表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/80

大きな決断をするとき

*この小説はフィクションです。


 司と流を連れ戻して帰ってきた美鶴は医務室に全員を呼び出した。

 今一番安全なのは医務室。全員を呼び出すにはそこしかなかった。

 然し、居るのは医療隊員十数名と力弥を除く中級者以上の阻止する者(ブロッカー)だけ。

 結局、下級者たちは発見できなかった。見つかった司と流でさえ重症。下級者たちは絶望的と考えてもいい状況だ。


 司と流は緊急治療室に運ばれ、すぐに治療を受けた。

 未だに意識不明の流だが、幸い命は助かった。迅速に対応したのが良かったのだろう。

 眠っている流は別室で経過観察中。司だけでもと美鶴は声を掛けた。


 中級者以上のほとんどの者が集まると、美鶴は辺りを見渡した。

 仲間の死を知っている者は未だに落ち込んでいた。然し、この苦しい状況こそ美鶴は雰囲気を変えなければと思った。

 みんなを呼び掛けたにも理由がある。敵である変える者(ブラックチェンジー)が先制攻撃を仕掛けてきたのだ。

 ここを離れなければならない。

「疲れてると思うけど、報告しなければいけないことがあるの。まず、司ちゃん」

 美鶴が第一声を発し、司に目を向ける。司は感じ取っていた。この重苦しい空気には何かあるのでは、と。

「残念な知らせだけど、風粏くんが亡くなったわ……」

 直後、鼻を啜る音が聞こえてくる。悲惨な風粏の姿を見てしまった探が声を殺して泣いていた。

 そんな姿を横目で見ていた司は探に歩み寄る。探の隣で止まる。

 彼の肩をやさしく叩くと、美鶴に向き直った。

「美鶴さん。後で、風粏に会いに行ってもいいかな?」

 美鶴は難しい顔をする。


 司の怪我はまだ完治していない。今は休ませたい気持ちだった。

 司は風粏の最後を知らない。どんな状態で亡くなったのかも。

 だから、会わせてあげたい気持ちもあった。

 美鶴は考える。

「大切な仲間なんだ。最後に会えないなんて辛い。美鶴さんなら分かってくれるはず」

 司は言葉にするが、美鶴は黙ったまま。会わせたくないわけではない。

 司は二回も変える者(ブラックチェンジー)と戦ったのだ。一回は意識不明になるほどの攻撃を受けた。二回目は意識はあるが、倒れるほどの損傷ダメージを受けている。

 回復はしたもののまだ万全ではないはずだと美鶴は考える。今は絶対安静にさせたかった。

「美鶴さん! あなたも力弥さんに教わったはずですよね。もし、仲間を失うことがあれば最後には立ち会えと。たとえ、歳が離れていようと仲間は仲間だ。仲間を大切にしているからこそ、最後に会いたいんだ」

 司は納得してもらうために大声で叫ぶ。


 美鶴が出した答え。

「分かったわ。その代わり、癒維が一緒についていくこと。何かあった時に対応できるでしょ。それでいいわね?」

 仲間に会わせることを選んだ。結局、それが一番だと思ったのだ。

「ありがとう。美鶴さん」

 司が御礼の言葉を伝えると、美鶴は癒維に目で合図を送った。癒維は首を縦に振った。

「俺も行っていい? あの時は突然すぎて、気持ちの整理がつかなかったから最後の別れを告げてなかったんだ。だから……」

 不意に探がぽつりと言葉を漏らし、話に加わる。

 探の言葉に一瞬迷いを見せる美鶴だったが、能力の発動を防ぐために司に触れないことを約束させた。



 美鶴はみんなにまだ伝えなければならないことが三つある。彼女は気持ちを切り換えるために深呼吸する。

「あと三つ。伝えたいことがあるんだけど、とても重要なことを先に言うわ」

 言葉を切り出すと、辺りを見回す。

 皆、真剣に耳を傾けている。

「みんなも知っている通り、ここは敵に見つかってしまったわ。司ちゃんと流ちゃんが狙われたのもそのせい。だから、隠れ住処(アジト)に移動しようと思ってるの。みんなはそれでいい?」

 美鶴は悩みに悩んだ。なぜなら、みんなが阻止する者(ブロッカー)の本拠地であるこの場所に引き取られて育った場所であることを知っていたから。『思い出の場所』でもあった。


 敵に見つかってしまった以上、離れなければならない。そうしなければ、次の犠牲が出るかもしれないと美鶴は考えた。

「俺は構わない。変える者(ブラックチェンジー)は強い。戦える状況でも、代償がある以上は不利になる。隠れ住処アジトに移動することに賛成する」

 最初に賛成したのは司だった。

 司は敵と二回も戦った。敵の強さを知っているからこそ、美鶴の提案にすぐに賛同した。

 司が賛成すれば、他の者は従うだろう。そう思っていた。


「私は反対。ここで教わったから、ずっとここに居たい。何があっても、私はここを離れたくない。それに、力さんが戻ってくるかもしれない」

 唐突に寧々が言葉を発した。意外な言葉にみんなは寧々のほうを振り向く。

 本当に意外だった。

 寧々が最初に来た時は耳を塞いでいて、一定の距離を取っていた。

 他の者と違って、心を開くのにとても時間が掛かったと言ってもいい。そんな寧々が反対してくるとは誰も思っていなかった。

「そうだ、父さんがまだ、」

 その場にいた勇輝が呟くように言葉を口にする。その様子を見た美鶴は不安げな表情をする。

「司ちゃんには言ってなかったけど、あの人がまた行方不明になったの。警報を聞いたでしょ。様子を見に行ったきり戻ってこないまま。それに、勇輝くんが記憶を取り戻したらしいの」

 説明するように話す美鶴に司は勇輝のほうを向く。

 今までと様子が違う勇輝に気付く。

「荒ぶってないってことは反抗してた頃の記憶は戻ってないようだね。荒ぶっていたら、風粏が亡くなったことに悲しむはず。それにいつもより落ち着いている。記憶を無くしてからの記憶も覚えていないみたい」

 美鶴は咄嗟に勇輝を見やる。

 勇輝は驚いているのか、目を見開いている。

「そうなの?」

 勇輝は答えて小さく返事をした。


 勇輝から話を聞いている隼人と寧々以外は同じ反応をしている。

「みっちゃん、父さんは生きてるよね?」

 問いかけに戸惑う美鶴。力弥が生きている保証はない。然し、簡単にやられるような男ではないことは知っている。

「みっちゃん!」

 勇輝の呼ぶ声にはっと我に返った彼女は早々に話を切り上げてしまった。そのまま、医務室を出ていく。

「みっちゃん、父さんは?」

 勇輝は大声を張り上げて追いかけようとするが、司に掴まれてしまう。

 勇輝の声は届かなかった。


 数時間後。

 勇輝は目を盗んで、本部を抜け出した。行方不明の力弥を探しに。


色々と決断するとき。

風粏の死を受け入れるために探は別れる決断を。

美鶴はみんなと本拠地を離れる決断を。

ちょっと待って…勇輝、本部を抜け出すなんて危険なんだってば!

次回は武蔵と力弥が移動した場所に怪しい人物が現る⁉︎


次話更新日は8月15日(木)の予定です。

良ければ感想、評価、コメントしてくださると嬉しいです。

誤字脱字もお待ちしてますm(._.)m


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