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最強の男 千堂 力弥

*この小説はフィクションです。

 いつからかあいつは変わってしまった。何が原因か分からない。

 最初はただの反抗期かと思っていた。まさか変える者(ブラックチェンジャー)の仕業だったとはな。

 然も、一番強い野郎に記憶を打ち消されたのか。いつどこで勇輝の記憶を。

 透子は病気で死んだってのに。勇輝を守ってやれなかった。

 まぁ、それを知れたんだ。いいじゃねぇか。

 勇輝に真実を話すことができればいいんだ。


 *


 俺は見誤っていた。勇輝の力を。いや、これは勇輝の力でもあり、勇輝の力ではない。

 勇輝は昔から感情に流されやすい。それは、親である俺にも分かる。

 何度か暴走したのはそのせいだ。だが、ここまでの力を発揮できるとはな。

 どうしたら勇輝の正気を取り戻せるだろうか。

 代償が無ければ、こんな体にならずに済んだのに。

 やべぇな。体力に限界が来た。それもそうか。代償だけではない。勇輝の攻撃を受けてしまったからな。

 どうした、もの、か……。うっ、こいつは、今まで、よりも。

 薬はあの時に使ってしまったか。もう、俺は……。


「父さん。父さん!」

 勇輝の声が聞こえてうっすらと目を開く。

 勇輝、お前は記憶を取り戻していたのか。そりゃ良かった。これで野朗共に。

 一瞬、気が遠くなるのを感じる。目を開け続けることができず、俺はそのまま力なく目を瞑ってしまった。



 気が付くと、俺は薄暗い世界にいた。ここはどこだ?

「貴方、どうしてここに?」

 すぐに見覚えのある声が耳に届く。この声は透子だ。ということは俺は、死んだ、のか?

