遭遇
*この小説はフィクションです。
一人、店に立ち寄る者がいた。風粏だ。
風粏は味覚が人一倍良い。そのため、何が美味しいのか、不味いのか分かる。それはいい意味で、人が口にしていいものが分かるということだ。
ただ、組織の同年代にはそれが分かっていない。役に立たないと馬鹿にしてばかり。
そんな風粏は店で限定品と新作の菓子を嬉しそうに籠に入れている。
彼は探と約束をしている。
本部に戻ったら、一緒に食べることを。費用は未成年のため、貯めておいた小遣いからだ。
風粏はいつも、小遣いから買っている。それが唯一の彼の楽しみでもある。
たとえ、外に出ることが危険である今の状況でさえも風粏にとっては関係のないことだった。
買い物が終わり、外に出て本部に戻ろうとした時、ちょうど彼は見てしまった。
瞬と見知らぬ男が会話していたのだ。思わず、風粏は電柱の陰に身を寄せた。陰からそっと様子を伺うことにした。
『俺、師匠を倒したからもういいよね?』
『いや、まだだ。あいつはまだ死んでない。次は必ず殺れ。いいか、必ずだ』
そんな会話が風粏の耳に入った。
風粏は瞬とはあまり話したことがない。瞬の強気な態度が好きじゃないのだ。
瞬の師匠といえば、力弥だ。それは風粏も知っている。
瞬が力弥を殺そうとしている。それは、変える者になったことを意味している。
やばい、そう思うと、急いで教えなくてはと彼は思った。
直後、風粏は背後に誰かの気配を察知した。
風粏が気付いた時には遅かった。風粏はごくりと唾を飲み込む。
「ねぇ、今の聞いてたでしょ? 俺さ、お前たちの敵になったから。何が言いたいか分かるよね?」
その言葉に風粏は寒気を覚えた。瞬が敵になったということは殺しにくるということ。
今、まさにその状況だ。
風粏は再び唾を飲み込んだ。殺される、そう思った瞬間、瞬は背を向けた。
「今回は見逃してあげるよ。でもさ、次会ったら本気で殺るから」
睨みつけながら言葉を残して、瞬は去っていった。
一瞬の出来事に動揺して、風粏は足が竦んで、その場にしゃがみ込んでしまう。
恐怖で立ち上がれなくなってしまった。
そんな時、風粏の脳内にある言葉が過ぎる。
『役に立たない』『弱虫』
風粏の目から涙が流れ落ちる。思わず、袖で涙を拭った。
「俺は、どうせ、役に立たないよ。俺は、何も……」
悔しそうに唇を噛み締める。
風粏は味に関して、人一倍良い。噛み締めた唇から出血し、苦手な血の味が風粏を更に苦しめる。
そこへ美鶴がやってきた。
「美鶴さん。俺、何もできなかった。俺は、」
言葉に詰まり、再び涙を滴らせる。
美鶴は大丈夫よと優しく声を掛け、風粏の頭を撫でた。
風粏が落ち着くと、美鶴がここは危険だから戻りましょうと口にする。あとで怒られるわよと付け足して。
美鶴の言葉に力弥を思い出し、風粏は思わず身震いする。
彼は力弥のことが苦手だ。怒られることは予想していたものの、探との約束したことが優先だった。
美鶴は笑みを浮かべると、ふっと溜め息を漏らす。
不意に背後に何かの気配を感じ取り、さっと後ろを振り向く。だが、後ろには何もなく、人もいない。
気のせいだと思いつつも、少しばかり気になっていた。
美鶴の勘の良さはいい。現在、本部から少し離れている。
本部の場所を特定されていれば、阻止する者の居場所も特定されている可能性が高い。
風粏が外に出たことにより、危険度が高くなる。
それは、美鶴も分かっていた。
「風粏くん、早くここを離れま、」
言葉を発した直後、二人の目の前に狂が現れた。
美鶴は我に返って、咄嗟に風粏を守るように盾を作る。
「よう、久しぶりだな。元気だったか?」
狂は懐かしそうに声を掛ける。だが、美鶴は目を細めるだけ。
「狙いに来たのなら、大人しく帰ってくれないかしら。あなたは私に勝てない」
美鶴は身構え、睨みつける。それなのに、狂は余裕で笑っている。
彼には全て分かっている。
「その面、変わらないな。だが、今は戦わない。ただその顔を見たかっただけだ。あの男の、」
狂が途中で言い掛けた時、瞬が再び現れた。
「ねぇ、もう用が済んだ? 早く、他の仲間に会ってみたいんだけど」
瞬の言葉を耳にした狂は焦るなと答えると、また会うの楽しみにしてると美鶴に言葉を残して去った。
瞬も後に続いて、姿を消した。
風粏は美鶴をじっと見続ける。美鶴しか知らない、事情がそこにはあった。
美鶴は空間を呼び出し、風粏を連れて本部に戻ったのだった。
見逃してくれて良かった(^_^;)
美鶴と狂の関係はいったいなんだ!?
風粏と美鶴は無事帰還。風粏、危険な時は外に出たらダメだぞ!
次話更新日は5月9日(木)の予定です。
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