強い思いに突き動かされ
*この小説はフィクションです。
緊急会議室内。先ほど、思わぬ人物が現れた。
馨の友人である、逸樹という少年。馨にとっては久しい友人なはずなのに、戸惑いを見せた。
友人が能力者であるはずがないのだ。
馨が小さい頃、能力に悩んでいた時に良くしてくれた友だちだっただけのこと。
たとえ、途中で能力が表れるとしても、先ほどの逸樹からはそんな様子はなかったと馨は感じ取った。
だが、美鶴は違う。馨の友人であっても、美鶴からしたら初対面。能力を持っている可能性があれば、変える者の可能性が高いと思ったのだ。
刺激すれば、襲ってくるだろう。上手く追い返すように、断った。
扉を閉め、去るのを待った。すぐに遠のいていく足音が聞こえ、廊下はしんと静まり返る。
「どうして、追い返すんだよ。逸樹は俺の友だちなんだ。それを簡単に断るなんて、どうかしてる」
馨は声を荒げる。今からでも遅くない。そう思ったのだろう。
そのまま、逸樹の後を追いかけようと廊下に飛び出そうとした瞬間、美鶴がぐいっと馨の腕を掴んだ。
「どうかしてるのはあなたよ。彼が変える者だったらやられてたかもしれないのよ。それだけは忘れちゃダメ。それに、あなた。戸惑って突っ立てたじゃない。一瞬でも、あっち側だって思ったんじゃない。尚更、ダメよ」
美鶴は馨の顔をまっすぐ見つめ、強く言い聞かせる。それでも、納得がいかない馨は掴まれている腕を振り切ろうと前に進もうとする。
馨より美鶴の力が強く、部屋の奥に戻されてしまった。
そんなやり取りをしていると、不意に携帯の着信音が鳴り響いた。
美鶴がポケットから携帯を取り出し、電話に出る。
「癒維ちゃん、どうしたの?」
どうやら、電話の相手は癒維だったらしい。電話の向こうの癒維は焦っている。
「落ち着いて、何があったの?」
美鶴は落ち着かせるように問いかける。癒維の言葉を聞いて、彼女は驚く。
すぐに会話を終わらせ、部屋にいるみんなを見渡す。漸く、落ち着いてきた雰囲気だった。
一呼吸置いて、言葉を口にする。
「休ませていた流ちゃんと司ちゃんが居なくなったらしいわ。みんなで手分けして捜しましょう」
美鶴の言葉を耳にし、真っ先に動いたのは馨だった。彼はすぐに部屋を飛び出していった。
「ちょっと待ちなさい!」
呼び止めた美鶴の声も届かず、探も駆け出そうとする。直前で、美鶴は扉の前を遮った。
探は美鶴に強い眼差しを向ける。
流と司とともに変える者である麗と戦った探には二人の状態が分かっていた。あの状態じゃ、いずれ限界がきてどこかで倒れてしまうかもしれないと考えたのだ。
それに、二人とともに戦ったからこそ心配している。
「何かあったら、伝えるからいいよね。そのための俺の能力なんじゃない?」
探の言葉に美鶴は目を瞑り、深いため息を吐いた。
力弥が再び居なくなった今、美鶴が中級者以上をまとめなければならない。重要な役目になり、責任も重大だ。
目を開け、探に向きなおる。
「本当は能力を使わせたくないけれど、そうも言ってられないわね。緊急時になる前に連絡ちょうだい。いい? 緊急時になる前よ」
探は美鶴の言葉に返事をすると、すぐに部屋から飛び出すように出ていった。
その後ろに風粏もついていっていることに気がついた美鶴だったが、時すでに遅し。
仕方なく、見逃すことにした。探と馨がついていれば大丈夫だろう、と。
それから、美鶴は寧々の様子を見る。寧々はすでに調子を取り戻したように顔をあげていた。
美鶴と視線が合い、少し不安な表情から真剣な表情になる。
「私はもう大丈夫。二人を探さなきゃいけないんだよね。私、いけるよ」
先程と打って変わって、表情が明るい。内心では、二人を心配しているはずだ。
隼人も同様の表情だ。寧ろ、隼人のほうが誰よりも心配していた。
二人とともに変える側の麗と戦ったのだから。
二人を無理させたことに責任を感じていた。言葉に出さずとも、役の立たなさに後悔している。
然し、隼人は十代。一回りも年齢を重ねている流と司のほうが能力の使い方を熟知している。
二人に頼らなければ、やられていただろう。
「美鶴さん、二人を早く探さないと……」
焦る隼人だが、美鶴は無言のまま動こうとしない。
その理由は、未だに頭を抱えている勇輝がいたからだった。
それに加え、隼人が能力の代償で視力にかなりの影響を受けていることも察している。寧々も多少は聴力に問題が生じているはずだ。
どうすれば、難局を乗り切り、二人を捜せるのか。ある結論に辿り着く。
「医務室から近い部屋から居なくなったから、医務室に向かいながら捜しましょう。見つからなかったら、あなたたちは医務室で休むようにしてくれるかしら。もう、あなたたちに無理はしてほしくないわ。それに、癒維に会って詳しい話が聞きたいわ」
寧々と隼人に応えるように言葉を口にすると、二人は気難しい表情を示す。
彼らは休むということはしたくない。子どもだからこそ、出来る範囲なら役に立ちたいのだ。
能力者である以上は代償が付きもの。彼らにそうはさせてくれない。
「まだやれるよ。ね、隼人」
寧々は隼人に話を振る。隼人は嗚呼と答えて、美鶴に真っ直ぐな眼差しを向ける。
「あなたたちの言いたいことは分かるわ。けどね、勇輝くんもいるし、今は医務室に向かいたいの。そのあとに色々と聞くわ」
寧々はがっかりして仕方なく、美鶴の話を聞いた。
やっとの思いで、流と司を捜しに動き始めた。
隼人は視界が霞むのを感じつつも、三人の後についていった。
久しぶりに会ったら、どうしていいか分からなくなるの分かるよ、馨。でも、美鶴さんの考えも分かるんだよね…悩ましいところ。
そして、二人が居なくなった⁉︎(以前に部屋を抜け出したこと書いてます)
落ち着かないブロッカー本部。どうなるんだろう…
次話更新日は6月20日(木)の予定です。
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