過去の真実
*この小説はフィクションです。
負傷している勇輝と力弥を連れ、美鶴は阻止する者の隠れ住処へと帰って来た。
あの後、一人では対応しきれず応援を頼んだ。それほど力弥の状態が芳しくなかった。
命は助かったものの予断を許さない状態。
峠を越えられるか問題だ。それは力弥次第なのだが、美鶴は懸念する。
以前、美鶴の酒場に通い詰めていた力弥。
来る度に悲しそうに亡くなった透子の話をしていた。酒の力とはいえ、とても寂しそうにしている姿を見てきた美鶴。
力弥が「生きる」選択をするのか分からない。出来れば生きていてほしい。そう思うのは、美鶴だけではないだろう。
出来ることをやったのだ。後は願うしかなかった。
そんな美鶴を余所に勇輝は手当てを受けた後、眠っている力弥の側で様子を見守っていた。
機械に繋がれている管が力弥の体にたくさん付けられている。その姿に勇輝は落ち込むばかり。
「父さん、ごめん」
勇輝の口から自然と後悔の言葉が出る。一度止まっていた涙があふれ出す。
そのまま、力弥が眠っているベッドの脇に顔を埋め、眠ってしまった。
*
勇輝は夢を見た。
真っ白い空間の遠くで父親である力弥が待っている。
力弥のほうへ向かおうと足を踏み出した瞬間、足元が崩れてしまう。手を伸ばそうと不意に力弥を見やる。
力弥は笑顔で待っているだけ。助けようともしない。
「父さん、父さん!」
勇輝はそのまま落下してしまった。
このまま力弥と離れて会えなくなってしまう。切ない思いになって、気がつくと目が覚めていた。
規則正しい音が勇輝の耳に聞こえてくる。それは力弥に繋がれていた機械の音だったのだが、力弥の顔を見て勇輝は驚いた。
「父さん、分かる?」
力弥が目を開いて天井を見ていたのだ。
力弥は勇輝の声に嗚呼と答えて、勇輝の頭に手を伸ばそうとした。
「待って。今、みっちゃん呼んでくるから!」
一人残された力弥は勇輝が出ていった後、笑みを零す。片手を握ったり開いたりを繰り返し、感覚を思い出しているようだ。
「そうか、戻ってきたのか。これが、最後の……」
力弥がぽつりと言葉を漏らした瞬間、どたどたと走る足音が聞こえてくる。
「父さん、みっちゃんを連れてきた!」
勇輝の大声に力弥は体を起こそうとする。勇輝がやってくると、後ろに美鶴がいる事に気付く。
美鶴は力弥がすぐに目を覚ましたことに驚愕している。
「大丈夫なの? まだ安静にしてなきゃ」
言葉を無視して体に繋がれている管を外す。美鶴が見兼ねて駆け寄ってくる。
「俺はこの通り大丈夫だ。それより、勇輝と話がしたい。広い場所に移動してもいいか?」
美鶴は答えようとしたが、力弥が勇輝を連れて部屋を出ていこうとする。美鶴は呼び止め、念のための診察をさせてほしいと言葉にした。
僅か数分の診察を終えて、力弥の体に異常ないことを確認する。
美鶴と力弥が少し話をした後、力弥が勇輝を連れて出ていってしまった。
勇輝は心配そうに一歩先を行く力弥の後ろ姿を見つめている。
先ほどまで父親とぶつかり合い戦っていたが、実は勇輝には何があったのか、はっきりと覚えていない。
ただ、奥底に眠っている感情が暴発し、力弥を傷つけ、気がついた時には倒れている力弥がいたのだ。どんな感情が暴発してしまったのかも思い出せない。
不意に力弥が何かを感じ取り振り返る。勇輝の不安な表情に笑みを浮かべる。
「不安か? 安心しろ。大丈夫だ」
それでも勇輝の表情が曇っている。徐々に歩む足がスローモーションのようにゆっくりになる。
不意に勇輝は足を止めた。
「父さん、体は大丈夫? みっちゃんの言う通り、安静にしたほうが、」
「大丈夫だ。美鶴にも許可を取った。それよりお前に伝えなきゃいけないことがある」
勇輝の言葉を遮って力弥は話す。力弥にとって勇輝が不安がるのは分かっている。
