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記憶を無くした少年


 勇輝は路地をふらふらしている。彼はなぜ自分がこの場所にいるのか分かっていない。

 自分が何者かもだ。全ての記憶を無くしている。

 いったいこれからどうすればいいのか悩んでいた。

「そういえば、あの男は誰だったんだろう。僕のことを知っているみたいだったけど、怪しかったし……」

 ふと思い出し、咄嗟に言葉を口にする勇輝だったが、不安は募るばかり。


 理由は数時間前に遡る。勇輝の前に現れた一人の男。男は流と名乗った。

 流は安心したような顔で勇輝に近付いてきた。勇輝は一歩一歩へと後ろへ下がる。

 何も言わず近づいてきたことが不審に見えたのだ。流は悪気がない。

「勇輝くん、ここに居たんだね。力弥さんのところに戻ろう。あいつらに見つかったら君が狙われてしま、」

 流は微笑んで優しく言葉をかける。


 次の瞬間、勇輝は流をすり抜けるかのようにかなりの速度で走り出した。それでも流は追いつくだろう。

 だが、流は油断していた。予想以上の速さだったせいか、出遅れてしまった。流は急いで勇輝の後を追いかけた。


 勇気は思った。あの人は誰なんだ、と。同時に逃げきらなければいけないとも思った。

 自分の前に知らない男が現れ、どこかに連れ戻そうとしている。自分のことを知っているようだが、勇輝は何も知らない。

 気付けば、体が動いていたのだ。今まで以上の全速力で勇輝は流から逃げ続けた。甲斐あって、流を振り切ることが出来た。


 人目が少ない場所に移動し落ち着きを取り戻す。ほっと安堵のため息をつく。少し休んだ後、再び歩き出した。

 勇輝はどこに向かえばいいか分からない。ただ足を止めれば追いかけてきた男、流に見つかるだろう。それだけは逃れたい勇輝。身を隠しながら、歩き続けた。


 *


 どのくらい経っただろう。身も体もぼろぼろになる頃、勇輝の前に男が現れた。

 勇輝は咄嗟に駆け出していた。流だと思ったのだ。

 振り切った。そう思った時、再び勇輝の前に男が現れ、勇輝の腕を強く掴んだ。ふと我に返った勇輝は男の顔を見やる。

 流ではない。流よりもかなり歳上、中年男でいかつい顔だちをしている。力弥という名の男だが、勇輝は知らない。


 不意に力弥と目が合ってしまい、勇輝は目を逸らす。力弥は思いも寄らない行動に出た。勇輝の胸ぐらを掴んだのだ。

 力弥と勇輝の体格差はかなりある。勇輝は体が宙に浮いて動揺する。

「いいか、よく聞け。お前は記憶を無くしてる。何もされたくなければ黙って俺についてこい」

 力弥は言葉を言い放つと、胸ぐらを掴んでいた手を離した。当然、勇輝は地面へと落とされる。

「ほら、ついてこい」

 力弥は鋭い視線で尻もちをついた勇輝を見下ろすと、直ぐに背を向けて去っていこうとする。その瞬間、勇輝は立ち上がり、力弥とは反対方向へと突っ走る。


「お前の行動は読める。諦めて一緒に来い。じゃねぇと、」

 勇輝の前に力弥は立ちはだかり、言葉を発する。言い終わる前に勇輝は力弥をくぐり抜けようと前に進もうとする。それでも、力弥は立ち塞がる。

「退いてください!」

 勇輝は大声を張り上げ、なんとか力弥を振り切ろうとする。何度も力弥に塞がれ、為す術もなく立ち尽くしてしまう。

「悪いな。お前を逃すわけにはいかねぇんだ。少しの間、眠ってろ」


 次の瞬間、男の鉄拳が勇輝の腹に一発入った。勇輝は痛みに顔を歪ませ、気を失ってしまう。

 男は勇輝を抱えると、その場を後にした。


次話更新は11月16日(木)の予定です。

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