敵対する二人
*この小説はフィクションです。
今回の話は暴力表現が含まれます。苦手な方はブラウザバックでお願いします。
本部を抜け出した勇輝。彼は父親である力弥を捜していた。
一部の記憶を取り戻し、美鶴に力弥の居場所を聞いたが、美鶴は答えなかった。
口を噤んでいる美鶴の表情に勇輝は不安を覚える。
無事を願うしかない。それも我慢出来なくなり、自分の足で捜すことにしたのだ。
だが、どこを捜しても力弥は見つからない。勇輝の中で不安感が増幅していく。
そんな時、不意にある人物を見つけた。瞬だ。瞬は勇輝には気付いていない。勇輝は隠れて様子を窺おうとする。
その時、瞬が勇輝のほうを振り向いた。勇輝の姿を視界に捉えると、ぎろりと睨んだ。
勇輝はぶるっと肩を振るわせ、恐怖を感じた。
勇輝の背後に瞬の姿が現れたのだ。
「なんで、こんなとこにいんの? 俺が変える者になったってこと分かってる?」
瞬は問い掛けると、勇輝を蹴り飛ばした。
今の瞬は言葉通り変える者。勇輝を蹴り飛ばすことに動じない。寧ろ、勇輝から来てくれたようなもの。
瞬はにやりと笑う。瞬間移動して勇輝の目の前に現れる。
勇輝を思い切り殴ろうとするも、勇輝は反射的に素早く避ける。
それでも、瞬は攻撃を加える。拳の一発が勇輝の顔面に直撃する。その損傷で勇輝は怯んだ。
「今は俺のほうが強いんだから、避けたって無駄だよ」
勇輝は言葉の意味が分からなかった。今までだって瞬が弱いと思ったことがない。荒れてからの記憶がないのだから。
勇輝の様子に違和感を覚えた瞬は不機嫌な顔をする。
「まさか、まだ記憶をなくしたままなの? 阻止する者終わったね」
瞬の一言に勇輝の頭の中に過去の記憶がよぎる。
瞬と言い合いして、終いには暴力沙汰になる記憶。どちらが強いかを決める喧嘩には大人を困らせていた。
医務室にいた時に思い出した記憶では睨まれはしたが、喧嘩にまでは至る記憶はなかった。
思いも寄らない記憶に立ち留まる。
その隙を見て、瞬が電光のはやさで攻撃をしかける。
何かに勘付いた勇輝が我に返る。反応が遅れ、腹に瞬の蹴りが当たってしまった。
「まだ弱いよ。本気出せよ」
言葉を言い放つ瞬の目が濃い紫色になっていることに勇輝は気付く。
紫色、それは強い嫌悪の色を示す。感情について勇輝は父親である力弥に教えてもらったことがある。
そのことを思い出し、何が起こっているのか、瞬が変える側になったことにやっと理解した。
思わず臨戦態勢に入る。
「瞬、そういうことなの? どうして……」
ぽつりと言葉を漏らし、理由を聞こうとする。再び瞬が攻撃を加えてきた。
勇輝は咄嗟の判断で片腕で防御するも強い衝撃に顔を歪ませる。
瞬の強さは最大限ではないものの力弥の修行に耐えてきた以上の力だ。
「防御ばかりじゃダメでしょ。攻撃してこいよ」
言葉を吐き捨てて、攻撃を繰り返す。
勇輝は痛みに耐えきれず、地面に膝をつけて屈んでしまう。
勇輝は強い。力弥の強さを受け継いでいるほどに。それを知っている瞬は何度羨ましがっただろうか。
然し、勇輝が荒れ狂う前はその力を制御していた。
力弥に言われてきたのだ。
何かを守る時に力を出せ、と。それ以外は全力を出さないことを瞬は知っている。
それでも、死ぬ気になったら全力を出してくれるのを期待した。全力の勇輝と戦いたかったからだ。
中々立ち上がってこない勇輝に瞬は苛立って強く蹴り付ける。
「なにしてんの? やり返さないとやられるよ」
