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味覚能力者 浅味 風粏

*この小説はフィクションです。

今回は流血シーンがあります。苦手な方はブラウザバックでお願いします。


 それは突然のことだった。いや、馨と探から離れた俺が悪いんだ。

 本部からまた出られると思って、気が大きくなっていたのかもしれない。

 探の後を追っていたら本部の場所から離れていた。偶然なのか、それとも必然か分からない。

 美鶴さんに注意された時には感じなかった懐かしい匂いに誘われた。

 それは、とても美味しそうな料理の匂い。その匂いに吸い寄せられて、俺は大通りから離れ、裏道にそうっと足を踏み入れる。


 薄暗く、不気味な雰囲気が漂っているけど、懐かしい匂いには我慢できなくなってしまった。

 人の気配が全くない。いや、少し前を誰かが歩いている。こんなところに入るなんて、やっぱりこの匂いに吸い寄せられてきたんだろうな。

 そう思っていると、少し前を歩く男二人の歩く向きが変わる。俺に近づくように歩いてきた。

 一人の男の言葉を耳にして、俺は血の気が引いた。確かに男は口にしたんだ。

『能力者』という言葉を。

 俺は一歩一歩後ろに下がる。それでも、男たちは近付いてくる。

 だんだんと足早になり、男たちに背を向けてしまった。

 すぐに背中に痛みが走る。激しい痛みに耐えきれず、膝をついた。

 一瞬、何が起こったのか分からなかった。

 恐る恐る振り返ると、男の一人が剣を俺に向けていた。それで何が起こったのか察してしまう。


 分かっているのに、思わず自分の背に手を回して確認してみた。嫌な感触が手元に伝わる。

 予想通り、自分の手に血が付いていた。

 思わず、言葉を失う。


 このままじゃやられる。そう思った瞬間、剣が振りあげられようとしているのが目に入る。

 咄嗟に左腕で防御した。それでも、攻撃を受けてしまった。

 左腕から血がぽたぽたと滴り落ちる。

 もし、防御していなかったら、完全にやられていたかもしれない。

 それなのに、ずきずきと傷が痛んで動くことができない。このままじゃ……。

剣十けんととどめは俺がやる」

 男の言葉が聞こえた。体を必死に動かそうとするけど、体は思ったように動いてくれない。


 本当は分かってたんだ。怪しい男たちを見つけた瞬間、危険だってことを。美鶴さんに何度か言われていたんだ。


 一人の男が目の前までやってきた。直後、嫌な記憶が今になって過ぎる。最悪だ。

『なんでお前は生きてんだよ』

『三組のみんなを殺したのはお前なんじゃないの』

『殺人じゃん。やば』

 あの時はどうしてそうなったのか分からない。いや、絶対、俺が美味しいものかそうじゃないか見分けられるのが悪かったんだ。

 じゃなきゃ……。


『風粏ってすごいよな。今度、一緒に新作食べようぜ』

 嫌な記憶を消してくれるように、本部に来てからの記憶が過ぎった。

 そして、あの言葉も。

『人の為に生きろ。お前はその為に生きているんだ』


 そっか……。だから、逃げずに本部にずっといるんだ。

 血とともに、涙が地面にこぼれる。

 俺は立ちあがるために必死に耐えた。

「無駄だ。今更、立ち上がろうとしたところでかなりの深手だ。せめて能力を使えば勝てたかもな」

 俺の能力は今の状況では役に立たない。人より味覚がいいだけなんだから。

 それでも、戦えるだけ戦わないといけないんだ。それが、能力者として生まれた役目なんだ。


 やっと立てた直後だった。勢いよく後ろに吹き飛ばされ、建物に激しく体を打ちつけた。激しい痛みが全身を駆けまわる。

「まず一人目、」

 突如、目の前が真っ暗になった。

 みんな、ごめん。何もできなかったよ。



 **



 今日は一番の楽しみがある。

 それは、いつも楽しみにしている給食の時間の献立メニューにあった。俺の大好物、肉じゃがだ。

 早く時間にならないかなと気にしながら午前の授業を受けることに。


 チクタクと時を刻む時計を見つめていると、ふと声が聞こえてくる。

「浅味くん」

 隣の女の子に小声で呼びかけられる。はっと我に返るけど、なぜ呼びかけられたか分からない。

「浅味くん。浅味風粏くん!」

「は、はい」

 名前を呼ばれて咄嗟に立ち上がって返事をした。辺りを見渡すと、同じ教室の子たちがこっちを見ている。

 大声で名前を呼んだ先生も見ている。先生は怒っているように見えた。

 机に置かれている教科書と黒板を交互に見て問題を探す。

