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能力者がやるべきこと


 勇輝は目を覚ました。どうやら眠っていたようだ。勇輝は目を覚ますと、寝床から起き上がり立ちあがろうとした。

「うわっ!」

 力弥がいることに気付かず、勇輝は声を上げて驚いてしまう。力弥は壁に寄りかかり、煙草を咥えている。勇輝が声を出してしまったせいで、力弥は勇輝のほうへと振り向いた。


 二人は目が合った。勇輝には力弥が睨みつけていると思い、一瞬怯んでしまう。

「目覚めたか。お前は記憶を無くしちまってる。全て(・・)な」

 勇輝は力弥の言葉が理解出来ない。だが、思い返してみる。

 目の前の男が誰だか分からない。男は自分を探していた。

 少し前に別の男も勇輝を探していたようだった。それ以前に勇輝は自分が何者かも分かっていない。思い当たる節が有りすぎて、混乱している。


 力弥の言う通りだとすると、勇輝は力弥を頼るしかほかない。

 第一、勇輝には行く当てがない。都合が良いといえば良い。ただ、男の正体が分からない以上、まだ信用は出来ない。

「おい、聞いてるのか?」

 突然、力弥が問い掛ける。勇輝は我に返り、おどおどと怯える。

 視線をゆっくりと力弥に向ける。きつく睨みつけているのが分かる。勇輝は視線を逸らしてしまった。

 何度も力弥に関わっていても、慣れないだろうと勇輝は思った。いかつい表情で口調が悪い。

 何よりも行動が荒っぽい。そんな男なら誰だって関わりづらいだろう。何も知らなければ。


「おい、俺の話を聞けって言ってんだろうが!」

「は、はい!」

 力弥が唐突に近くの壁を蹴り、勇輝に怒鳴る。勇輝は思わず返事をしたが、声が裏返ってしまった。

 力弥は小さな声で独り言を吐き捨てると勇輝を見やる。勇輝にとっては力弥の目つきがどう見ても睨んでいるように見えてしまう。ひいっと心の中で叫ぶと目を逸らしてしまった。


 そんな時、部屋の扉を叩く音が聞こえてくる。力弥の返事も待たずに扉は開く。

 部屋に入ってきたのは流だった。流のことも知らない勇輝は不安が増すばかり。

「力弥さん、乱暴すぎます。勇輝くんが怯えているのが分かりませんか? もっと自分の、」

「うるせぇ。こうでもしないと俺だって逃がしてたかもしれねぇじゃねぇか」

 流は力弥を説得するように話すが、何かを言う前に力弥に遮られてしまう。力弥は強気に言葉を口にするも流には効いていないようだ。呆れていた。


「暴力は駄目です。もっと人に優しくしてください。本当に世話が焼けます」

「ったくよ。んじゃ、お前に勇輝を任せる。俺はあいつらを呼んだから、会議を開く。お前も後で来い。いいか、勇輝は連れてくるな。俺との関係は黙ってろ。あいつらには俺から話す」

 力弥は流のほうへと向くと、肩を軽く叩き勇輝には聞こえない声で流に小声で話した。力弥の言葉で表情を変えた流は黙って聞いていた。

「分かりました」

 答えたものの内心では納得がいっていない。力弥がそのうち話すと口にはしているが、力弥のことをよく知っているからこそ、勇輝には言わないだろうと思った。

 だからといって、納得いかないといえば済む話ではなかった。なぜなら、勇輝は記憶を無くしている。

 今、勇輝と力弥の関係を勇輝に伝えれば、混乱させるだろうと思った。力弥に従うしかほかなかった。


 力弥は室内を出ていった。流と勇輝だけになってしまう。流が勇輝のほうへと顔を向ける。真剣な表情に勇輝は唾をごくりと飲み込んだ。

「知っている通り、君は記憶を無くしているんだ。話が長くなるけど、今から言う事は事実なんだ。信じてくれるかい?」

 流は話を切り出し、今までの経路を話し始めた。


**


 勇輝と流が室内に居る中、二人の間には妙な空気が流れている。その理由は流にあった。

 話を切り出してから続きを言おうか言わまいか迷っているのか、黙っているのだ。かれこれ十分以上が経っている。


 勇輝は唾を飲み込むばかり。思い返せば力弥に捕まる少し前、流が勇輝の前に突然と現れた。なんとか逃げ切り、関わる事はないだろうと勇輝は思っていた。

 まさか、力弥と流が繋がっていたとは思っていなかった。そう思っている勇輝を他所に流は黙り続ける。


「あの、」

 勇輝が言葉を切り出すと、流は部屋の掛け時計に視線を移す。時間を気にしているのだろうか。

 時間を確認すると、今度は勇輝に視線を向けた。

「取り敢えず、勇輝くんが無事で良かった」

 流がほっと安堵の息をつく。その様子をじっと見ている勇輝も安心したように表情を緩める。

「俺たちはそれぞれ力を持っている。勇輝くんもだ。能力者たちは時間を行き来できることになっている。過去にも未来にも行ける」

 一呼吸置くと、流は近くの椅子に座る。勇輝は流の様子を伺っている。

 まだ何をされるか言われるか分からないが、少し気持ちが楽になっていた。

「あ、安心してほしい。俺は力弥さんみたいに乱暴なことはしない。ただ協力・・してほしいだけなんだ」

 唐突に協力してほしいと流に頼まれた勇輝は戸惑いを見せる。協力してほしいと頼まれていても、何を協力すればいいのか未だに分かっていない。

 勇輝の感覚的に受け入れることができない状況だった。



「俺たちは過去や未来を利用して悪事をする敵の動きを止めているんだ。もし阻止出来なかったりすると、この世界に災害が起こる。その理由は過去や未来を無理矢理変えたことが原因だ。だから、俺たちの手助けをしてほしい。いきなりこんなことを言われたら困るのは分かっている。すぐに受け入れなくてもいい」

 真剣な眼差しで話す流を見た勇輝は信じざるを得ない状況に立たされている。一度唾を飲み込み、頭の中を整理した。


 自分は記憶を無くして行き場がない。そんな状況の中、流が連れ戻そうと目の前に現れた。

 一度は振り切ったものの、力弥に捕まってしまう。どうやら、二人は繋がっていた。二人は能力者で変える者(ブラックチェンジャー)を止めるために手助けして欲しいらしい。

 まだ事情がよく掴めていない勇輝はまだ答えが見つからなかった。結局、今は保留にしておくことしか他ならない。

「あの、まだどうしていいか分からないです。御免なさい」

「謝らなくていいんだ。まだ答えは出さなくていい。けど、俺や力弥さんは君を信じてる。それに勇輝くんは元々ここにいたんだ」

 流の強い信頼の目を勇輝は感じ取る。一瞬、この人を信じてみてもいいと勇輝は思った。

「僕、」

 勇輝がそう言い掛けた直後、流は座っていた椅子から腰を上げた。勇輝は言葉を続けようとするも流がそれを止めようとするかのように勇輝に微笑む。

「この話はまた後で話すとしよう。俺は行かなきゃいけないところがある。勇輝くんはここで休むといい」

 流は言葉を残し、その場を去ろうとする。勇輝は何かを伝えるために口を開こうとした瞬間、流は一度振り返って言葉を付け加えるように口にする。

「あの人の力は強いからね。ゆっくり休むといいよ。俺でも痛みが続いたからね」

 苦笑いを浮かべていた。



次話更新日は11月23日(木)の予定です。

誤字脱字あったら報告お願いします。



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