不思議な力
*この小説はフィクションです。
ぽつんと一人で居る勇輝。彼の中であることが起こっている。
ふと思い立って首にぶら下げているロケットペンダントを握る。
その瞬間、誰かの気持ちが流れたのだ。
突然のことで動揺し、ロケットペンダントから手を離してしまう。
何もなかったように静まり返る。
「今の、なに?」
思わず口に出るほど驚いている。ふと、ロケットペンダントの中を開け、入っている写真の女性を見る。
写っているのは勇輝の母親である透子。とても美しい容姿の女性。
勇輝からしてみれば、透子の顔を覚えていない。勇輝が幼い頃に亡くなったのだから。
当然、透子の能力も知らない。
一方、父親の力弥とは仲が良い。そんな力弥も亡くなり、勇輝は落ち込んだ。立ち直るのに相当な時間が掛かるかと思っていた。
力弥の言葉を思い出し、このままじゃ父親のためにならない。そう思い、ペンダントを握ったのだ。
勇輝は考える。力弥は美鶴とよく話をしていることが多かった。
美鶴なら何か知っているかもしれない。考えが頭を過ぎる。すぐに立ち上がり、その場を後にした。
美鶴は忙しなく移動していて、どこに居るのか分からない。
勇輝は取り敢えず、居そうな場所へと向かった。
「馨?」
勇輝は馨とすれ違う。馨は下を向いて歩いてるせいか、勇輝には気付かない。
「馨」
軽く肩を叩いて呼びかける。馨はびくっと驚く。
「なんだ、勇輝か。それで何かあった?」
馨は何事もなかったように平然としている。勇輝には馨から何かあったような雰囲気を感じる。
「勇輝? やっぱり、力弥さんが亡くなって一番辛いよな。悪い」
「違うよ。辛いのは馨のほうなんじゃないかな」
勇輝の言葉に馨はあんぐり口を開けている。
不意に勇輝がロケットペンダントを馨に見せる。
「僕も辛いけど、父さんから貰ったこれがあればなんとか耐えれるかな」
直後、勇輝の脳内に記憶が流れる。
橙色と赤い光に包まれている一軒家。その前には人集りができている。消防隊や救急隊だろう。
近くに一人の少年と見覚えのある男性がいた。
少年は泣いている。慰めるように男性が少年の頭を撫でている。
徐々に二人の姿がはっきりしてくる。
不意に勇輝は我に返る。
流れてきた記憶。
それは、馨と力弥が一緒にいる遠い記憶だった。
勇輝は馨をじっと見やる。真剣な眼差しに馨は不思議そうな表情をする。
「そう、だよね。馨は火事で家族を亡くした時、父さんに救われたんだよね。家族を失ったのに、頼りにしていた父さんも亡くなったら悲しむのも当たり前だよね……僕、」
ぽつりと言葉を漏らす勇輝。
勇輝の言葉に馨はきょとんした表情で勇輝を見ている。
馨は勇輝に過去を話したことがない。ただ、力弥に助けられたことは話したことがある。
どれだけ力弥に救われたたろうか。馨にとっては力弥は家族と同じ存在だった。そんな力弥が亡くなってショックが大きいのは当然だ。それは、勇輝も同じこと。
「父さんは亡くなったけど、きっと大丈夫。天国で母さんと笑い合ってるよ。遠くで見守ってくれていると思う」
力弥が亡くなる前の直後、美鶴たちが必死に処置をしていた時は泣き崩れるほど気分が沈んでいた。
それは馨も見ていた。
それにも関わらず、何があったのだろうか。
馨を唖然とさせるほど勇輝は前向きになっている。
馨は力弥が大丈夫かではなく、勇輝自身は大丈夫なのかと聞きたかったが、諦めた。
それを上回るほどの強い言葉を耳にして馨は呆気にとられていた。
勇輝ははっと我に返る。思い出したように、あっと声を漏らす。
「そういえば、みっちゃん見なかった? 僕、聞きたいことがあって行こうと思ってるんだけど、居場所分からなくて……」
「美鶴さん? 見てないけど、もしかしたら流さんたちのところに、勇輝!」
馨の言葉を最後まで聞くこともなく、くるりと背中を向け、駆け出していってしまった。
馨が呼び止めようとするも勇輝は一瞬にしていなくなる。
「そういうとこ、力弥さんに似てるよな。親子だし、それもそっか」
一言呟いて、馨は頬を緩ませた。
*
駆け出していった勇輝は流がいる場所へと真っ先に駆け出す。
不意にロケットペンダントを握る。ペンダントには不思議な力があると感じ始める。
力弥と話していた美鶴なら何か知っているかもしれない。
勇輝の足取りが早くなる。
辿り着く前に勇輝は美鶴とすれ違う。
「みっちゃん!」
勇輝の声に美鶴が振り返る。勇輝がペンダントのことを聞こうとしたが、二人のところに隼人がやってくる。
隼人はノート型パソコンを抱えている。美鶴の前まで来ると、荒い息を整える。
「変える者の動きが分かりました」
直後、地響きを伴う鈍い音がどこからともなく聞こえてきた。
勇輝の成長ぶりが!
力弥の思いが伝わってるのかな
ロケットペンダントの真相とは⁉︎
その前に地響き…何かが起こる予感
次話更新日は10月24日(木)の予定です。
*時間帯は未定です。




