦わなければならない。
そんな中、地響きを伴う鈍い音が聞こえてきたのだ。
『これからは司ちゃんと私、それから力を取り戻した勇輝くんが敵と戦うことになると思うわ』
勇輝は耳にする。力を取り戻したという言葉にごくりと唾を飲み込む。
不思議な力があることを美鶴たちは知らない。勇輝は美鶴に伝えようとはしたが、言えていない。
『やっぱり流は戦うことは出来ないんですね……』
『流ちゃんはもう戦うことができない。代償の影響をかなり受けているわ。安静にしていれば大丈夫だから絶対に無理をさせないで』
勇輝は大丈夫という言葉にほっと胸をなで下ろす。
不意に部屋の扉が開いた。寧々が扉を開け、中に入っていった。
「さっきの話、本当? 流さん大丈夫ってこと。本当だよね?」
突然入ってきた寧々に美鶴と司が振り向く。二人は驚いたようなまん丸な目をしていたが、寧々の言葉に頬を緩める。
「大丈夫よ。様子を見なきゃいけないけど、今は安定しているわ」
寧々の表情が和らいだ。
美鶴は勇輝にちらっと視線を向ける。すぐに司に目で合図を送ると、人数が集まったことを確認する。勇輝にまた視線を移す。
「勇輝くん、これからは私と司ちゃんと一緒に、」
「俺も戦う。俺にもできることがあると思うんだ」
美鶴の言葉を遮り、探が言葉を発する。
探の能力は相手に触れると状態が知れる。
敵に接触すれば、戦いも有利にはなるだろう。ただリスクが高い。攻撃されやすい。強くなければ、簡単にやられてしまう。
探はまだ十代だ。力の差があれば、待機を命じるしかないと美鶴は考えている。
「駄目よ。考えれば分かるはずよ」
美鶴は言い切る。
探もそれは理解している。然し、みんなのために戦いたいと思っているのだ。一番親しかった風粏のためにも。
探は美鶴に頼んだ。美鶴は考える。簡単に了承はできない。
ふと、司が探の肩に手を置く。
「美鶴さん、俺からも頼む。何かあったら、俺が責任を負うからさ」
美鶴の表情が険しくなる。何かあってからじゃ遅い。司の頼みといえ、許可はできなかった。
「流にも聞いてみる。俺と流が許可すればいいってことで」
勝手に事を進める司は笑みを浮かべる。美鶴は呆れてものが言えなくなってしまった。
彼らは作戦を練るために話し合いをし、解散した。
結局、勇輝は話し合いの中でも『不思議な力』について相談できなかった。
その夜、変える者の新たな情報を入手した隼人は美鶴に報告はせず、司たちに自分も戦いに参加すると告げた。
勇輝は強くなったとはいえまだ心のどこかで亡くなった二人のことを…すぐ切り替えられたら悲しまないよね
探と隼人、戦いに参加⁉︎
二人を主に出す予定なので、強制参加です←え
*まだ出していない二人の過去が関係するかも、しないかもといったところです。
次話更新日は10月31日(木)の予定です。
*時間帯は未定です。