 直後、授業終了の鐘が鳴った。

「とりあえず、浅味くんは復習するようにね」

 先生は言葉を口にして、授業終わりの合図をして一旦教室を出ていった。

 周りの男子たちは俺を見て笑っていた。

「風粏、給食を待ってるんだろ。頭の中、食べ物でいっぱいだもんな」

 一人の男子が言う。

「でも、風粏くんの言う通りでどれか美味しいか不味いか分かるよね」

 もう一人の男子が言葉を口にする。その言葉でみんなは納得していた。

 確かに俺が口にして美味しかったら美味しいと言うし、不味かったらほとんどのみんなは不味いと言う。

 みんな俺の味覚を信じていた。



 ある日、それは起こったんだ。

 学校でいつもの給食が出された日だった。その日はなぜかほとんど食欲がなかった。

 給食の準備が終わると、みんなは今か今かと食べるのを楽しみにしている。

 突然、誰かが肩をどんと押してきた。振り返ると、いつもいたずらばかりする男の子だった。

「風粏、食べようぜ。今日も美味しそうだぞ」

 意外な言葉に呆気にとられてしまった。いつもなら、人が嫌がることをするはずなのに……。


「今日も美味しくいただきます!」

『いただきます!』

 ぼんやりとしていると、いただきますの言葉の挨拶が耳に届く。何かがおかしい。違和感を覚えた。

「待っ、」

 待つように言おうとしたけど、遅かった。辺りを見渡すと、教室内のみんなが食べ物を口にしている。

 みんなが……。

「どうし、た、の、」

 目が合った女の子が言葉を発した瞬間、女の子は苦しみ出した。

 他のみんなも同じように苦しそうにしている。そう、みんな、教室内の全員が息を荒らげて苦しそうにしている。

 数分も経たないうちにみんなが倒れ始めた。誰か食べていない人はいないか必死にあたりを見渡す。

 幾ら見渡しても、みんな倒れている。


 どうすればいいのか分からない。俺のせいじゃない。俺がみんなを止めていれば……。

 目からしずくが垂れる。悔しくて、その後のことは覚えていない。



 俺は他の級に移された。移された後の日常は思ってもいない毎日だった。

 虐められる毎日が続いた。

 ある日、酷いことを言われた。

『なんでお前は生きてんだよ』

『三組のみんなを殺したのはお前なんじゃないの』

『殺人じゃん。やば』

 胸に突き刺さる言葉が何度も襲いかかってくる。

「なんでだよ! お前、消えろよ!」

 そう言って殴られる。そこで血の味を初めて知った。



 そんなある日、また嫌なことが起こった。

 その日は家に帰ると、しーんと静まり帰っていた。いつもなら、お母さんが俺の帰りを待つように心配して駆けつけてくれる。今日もそう思っていた。

 家に帰ると、お母さんとお父さんが倒れていた。

『殺人じゃん』

 その言葉が頭の中で駆け巡る。

「違う、違う。俺じゃない……」

 その場から逃げ出していた。いつの間にか知らない場所に来ていることに気づく。


 不意に目の前に男の人が現れた。

「おい、ガキ。俺たちのところに来い」

 事情も知らない人が目の前に現れて、何を言ってるんだと思った。そもそも、知らない人についていっちゃダメだと教わったんだ。

「おい、ついてこい」

 無理矢理だ。腕を強く掴まれ、体が宙に浮かんだ。

 まるで誘拐じゃないか。それでも、力の差で抵抗できなかった。自分の番か……そう思った。


 気がつくと、知らない場所に連れてこられた。

「いいか、人の為に生きろ。お前はその為に生きてるんだ」

 男は言う。

 それから、俺はそこで過ごすことになった。そこからはいい思い出のほうが多い。


 ああ、そっか。俺は今まで本当の優しさを知らなかったんだ。

 でも、もう終わりだ。みんな、ありがとう。さようなら。


あああああ…風粏の過去、辛いよおお。゜(゜´ω`゜)゜。

耐えたんだね…さようならなんて言わないでええ


次話更新は7月11日(木)の予定です。

次回は登場人物紹介などの追加を更新します。

(最初の人物紹介など過去を変える者の次にあります)

良ければ感想、評価、コメントしてくださると嬉しいです。

誤字脱字もお待ちしてますm(._.)m

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― 新着の感想 ―
[良い点] 初めて見ましたが、良い作品です!これからの物語を楽しみにしています!
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