なんとか不安にさせないようにしなければならない。勇輝に秘密にしていることがあるからこそ。
力弥の真剣な表情に勇輝は向き直る。力弥がここまで真剣になるには何かある、そう思ったのだ。
「その前にだ。勇輝、お前は強い。記憶が戻ったみたいだが、同時に力も取り戻したことになる」
その言葉に勇輝は記憶を辿る。
気が付いた時、自分は医務室に居たことを思い出す。記憶を無くすことは何度か経験したことがあるため、自分に何が起こったか理解することが出来た。
然し、いつも側にいた父親である力弥が居ないことを知ると不安になり、いても立ってもいられなくなり本部を抜け出した。
力弥を捜していたところ、瞬に遭遇した。
「そうだ、瞬が変える側になってたんだ。瞬もいたはずなんだけど……」
力弥はわしゃわしゃと勇輝の頭を撫でる。
「野郎どもに引き取られたんだろうが、瞬はきっと大丈夫だ。あいつも強い」
そうだよねと勇輝は納得し、力弥の言葉を信じることにした。
勇輝も瞬が強いことを知っている。強さを実感したことが何度かあるからだ。
同時に瞬があんなにも嫌っていたなんて思ってもいなかった。きっと、原因は自分にあるんだと勇輝は思い始める。
瞬を助けてやりたい、変えてやりたいと思うようになっていた。
「父さん。瞬を救いたい。救える気がするんだ」
勇輝の言葉に力弥は顔を綻ばせる。もう一度、勇輝の頭を撫でた。
「さすが、俺の息子だ。お前ならできる」
力弥の言葉を耳にして勇輝は笑みを浮かべる。
不意に力弥がどこからかロケットペンダントを取り出した。中を開いて勇輝に見せる。
女性の写真が入っていた。
閉じると、お前に譲ると言葉を発して勇輝の首にぶら下げる。
「もしかして、女の人が母さん?」
勇輝の問い掛けに嗚呼と答える力弥。
勇輝の母親、透子は勇輝が三歳の頃に亡くなった。そのため、勇輝は透子の顔を薄らとしか覚えていない。
「そうだが、お前が小さい時に亡くなったから覚えていねぇか。丁度いい。お前の母親、透子がなぜ亡くなったのか教えなきゃならねぇ」
その言葉に勇輝はごくりと唾を飲み込む。
父親が母親を殺した事実が頭の中に微かに残っている状態。その中で、唐突に父親から話が切り出される。
「病気だ」
たった一言、力弥の口から発せられる。
二人の間に沈黙が流れ始めた。
勇輝はじっと力弥を見つめる。力弥は真剣な眼差しで見つめ返す。
「父さんもだよね。病気なのは、」
沈黙を破ったのは思いもよらない勇輝の言葉だった。苦笑いする力弥。
勇輝の表情は変わらない。
「俺は、単純に能力の使いすぎだ」
そう言い切るも勇輝は信じない。小さい頃からずっと父親である力弥の側にいたのだ。嘘だということくらい分かってしまう。
「嘘だと思うなら殴ってこい。どのくらい力を取り戻したのかも試してやる」
然し、勇輝は背中を向けてゆっくりと歩き出すだけ。力弥は勇輝の姿に唖然とする。
「それも嘘でしょ。父さんは優しいから暴力で解決しようとしない」
勇輝が背中を向けたまま、後ろにいる力弥に話しかける。力弥の耳に鼻を啜る音が聞こえたが、黙ってついていく。
力弥は勇輝の成長ぶりに感心する。寂しい微笑を見せ、勇輝の頭を優しく撫でた。
それから二人は居た場所に戻っていった。美鶴に心配されたのは言うまでもない。
勇輝はみんなと合流したが、力弥は回復したのにも関わらず、美鶴に体を安静にするように強く言われてしまう。
力弥は少し疲れた様子でベッドに横になると、深い眠りについたのだった。
力弥さん復活!
と思いきやなんだか心配(๑•ૅㅁ•๑)
大丈夫だよね…
勇輝には分かってるのかな
次話更新日は9月12日(木)の予定です。
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