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急変

*この小説はフィクションです。

 明け方。外がまだ薄暗い時間帯。

 それは、突然として起こった。

 廊下にどたどたと走る音が聞こえてくる。勇輝を除く全員が起きていた。

 騒がしい音に目が覚めた勇輝は寝起きで頭がぼんやりとする中、むっくりと起き上がった。そのままの状態でよたよたと歩いて騒がしいほうへと向かう。

 その時だった。何かにどんとぶつかり、勇輝は尻もちをついてしまう。

「勇輝、ごめん。ちょうど良かった。美鶴さんたちが今、」

 衝突してしまったのは探だった。然し、なんだか焦っている様子だ。

 彼は勇輝に謝り、状況を説明しようとする。

「放っておけよ。勇輝は来ない方がいい」

 馨が探を遮って強く言うと、探を連れていってしまった。馨の言葉に勇輝は気に触るも馨たちが向かった場所へとついていく。

 途中、医療隊員たちが行ったり来たりを繰り返しているのを見かけた。勇輝は徐々に不安が増していく。

 なぜなら、向かっているのは力弥と別れた場所だったからだ。


 嫌な予感を抱きながら、着いた部屋の前で一気に勇輝の表情が青ざめる。

 遠くからでも察してしまう状況。

 部屋の中で仰向けになっている力弥を囲んで美鶴、癒維、他の医療隊員たちが応急処置をしていた。

「父さん。父さん!」

 思わぬ光景に勇輝は大声で叫び、処置しているところへ駆け寄ろうとする。直後、司に腕を掴まれる。

 必死で振り払おうとするが司のほうが力が強い。振り払うことができない。

「離して! 父さんが、父さんが死んじゃう」

 大声を上げながら、必死に振り解こうとする。それでも、司の力には勝てない。

「落ち着け。今、美鶴さんたちが必死で助けてるから。力弥さんだって戦っているんだ。俺たちは何もできない」

 司の言葉に勇輝は表情を曇らせる。小声で違うんだ、父さんはと言葉を呟く。

 司は不意に力弥のほうを見やる。それでも、司には勇輝の言葉の意味が分からなかった。



 十五分後。

 今も尚、応急処置が続いている。

 変わらない状況に勇輝の不安が増していく。自然と目から涙があふれ出している。

 勇輝と力弥が眠りにつく前、二人は話をしていた。

 なにげなく話をしていたが、力弥の様子を思い出す。

 普段よりも落ち着いていた父親の姿だったと勇輝は思い始める。

 その瞬間、勇輝の頭の中でいろんな記憶が混じり合う。


 勇輝が幼い頃、大好きな食べ物を分け合って食べたり、力弥が忙しい中で楽しい場所に連れて行ってくれたりもした。

 できなかったことができるようになったら褒めてくれたりと懐かしい記憶にぽたぽたと涙が落ちる。

 勇輝にとって優しかった力弥が危篤状態に陥っている。

 美鶴たちが処置を続けているが、状況は変わらない。

 勇輝は必死に胸骨圧迫を続けているのを見ているだけで、自分には何もできない気持ちに悔しさが募る。

 そんな中、不意に癒維が手を止めた。他の医療隊員も手を止める。

 美鶴だけがなんとか助けたいという思いから胸骨圧迫を続けている。


 胸骨圧迫は力が必要だ。長時間も続けていれば、するほうは体力を消耗する。そのせいか、美鶴の額に汗が流れていた。

「あなたには、まだ、やらなきゃ、いけないことが、あるじゃない。お願い、」

 声を掛け続けながら、胸骨圧迫を続けるも一向に反応がない。

 それでも美鶴は諦めないで何度も繰り返した。


 *


 どのくらい経っただろう。薄暗かった外に朝日が照らす。

 突然、癒維が腕時計に視線を移す。一度、険しい顔をすると、懸命に処置をしている美鶴の腕を掴んだ。

「美鶴さん、もうやめましょう。力弥さんの体を傷つけるだけです」

 それでも続ける美鶴。彼女は諦めたくなかった。

「美鶴さん!」

 大きな声で癒維は呼び掛ける。『助からない』その言葉が美鶴の頭の中で木霊する。

 遂に、美鶴も手を止めた。彼女は首に掛けている聴診器で力弥を診察する。機能停止を確認し、瞳孔も確認する。確認を終えると、腕時計を見た。

「午前六時三分死亡確認」

 時刻を告げると、医療隊員と瘉維は黙祷を捧げた。


 駆けつけていた中級者以上の者たちはやるせない気持ちだ。

「父さんが。父さん!」

 勇輝ははっとして我に返り、勢いよく駆け寄る。司は掴んでいた手を離していた。

 勇輝が駆け寄ってくるのに気付いた美鶴たちは勇輝を見やる。彼は涙を流しながら力弥を見ている。どっと涙があふれている。

「父さん起きてよ。父さんが居ないと……」

 言葉を口にすると、泣き叫んだ。美鶴を含む他の者はただ見守ることしかできない。


 十代の隼人たちは家族を亡くしている。だからこそ、失う辛さを知っている。

 無理に言葉を掛けたら余計辛くなることも。彼らは黙って見ていた。

 美鶴は勇輝の頭を優しく撫でると、立ち去った。

「美鶴さ、」

 司が部屋を出ていく美鶴に声を掛けようとする。

 額から汗が滴り落ちる美鶴の表情を見ると、声を掛けるのをやめた。


 美鶴に続いて何人か部屋を出ていってしまう。途中、鈍い衝撃音がしたのは馨が行き場を失った感情を壁にぶつけていた。

 残ったのは勇輝、司、瘉維と数名の医療隊員たち。

 彼らは誰一人喋らない。

 重苦しい空気が漂っている。

 不意に司が勇輝の隣に屈んで、黙祷を捧げる。すぐに目を開けると、勇輝の肩を抱く。

「力弥さんの分まで生きよう。それが力弥さんの願いでもあるからさ。俺たちにはまだやることがある。でも、今はたくさん泣いていい。悲しいもんな」

 優しい声音で声を掛け、立ち上がる。

 瘉維にあとを頼んでその場から立ち去っていった。


 外は気持ちとは裏腹に太陽が明るく輝いていた。


美鶴さん頑張ったのに力弥さんが(T-T)

生きて欲しかったけど、代償によって負担が大きすぎちゃったか…

勇輝、強く生きて


次回は亡くなるまで力弥は何を思っていたのか

力弥の視点の話です。


次話更新日は9月19日(木)の予定です。

良ければ感想、評価、コメントしてくださると嬉しいです。

誤字脱字もお待ちしてますm(._.)m


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