最強の男たち
*この小説はフィクションです。
人目につかない場所。そこには二人の人物がいた。
阻止する者の組織内に侵入した武蔵。力弥に会うためにこっそり侵入した。
彼は力弥に話を持ちかけた。勇輝のためだと嘘を付いて。
話をする時が来たが、端的に言うべきか、それとも遠回しに言ってみるべきか、武蔵は考えている。
「話ってなんだ、じいさん」
人がいない場所に連れてこられたのにも関わらず、話を切り出さないことに力弥は少し苛立っていた。
それでも武蔵は話さない。武蔵の怪しげな行動に力弥は次第に顔をしかめる。
「勇輝のためとか言ってたな。何を考えてるんだ?」
力弥は苛立っているが、ふと思い出し問いかける。
武蔵は笑みを浮かべる。
その瞬間、力弥は身構える。
長年、武蔵は阻止する者だった。それは、力弥も知っている。いつからか急に居なくなってしまった。災害と被っていたこともあり、災害に遭って亡くなってしまったのかと思っていた。
それなのに、力弥の前に現れた。
突然、姿を現した武蔵に力弥は驚いた。徐々に不審に思い始めていた。
身構える力弥に歩み寄る。
「やっぱり、そういうことか」
戦闘が開始される、力弥がそう思った瞬間だった。
不意に武蔵が足を止めた。
「攻撃するつもりはありませんよ。ただ一つ。あなたもこちら側になりませんか?」
力弥の顔が険しくなる。
「何を言ってるのか分かってるのか? 過去を変える野郎共にはなりたくねぇよ。そんな事をすれば、世界は終わる」
力弥の言う通り、過去を変え続ければ人々を脅かす災害が起こり、甚大な被害を引き起こす。そうなってしまえば、世界が終わってしまう。
絶対に変える側にはなりたくないのだ。
武蔵はふっと溜め息を漏らした。
「言ったでしょ。勇輝くんのためですよ。彼はまもなく力を取り戻す。それは、あなたも分かっているはずです。取り戻せば、力を辿って変える者が襲ってくる。こちら側になるのは代償を無くして守るためです」
それでも、力弥は厳しい顔のまま。
息子の勇輝を守るためでも、変える側になりたくない強い意志を持っていた。それは、透子と誓った約束でもあった。
「あなたのためでもありますよ。能力を使いすぎて、代償の影響をかなり受けているはずです。体力に限界が来ているんじゃないですか?」
力弥は否定できなかった。自分でも分かっているからだ。
代償の大きさは能力者によって異なる。小さい影響から大きな影響までそれぞれ。
どんな代償でも積み重なれば、体に悪影響を与える。
力弥にとっては体に大きな負担が掛かりやすい。
歳を重ねていることにも関係しているが、何かあれば能力をすぐ使う。勇輝のためなら尚更だ。
そのことは武蔵も知っている。寧ろ、そのために利用しようとしているのだから。
そんな武蔵の考えなど知らず、力弥は険しい表情を続ける。
二人の間に不穏な空気が流れる。
「私はただこの世界から悲しみを無くしたいだけ。そのためにはあなたの力が必要なのです。狂を倒すにはそれしかない」
武蔵が沈黙を破った。黙って耳を傾ける力弥だったが、不意に二人の耳にぱちぱちと拍手する音が聞こえてきた。
音のするほうへ顔を向けると、狂が不敵な笑みを浮かべて拍手をしていた。
「流石は武蔵さんだ」
武蔵の言葉に感心して狂は笑っている。表には出さないが、元阻止する者だった行動に動揺もしている。
信用していたはずなのに、簡単に裏切られる。
予想はしていたものの本人からの言葉を耳にして少し驚いていた。
驚きは狂だけではない。突然、現れた狂に武蔵と力弥は唖然としている。
思わぬ人物が現れたのだ。当然の反応だった。
「てめぇだな。変える者の最高者ってのは」
力弥は言葉を発したかと思うと、いきなり狂に襲い掛かろうとした。
その瞬間、狂は力弥の背後に瞬間移動した。
「まぁ、そう焦るな。今、オレは手を出さない。武蔵さんの裏切りも許してやる。だから、」
狂の言葉を遮って攻撃を加えようとするが、意図も簡単に躱わす狂。
「だから、焦るなって。焦ったところで体に負担掛けるだけだ」
それでも、攻撃の手を止めない力弥に狂は溜め息を吐く。
力弥は能力を発動していた。身体能力を上げ、攻撃を開始する力弥だが、狂は躱している。
二人の激しい攻防が始まってしまった。
「狂には勝てない。今すぐ止めないと倒れますよ!」
武蔵の大声も届かないほど力弥は狂を倒そうと必死になっていた。武蔵は手を貸すことはなく、あきらめたようにため息をつくと、その場から消えてしまった。
残った力弥と狂。二人は未だに攻防を繰り返している。
力弥が矢継ぎ早に攻撃を加えようとするも狂は躱わしたり守備で受け止めるばかり。守備をしているが、平然としている狂は反撃しようとしない。
次第に力弥に疲れが見え始める。
「どうした? 阻止する者の最強の男の力はこんなものじゃ、」
狂が言葉を発すると、頬に何かが当たった鈍い音がした。その瞬間、狂は力弥の背後に回り、力弥を蹴り飛ばす。
「人が話しているのに攻撃するのはよくないな。それに攻撃の威力は弱いんだよな」
狂は言葉を言い放つ。
力弥は狂の攻撃を受けて倒れるもすぐに立ち上がる。
「油断、する、のが、悪い、」
力弥は呼吸が乱れながらも言い返し、次の攻撃に移ろうとした。突然、胸をおさえて苦しみ出した。
咄嗟にポケットから液体状の薬が入ったボトルを取り出すと、一気に飲み干す。
乱れていた呼吸がおさまっていく。
呼吸が整うと、再び攻撃を加えようと攻撃の態勢をとる。
「近いうちにお前は倒れる。それを待つのも悪くない」
狂は言葉を残し、姿を消してしまった。
その場に残された力弥の前に武蔵が戻ってきた。武蔵は危惧を感じる。不安な表情で力弥を見やる。
「ほら、すぐ能力を使ってしまうでしょ。こちら側に、」
武蔵が言い掛けると、力弥がぎろりと睨んでいるのが視界に映った。
「ならねぇよ」
言葉を吐き捨てるように答えると、力弥はその場から去っていった。
武蔵さんは変える側なのに狂を倒そうとしてる⁉︎
そういうことだったのか
力弥さんはすぐ能力使うんだから…体大丈夫かな(・_・;
次回は本部からいなくなった勇輝の前に瞬が現れる!
次話更新日は8月22日(木)の予定です。
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