「貴方ってば!」

 咄嗟に振り向くと、目の前に透子が立っている。

「やっぱり、透子か。元気だったか?」

 俺の言葉に眉を寄せる透子。透子が何を思っているのか分からないが、俺には怒っているように見える。


 あの時、透子は勇輝を俺に託している。今の勇輝の歳は十五だ。まだ成長を見守ってほしいと思っているのだろうか。

 俺がここに来てしまったから勝手に約束を破られたと思われても仕方がない。

「なぜそんな顔をするんだ?」

 分かっていながら、俺は問い掛けてみる。

「約束、忘れたのですか? あの子のこと」

 その言葉に驚いた。やっぱり、そうだ。


 今、勇輝はどうしているだろうか。確か、俺が透子を殺したという記憶で我を忘れて怒り狂っていたはずだった。

 だが、微かに聞こえた言葉。『父さん』という言葉を忘れてはいない。

 確かに俺をそう呼んだんだ。勇輝の記憶が戻っていた。その後すぐに俺は体力に限界が来てしまったんだろう。

「貴方? まさか、あの子を置いてきたの?」

 俺はすぐに否定する。答えたいが、どう説明すればいいんだ。

「戦争が始まる」

 考えて出た言葉は思いも寄らない言葉だった。

「能力者の、ですか?」

 そうだった。透子は察しがいい。生前の時からだ。俺のたった一言で、全てを見透しているようだ。

 おそらく、透子の能力も関係しているのだろう。まぁ、そんなことは置いといてだ。

 俺は地上で何が起こっているのかを一から説明した。


 一旦、話し終え、透子の言葉を待った。

「それで、貴方はどうしたいの?」

 俺はある思いが浮かんでいた。

「関係ないかもしれねぇが、まず勇輝に透子の死んだ理由を話さなければならない。悪い。まだ伝えていないんだ」

 俺は勇輝がなぜ感情的になったのかを考えた。

 野郎に記憶を打ち消されたのが理由だ。

 先に伝えていればこんなことにならなかったかもしれない。

 然しだ。透子が亡くなった直後に勇輝に話しても、幼い勇輝には伝わりづらい。理解できないだろう。

 その時がくればと思って放置していた。それが原因なんだろう。


 今の勇輝にそれを話して分かってくれれば、俺にはもうやることはない。

 後は、勇輝や他の仲間がやってくれる。力も俺よりあるんだ。

 俺が戻ったところで体のほうに限界がある。持たないだろうな。

 そもそもの話、ここに来ている時点でもう現世には戻れない。伝えたいと思っても無駄か。

「そんなことはないわ。貴方はまだ機会チャンスがある。ただ、一度だけ。現実世界で貴方の体が危険な状態のようですから……」

 透子に心を読み取られてしまう。

 この状況は懐かしくもあり、俺を驚かせてくる。初めて会った時は腰が抜けるほど驚いた。


 同じ能力者だからというのもあるが、能力者の気持ちを分かってくれた唯一の理解者が透子だ。能力で心を読まれてたとしても、そんなの構わない。

 透子を好きになったのには変わりはないんだ。


「勇輝に伝えて。私が死んだ理由を。きっと、分かってくれるわ」

 俺は透子をまっすぐ見つめる。そうか、透子は……。

「行ってくる」

 行ってらっしゃいと言葉を耳にすると、俺は白い光が差し込んでいる方向へと歩いた。



 ふと目が覚めると、真っ白い天井が目に映る。すぐに勇輝の顔が視界に飛び込んできた。

「父さん、分かる?」

 勇輝は確かめるように声を掛けてくる。嗚呼と答えると、美鶴を呼びに行ってしまった。


 二人が来て、俺は美鶴に勇輝と話がしたいことを伝える。同時に勇輝にどれだけ力があるかも確かめたい。その為には広い場所が必要だった。

 見たところ、ここは隠れ住処アジトだ。ということは本部は使えなくなったらしい。昔、本部を使えなくなったら隠れ住処アジトを使おうと美鶴と話をしたことがある。


 美鶴は心配そうな表情をしながらも俺の診察をする。終わると、許可をもらった。いつも悪い、と心の中で呟き勇輝を連れてその場を立ち去った。



 勇輝は不安そうな表情をしている。

 俺は声を掛けて安心させようとするも安心させることができなかった。

 当然、勇輝の表情が晴れない。

「父さん、体は大丈夫? みっちゃんの言う通り、体を安静にしたほうが、」

 なんだ、俺の体の心配か。美鶴も俺の体の心配をしていた。

 俺は大丈夫だと伝えた。話があると付け加えて。敢えて、これが最後だと伝えずに。

 伝えてしまったら、今の勇輝はどう思うか分からない。反抗していた頃は嘘だと言ってまず信じないだろうな。

 今の勇輝からは反抗していた時期は覚えていないようだ。まぁ、混乱はするかもな。


 それよりも話があると言ったはいい。なんと伝えればいいんだ。 

 単刀直入に透子の死の原因を言うのもな……。

 取り敢えず、不安から少し安心させなきゃな。


 勇輝は俺の息子だ。弱々しいところはあっても、力は強い。

 真剣な表情でそう伝えると、勇輝は思ってもいない言葉を発した。

 瞬のことだ。そういえば、俺が駆け付ける前に勇輝は瞬と戦っていたな。

