原因究明
*この小説はフィクションです。
緊急会議室を出ていった力弥は、ある場所に向かっていた。途中、不自然に思い始める。
力弥が歩いている廊下。普段ならば、隊員の誰かとすれ違ってもおかしくはない。
それなのに、廊下は誰もいない。異変を察知し始めた時よりも違和感が膨れ上がる。
同時に力弥の中で、ある考えが思い浮かぶ。
隼人が敵である変える側の居場所を見つけた。逆に阻止する側の本部の場所も見つかってしまったのではないか、と。
今の状況でこの静けさなら、あり得る。もしそうなら、不利な状況になってしまうだろう。
早急に、原因を突き止めなければならなかった。
力弥がそんなことを考えていると、目の前にある人物が現れた。
力弥は大きく目を開いて驚く。なぜなら、この世にはもう存在していないはずの人物だからだ。
「お久しぶりです。元気でしたか? 元々、能力を使いすぎているあなたが元気なのが不思議ですね。ほほほ」
口元に微笑みを浮かべ、力弥に声を掛けてきた。力弥は気を取り戻すが、疑わしげに目を細める。
「武蔵の爺さん、久しぶりだな。あの時、野郎共に殺られたかと思ったが、現れたってことはそういうことでいいのか?」
力弥は問い掛け、身を構える。
目の前に現れた人物、嘗ての阻止する者である荻楼武蔵だった。
現在、武蔵は変える者だ。力弥を含め、阻止する者を殺るという目的がある。
異変が起き、この状況下。過去に亡くなったと思われる人物も現れた。
どう考えても、変える者になったとしか言いようがなかった。
「流石ですが、違います。今日はあなたに良い話をしにきただけです」
武蔵の言葉に眉をしかめる力弥。この状況で良い話は、逆に悪い話ではないかと疑い、眉を歪める。
「勇輝くんを守るため、と言ったらどうしますか?」
力弥の事情を知っている武蔵は話を持ちかける。『勇輝』という言葉。
息子の名を出せば、必ず力弥は話に乗ってくると武蔵は予想する。
思ったとおり、力弥は顔色を変えた。
反応を見て、話を続けようとした瞬間、武蔵は何かを察した。
「場所を移しましょうか。あなたにとって、せっかくの話が台無しになります」
声を掛けると、二人はその場を離れた。
**
力弥と武蔵が居た場所に二人の人物が現れる。誰もいない雰囲気に唖然とする。
流と司だ。
少し前。警報が鳴った時のことだった。
起きていた流が反応し、異変を感じ取る。だが、何も起こらず、安心していた。
「さっきの何だったんだろうな。誤報だと良いけど、」
言葉にしたのは流ではなく、隣で横になっていた司だった。流は声にはっとして振り向き、心配そうに見つめる。
ゆっくりと上体を起こす司は視線を感じ、横に目をやる。流と目が合うと、苦笑いをした。
「司、大丈夫なのか?」
流が問い掛ける。司は答える代わりに腹を押さえる。
「まだ少し腹が痛い。警報を耳にしたら、目が覚めた。何かあったと思わないか?」
突然の警報。警報が鳴った時は何かが起きる前兆だ、気をつけろと力弥に言われてきた。
それにも関わらず、警報が鳴った後は何も起こらなかった。
司は流に視線を向ける。視線に気付いた流は何かを察する。
ここ、病室のような部屋から出て、原因を調べないかということ。
これまで流と司は力弥の指示に従い、本部を支えてきた。だからこそ、二人は分かり合えるものがある。
然し、司は無茶なことをする。麗と戦っていた時もそうだった。
流にとって、今もそんな気がしてならないのだ。
「美鶴さんに暫くは休めって言われたんだ。また無茶して負傷したら、」
流が言葉にするも、司は自らの手で自分の体に繋がっている管を全て外してしまう。機械は反応しなくなった。
起き上がると、ベッドから部屋を出ようとしていた。
流は司を止めようとする時間もなく、腕に付けられている点滴を無理矢理外し、慌てて司のあとを追った。
現在、二人は誰もいない廊下を歩いている。
「本当に誰もいないな。やっぱり、何かがおかしい」
誰に言うまでもなく、一人呟く司は辺りを見回す。そんな彼の後ろについていく流は顔色を変えながら、ゆっくりと歩を進める。
「なぁ、流はこの状況どう思う?」
不意に司は振り返って訊ねるが、流の様子に気付く。
「大丈夫か? お前だけでも部屋で休んでいれば良かったのに」
本当ならば、変える者の攻撃を受けた司のほうが損傷が大きい。意識を失うほどに。
目覚めたものの腹部にはまだ痛みが残っているはずだ。
対して、流は能力を使い、過去に戻ったことにより体に悪影響を与えている。点滴を受けて、回復したはずだ。
それなのに、流の顔色が悪くなっていく。そんな彼は司の言葉に答えず、ゆっくりと司を通り過ぎていく。
「流、無理をするな。部屋に戻れ」
それでも、変わらず進んでいく。見かねて、司が流の腕を掴み、振り向かせようとする。必死になる流は目の前のことで周りが見えていない。
「もう一度、言うぞ。部屋に戻れ。顔色が悪いから、このままここに居たら良くない」
語気を強めに伝えると、流は正気に戻る。
「今、戻っても、部屋に、着く頃、には、」
途中で言葉が詰まり、倒れてしまう。
「おい、流! しっかりしろ」
呼ぶ声に答えられず、流は苦しそうに息を切らす。
最悪な状態で、起き上がることができない。司は危機を察知し、すぐに念じる。
二人の姿が消えた後、司は流を肩に担ぎ、その場を離れた。
武蔵さん、敵じゃないの!?
ブロッカーだったとしても罠がありそうだし、力弥さんついて行ってて大丈夫かな?
司と流、休んでてよ!
まだ完全じゃないから倒れちゃった(>_<)
どうなるんだろう…
次は美鶴さんたちの回です。
次話更新日は6月6日(木)の予定です。
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