募る不安感に
*この小説はフィクションです。
美鶴は勇輝、寧々と隼人を連れて医務室に向かっていた。途中、勇輝以外は異変に不安を覚えるばかり。
廊下で誰一人として、他の能力者に会わないのだ。それぞれ異変には気付いていた。
それなのに、歩を進めても、下級者に会わないのは初めてだった。
「ねぇ、美鶴さん。人の呼吸音がしないんだけど、大丈夫、だよね?」
不意に寧々が不安そうに問いかける。
寧々は耳がいい。人の呼吸音が聞こえるほど。
過去に嫌な経験をして、人が苦しむ呼吸が苦手だ。だからといって、周りに全く呼吸音がしないのも彼女にとっては不安になってしまう要因の一つ。
廊下を行き交う隊員たちの呼吸には慣れている。
それなのに、今は全く下級者の呼吸音が聞こえない。次第に不安になり、その不安をかき消すために問いかけた。
寧々の問いかけに美鶴は顔をしかめる。大丈夫だとはいえない。
逸樹と名乗った少年が突然と現れた。彼は馨の友人だと口にしたが、本部内は限られた者しか入れないことになっている。
それにも関わらず、入ってきたということは変える者と関わりが何かしらあるということ。そうだとしたら、危険が及ぶかもしれない。
阻止する者にとって不利な状況だ。どうすれば、切り抜けられるか。
そんなことを美鶴は考え続けていた。
美鶴の前を歩いていた寧々が立ち止まる。美鶴は考え事をしていたせいか、急に立ち止まった寧々にぶつかってしまった。
「ごめん、寧々ちゃん」
すぐに謝って寧々を見るが、寧々は耳にしているイヤーマフを押さえつけていた。
寧々の苦手な場所、医務室。その場所に辿り着いたことを証明していた。
「隼人くん。先に勇輝くんを連れて行くから、寧々ちゃんを頼んでいいかしら」
後ろにいる隼人に声を掛けると、返事を聞くまでもなく、勇輝を連れて医務室の中へと入っていった。
美鶴は勇輝を心配しつつ、居なくなった司と流のことも気に掛ける。
瘉維からの連絡もなかった。未だに見つかっていないのは本部から外に出てしまった可能性がある。或いは司の能力で見えないだけかもしれない。
そうこうしている間に美鶴の視界に瘉維の姿が映る。
「ありがとう。でも、まだ……。二人が心配で、」
美鶴が声を掛ける前に瘉維が言葉を発し、報告する。医療隊員、数人で捜し回っても、二人の姿が見つからなかったらしい。
誰よりも心配性な瘉維の表情が重々しくなっているのが美鶴にも分かった。
「こっちも捜してみたんだけど、駄目だったわ。あとは探くんと馨くん、風粏くんの三人で捜してるわ。きっと見つかるわよ」
それでも、瘉維はまったく表情を変えない。美鶴もそうだが、瘉維は医療知識があり、二人の体調を良く知っている。
それに加え、二人と同年代。だからこそ、体調の悪さに気づきやすいのかもしれない。
瘉維の中で不安が増していく。
不意に瘉維は肩をぽんと叩かれた。
「瘉維ちゃん、大丈夫よ。取り敢えず、意識不明だった司くんが目を覚ましたってことじゃない。それだけ分かっただけでも良かったことよ。二人が無事であることを信じましょう」
美鶴に元気付けられ、瘉維の表情が漸く少し和らいでいった。
ふと美鶴の側にいる勇輝に気がつく。
勇輝は頭を抱えていてとても辛そうだ。
幾つもの記憶が頭の中に流れ込んできて、混乱が収まるのに時間が掛かっている。
一向に落ち着きを取り戻さない。
「勇輝くんを医務室で休ませてほしいの。今回、思ったよりも記憶の代償が大きいらしいの。警報が鳴る前からずっと頭を抱えてて……。お願い、癒維ちゃんにしか頼めないの」
美鶴に頼まれて、断れないのが癒維。それを分かってて美鶴は癒維に頼んだ。
癒維はすぐに頼みを引き受け、勇輝を預かることに。頭を抱えている勇輝を刺激しないように、勇輝を心配そうに見つめる。
「廊下で待たせてる、隼人くんと寧々ちゃんもお願いしたいの。二人とも代償があまりにも大きいみたいで、検査も頼めないかしら」
その言葉に癒維は息をのむ。
美鶴が口にした検査という言葉には二人の能力に関わる五感の一つが低下していることを意味する。
隼人は視力、寧々は聴力。検査を頼まれたということは深刻な状態だと察した。
「時間は掛かると思いますが、任せてください」
美鶴は御礼の言葉を伝えると、医務室を去っていこうとする。癒維に顔を向けて、眉を曇らせる。
「あの人がまた居なくなったわ。警報の後、様子を見に行ったきり戻ってこないの。あの人も含めて、捜しに行ってくるわ。何かあったら、連絡する」
美鶴は返事も聞かず、その場を後にした。
責任重要な役目の美鶴さん、色々考えてしまいますよね…力弥さん早く戻ってきて( ´Д`)
というか、ブロッカーが行方不明になるの多くない⁉︎危険だよ…
次回はブラックチェンジーが現れる。
次話更新日は6月27日(木)の予定です。
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