そう言いながらも蹴ったり殴ったりを続ける。
やり返さない勇輝の体は徐々に痛々しい姿になっていく。
体に痣や怪我が多くなっていくのに勇輝は気にせず、瞬の攻撃を受ける。
反撃してこない勇輝に瞬は呆れて、その場を立ち去ろうとした。
息をひそめていた記憶が勇輝の頭の中で幾つも重なって映る。
「そっか、俺は……」
言葉を呟くと、不意に勇輝は立ち上がる。
立ち去ろうとする瞬の腕を掴んで引っ張った。その勢いで後ろに倒されようとした瞬はなんとか態勢を立て直す。
振り向いて勇輝の顔を見るが、勇輝は下を向いていてどんな表情をしているのか瞬には分からない。
「なに、やる気になった? じゃあさ、」
最後まで言い掛けた直後、顔を上げた勇輝の目が視界に映る。
勇輝の目が赤色と黄緑色になっていたのだ。優越を意味する。一瞬の出来事で瞬は動揺してしまう。
「逃げるのか? やっぱ、瞬は弱えな。俺のほうが強いってことか」
さっきまでの勇輝と違う様子に瞬は思わず口が開いてしまう。口調も変わっていることから、荒れている時期の記憶が蘇っていたのだ。
瞬は笑みを浮かべる。
「記憶が蘇った? 再開、」
言葉を発した途端、瞬の頬に強烈な拳が当たった。顔を歪ませ、怯んでしまう。
すぐに態勢を立て直すが、勇輝が次の攻撃態勢をとっている。
「今までは強さを試す喧嘩? でもさ、変える側になられたらやるしかないってこと」
勇輝は喋りながら、瞬の周りを囲うようにぐるぐる回っている。余裕を与えさせないように。
勇輝は瞬に向かって拳を振り上げる。それを躱すが、それを予測して勇輝はもう片方の拳を瞬の腹に当てた。
それを繰り返し、瞬は口から流血するほど痛々しい姿になっていく。今の勇輝の前では能力など無意味。
瞬がどんなに加速してもそれに追いついていく勇輝。
圧倒的な強さだった。
勇輝の攻撃は続く。
顔、腹、胸、腕、脚、全てに苦痛を与えて動けなくさせようとしている。感情的になった勇輝の力は計り知れない。
とうとう立ち上がれなくなった瞬に最後の一撃を加えようとした。その瞬間、それを遮るように男が現れた。
振り上げようとしている腕を掴んで攻撃を止めたのは力弥だった。
「親父、そこどいてくれない?」
睨みつけながら声を掛ける勇輝に力弥は険しい表情をするだけ。
勇輝を見つけ、考えるより先に体が動いていたのだ。
「どけよ。そいつは変える側なんだから、やらなきゃいけないだろ」
それでも力弥は動かない。
瞬が敵側になろうと、仲間だったことに変わりはない。なんとしても仲間に戻ってもらう、そう思っていた。
力弥がそんな考えを浮かべていると、今度は狂が現れる。
狂は見物して嗤っている。
「千堂勇輝が記憶を取り戻したようだな。これから親子対決ってところか? 精々、頑張ってみろ」
狂は指をぱちんと鳴らして姿を消してしまった。
直後、勇輝は頭を抱えた。辛そうな表情をしたのも一瞬のこと。
勇輝は力弥に強烈な視線を放つ。
「そういえば、親父は母さんを殺したんだよな。もう我慢するの嫌だから、消えてくれる?」
次の瞬間、力弥に飛びかかった。
勇輝が荒れていた頃の記憶が蘇っちゃった…
こうなると瞬でも止められないほど強いの⁉︎
力弥さん、勇輝の前に登場!
無理しない程度に勇輝を止めて!
次回は親子対決⁉︎
次話更新日は8月29日(木)の予定です。
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