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落ち着かない気持ちに

*この小説はフィクションです。


 司たちが戦っている頃、本部に残っている寧々と馨は休むように待機すると言われ、休憩室でゆっくりしていた。

「無理したんでしょ。大丈夫だった?」

 ふと、寧々が馨に問い掛ける。馨は間を置いて、苦笑いをする。

 実際、無理はしていた。だが、無理をして人を助けないという選択肢は馨にはなかった。寧ろ、無理をしてよかったと思うくらいに気持ちが少し楽になっていた。


 嫌な臭いがあの記憶の辛さを蘇らせてしまっていたからだ。能力は違えど、状況は寧々も同じだ。

「俺は鼻栓があったから、なんとかなった。そっちも無理したって聞いたけど、大丈夫か? 嗅覚より聴覚のほうが辛そうだな」

 寧々は大丈夫と小声で呟くように答える。癒維がいたからなんとかなったようなものだ。

 癒維が来なかったら、大丈夫だとは言い切れなかっただろう。

 二人の会話は途切れ、気まずい空気が流れ出す。


 耐えれなくなった二人は同時に笑みを零した。

「お互い様だよね。力さんに似てさ」

「だな」

 不意に馨は待機しているはずの風粏が不在なことを思い出す。

 いつもなら気にしないことのはずが、今の馨はなぜだか気になってしまっている。

「そういえば、風粏いないよな?」

 馨の問いかけに寧々はきょとんとしている。馨には風粏の居場所を知っているはずで、聞かれるとは思っていなかったのだ。


「風粏ならいつもの場所でしょ。それがどうしたの?」

 いつもの場所。本部から少し離れたお店。そこで、風粏は新作の菓子をいつも買っていく。ひとりで。

 馨は言葉を耳にすると、嫌な予感を察知した。無言になってしまった馨に寧々は不思議に思う。なぜ、そんな難しそうな顔をするのか、と。


 そんな二人のところに美鶴が現れた。美鶴は二人を見た後、辺りを見渡し始める。居るはずの人物がいないのだ。

「風粏くんは?」

 問い掛けに馨が眉間に皺を寄せた。

「いつも決まって、限定のお菓子買いに行ってるから、外に出てるんじゃないかな」

 言葉に美鶴は表情を曇らせる。馨の嫌な予感が膨れ上がる。

 不意に馨は美鶴に視線を飛ばす。

 美鶴は視線を感じ、見渡す。ちょうど、馨と目が合った。


 馨は座っていた椅子から腰を上げ、指示を待っているかのようにじっとして動かない。

「駄目よ。あなたは待機。寧々ちゃんもね」

 寧々は話を振られてぽかんとしているが、馨は深い溜め息を吐いた。力が抜けたようにすとんと椅子に腰を落とす。

「待つことも大事よ。それに能力を使ったばかりでしょ。取り敢えず、今は本部内で待機。分かった?」

 肝に銘ずるように美鶴は二人に声を掛ける。


 馨は低い声で返事をするも、美鶴から目を逸らす。

 返事を聞き逃さない美鶴は馨の前でばんと机を叩く。寧々がびくっと肩を振るわせた。両手で耳に装着されたイヤーマフを押さえつけている。

 寧々の能力を知っている美鶴は寧々の反応に我に返った。

「寧々ちゃん、ごめんね。馨、絶対に外出たら駄目よ。分かったわね?」

 返事がない馨を見下ろして睨みつける。呼び捨てにする美鶴は本気で怒っている証拠。

「分かったわよね?」

 目を合わさなくても馨には美鶴の憤怒の形相が想像出来た。馨は仕方なく返事をする。

 ちゃんとした返事を聞いて、美鶴は落ち着いた。



 そこへ力弥と勇輝がやってきた。勇輝はどこも怪我をしてなさそうだが、状況についていけず、少しばかり混乱している様子だ。

 一方、力弥はどこか辛そうだ。

 それなのに、誰も気付かないのは馨に言い聞かせていた美鶴の存在感が大きかったのだろう。

「美鶴、言いたいことは分かる。けど、大きな声を出すな。体に響くだろ」

 力弥の声に三人ははっと我に返るように振り向いた。美鶴は平然としているが、馨と寧々は心配そうな表情をしている。

 二人しか気付けない僅かな変化を感じ取っていた。


「なんでここにくるのよ。安静にしてなきゃ駄目じゃないの。ちょうどいいわ。勇輝くん、二人とここで待機しといてくれないかしら。分からないことがあれば、二人に聞けばいいわ。じゃ、よろしく」

 美鶴は力弥の腕を強く掴むと、力弥を連れ出して去ってしまった。

 去り際に力弥がぶつくさと文句を言っているが、三人はその姿を見届けるだけで何も口にしなかった。



      *



 その場に残った馨、寧々、勇輝。三人は言葉を交わすことなく、じっとしている。

 というのも、記憶を無くしてる勇輝に対して、馨と寧々はどう接していいのか分からず、黙っていた。

 それは、記憶を無くしている勇輝も同じだった。それに勇輝にとっては記憶を無くしてから初めて会う人たち。

 二人よりも緊張して言葉が出てこなかったのだ。


「あのさ、取り敢えず座らないか? 立ってるのも疲れるだろう」

 唐突に馨が勇輝に言葉を掛ける。声を掛けられた勇輝は上擦った返事をすると、椅子に腰をおろした。

 その瞬間、勇輝の脳内にある記憶が流れ込んできた。


 目の前の二人と自身を含んだ五人が机を囲んで座って、笑いあっている記憶。みんな、同年代の少年少女。彼らと仲良く話していた。

 たった一瞬の記憶が勇輝を困惑させる。

「勇輝、どうしたの?」

 勇輝の異変に気が付き、寧々が問い掛ける。

 勇輝は何も答えず、ただぼうっとしている。その様子に二人は顔を見合わせる。

「僕、君たちと仲良かったんだね」

 言葉をぼそりと呟く勇輝。目から涙が流れ落ちていた。



馨は休んでて!

美鶴さん、怖いよ(^-^;

それだけ、みんなを無理させたくないんだよね。

勇輝の記憶が一瞬だけ戻った⁉︎


次回は力弥を連れて美鶴が向かった場所へ。


次話更新日は4月25日(木)の予定です。

良ければ感想、評価、コメントしてくださると嬉しいです。

誤字脱字もお待ちしてますm(._.)m


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