 そうか、瞬が変える側(ブラック)になったことも知ってしまったことになる。

 俺は瞬の強さも知っている。あいつは俺に似ている。戦い方も十分に教えたつもりだ。それを分かっていれば大丈夫だ。

 だから、大丈夫だということも強いことも言ってやった。


 勇輝は瞬を救いたいと言葉にする。俺は唖然としてしまった。ここまで成長していたとは。

 勇輝なら大丈夫。そう思った瞬間、ある物を託すことに決めた。

 ロケットペンダントだ。これには、透子の顔写真がある。勇輝に中を見せて、すぐに閉じる。

 勇輝は透子のことを覚えていない。仕方ないか。小さい時だもんな。

 ちょうどいい。透子が亡くなった理由を話す時がきた。


「病気だ」という言葉だけ。勇輝は動揺するかと思っていた。

 勇輝から思っていない言葉が出る。


 父親である俺にも病気なんじゃないか、と。確かに間違いではない。

 俺には理由がある。『能力の使いすぎ』

 俺は能力を馬鹿みたいに使ってきた。遅かれ早かれ、こうなることは分かっていた。

 理由を言葉にしても、勇輝は信じようとしてくれない。まぁ、そんな急に分かってもらおうなんて思っていないから別にいい。


 最後にどのくらい強くなったのか力を試してやるか。そう思ったものの、勇輝の知っている父親なら暴力で解決しないと言葉にした。そういうつもりじゃないんだけどな。

 そういうところは本当に透子に似てるんだな。その場から離れてしまう勇輝に俺は追いかけるようについていった。


 先を行く勇輝の後についていくと、鼻を啜る音が聞こえてきた。

 そうか、強がってただけなのか。勇輝、お前は強い。全てを託しても問題ないようだな。

 心の中で呟き、勇輝をそっと撫でた。これが最後なのを心に留め、勇輝とともに戻ることにした。


 元の部屋に戻ると、俺は美鶴に心配され、怒鳴られた。これも最後か。

 少し疲れたな。


 今までありがとなと心の中で呟き、俺は目を閉じた。



 気が付くと、目の前に透子がいた。

「随分、時間が掛かったみたいね」

 少し苦しさを感じたような気がしたが、おそらく俺を死なせない為に美鶴たちが向こうで精一杯頑張ったんだろう。

 透子に会えたということは、やはり俺の体は駄目だったらしい。あれだけ能力使ってきたんだ。仕方ない。


「ちゃんと、あの子に伝えましたか?」

 透子の言葉で思い出す。ちゃんと伝えたし、伝わっただろう。

 あとは勇輝と美鶴たちがやってくれる。俺はそう信じてる。

「伝えた。勇輝なら大丈夫だろ。成長したところを透子にも見せたかった」

 勇輝は本当に見違えるほど成長している。小さい頃とは違う。透子にもその姿を見せてやりたかった。

 そういう意味では少し後悔しているかものかもしれない。

「伝えたのなら、大丈夫ですよ。あの子は強いもの。ほら、行きましょう」

 透子は笑顔で手を差し伸べている。その手を取り、俺は透子と一緒に青空のような光がぼうっと照らす方向を目指して歩いていった。


次話更新は10月3日(木)の予定です。


こんばんは。作者のはなさきです。

突然、こんな後書きの出だしで驚いた方もいるでしょう(・_・;

今回の親子の話を終えて少し話したいなと思って作者現れました。

(長くなるので、興味がある方で大丈夫です)

主人公は勇輝なのですが、今回の話で重要なことの1つ『母:透子の死について』父親である力弥が殺してしまった嘘の記憶。

このことに触れたくて、親子同士がぶつかり合ったままじゃ駄目だろうと思ったわけです。

そこでずっと考えていた親子の話。今その時かなと書き始めました。

けれど、力弥は能力の代償で身体に限界が来ている状態。

いずれやってくる時。死は避けては通れないなって…嫌な結末だけれど、それは次の世代が敵を倒してくれる。力弥がそう信じているからこその最期を書きました。

おそらく、力弥の中で透子を思う気持ちがどこかで残っていて、その思いが突き動かし、透子に会ったのではないかなと思っています。(8話『悔やむ気持ちを胸に』にて)


勇輝には悲しい思いにさせてしまったけれど、美鶴たちがいるならきっと大丈夫でしょう。

母親と父親を亡くし、本当のことを知ってしまい、親思いの勇輝が前を進むには時間が掛かるかもしれません。それでも、立ち直って仲間たちとともに強くなった勇輝の姿を想像すると、これから続きを書くのが楽しみだなと感じました。

まだスパイラルピリオド(作者はスパピリと呼んでます笑)は続くので、応援していただけると励みになります。

キャラの心情を大切にして書いてますが、読みにくいなどありましたらコメント下さいm(._.)m


ブラックチェンジー許さない(๑•ૅㅁ•๑)


ではまたの更新でノ

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[良い点] 今後の展開がどうなるのか。楽しみにしています!
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