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残された世界で(音無 寧々)

*この小説はフィクションです。

 私はなぜこんな特性を生まれ持ったんだろう。そんなことを考えても答えは分からない。分かるのは音だけ。

 それに耳が教えてくれる。これは運命なんだって。だから、私はその意味を見つける。辛さがあっても、乗り越える。あの人に会ってそう思えたの。


 *


音無おとなしさんってなんでいつもヘッドホンしてるんだろうね』

 一人が言う。私は聞こえないふりをした。

『音楽聴いてるんじゃない?』

 二人目が言う。私は声のしたほうをちらっと見る。女の子と目が合ってしまった。視線を前に戻すと、ヘッドホンを両手で強く抑える。

『でも、どうして? 一人になるより友だちと話すほうが楽しいよね』

 私は我慢出来なくなって自分の席から立ち上がって女の子のほうへと足を向けた。

 女の子たちの前に立つと、わざとヘッドホンを外す。

「私は一人のほうが気が楽。全部聞こえてるから」

 私は話しかけると、ヘッドホンを装着して女の子たちから離れた。背後でなにあれという言葉が聞こえたけど、気にしても意味がないと思って無視してやった。



 私は彼女たちの視界から外れるはずだった。彼女たちは私に構うようになった。

 私の靴箱に大量の画鋲が置いてあったり、机には悪口を書かれたりした。更には置き勉しておいた教科書は破かれたり、落書きされたりもした。

 何より私が嫌だったのは人並みの聴力だったせいか、小言や陰で悪口を言われたり、笑われたりしたことだった。ひそひそと話されても私には聞こえている。

 聴力が良すぎるのは心を苦しめる。ヘッドホンしていたって変わらない。それが一番の苦だった。



 一ヵ月もしないうちに私は学校に行くのを辞めた。まだ義務教育だったため退学にはならなかった。

 学校に行くのをやめても家族は無理に行けとは言わない。お母さんもお父さんも優しい。きょうだいは居ないけど、一人は慣れているから寂しくはない。


 ふと、聞こえていた足音が部屋の前で止まる。深い溜め息を吐くのが耳に届く。私は扉のほうに目を向けた。

「ご飯出来たからリビングのテーブルに置いておくね。冷めないうちに食べてね。いってきます」

 私に声を掛けた後、去っていった。お父さんは仕事で家に居ない。お母さんも暫く帰ってこない。その理由は二人とも医者という人を助ける仕事に就いているから。


 私が家に閉じ篭っても、誰からも何も言われない。私はこの空気が逆に良い。

 周りの音も私を邪魔しない。日常の生活は仕方ないと思って無視している。

 このまま続けばいいと思いながら、学校に行かない非日常を送ることを決めた。そんな時、私のお腹がぐうぐうと鳴るのを感じた。

 気付けば、昼になっていたことに気がつく。私は部屋から出て誰も居ないリビングへと足を運んだ。



 リビングのテーブルにはお母さんが言っていた朝食にラップが被せられていた。

 朝食は白米に味噌汁に焼き魚や野菜。和食が好きなお母さんが私のために作ってくれた。和食は日本って感じがするから私も好き。

 置いてあったご飯は既に冷めてしまっているけど、私はそんなの気にしない。

 昼食は冷蔵庫に惣菜があるから、うどんを茹でて食べてとメモ書きが残してある。忙しいのにメモ書き残してくれることに優しさが伝わってきた。

 私は冷めたままの朝食を黙々と食べ続けて、食べ終わると片付ける。それから、部屋に籠る。一日の殆どを部屋で過ごした。


 それを繰り返し何日か経った頃、突然ある音が耳に届く。

 耳が痛くなるほど耳鳴りが始まった。思わずヘッドホンをして両耳を抑える。直ぐに治るはずが、強く吹き荒れるような激しい風音が耳の奥まで届いた。それはヘッドホン越しにも聞こえてくる。

 音が収まるのをじっと待つ。長い時間ヘッドホンを抑えていると、それは不意に止んだ。

 私はゆっくりとヘッドホンを取る。辺りはしーんと静まり返っていた。

 ただ、ある音は聞こえる。複数の人の呼吸音。耳が良くてもこの音(••)が聞こえるのは今まで初めてだった。私は戸惑うも直ぐに家の外へと飛び出していた。


 私は光景を目の当たりにすると、立ち止まる。

「なに、これ……」

 視界には思わず声が出てしまうほどの残酷な光景が広がっていた。

 近くの家屋や電柱が倒れていたり、車が横転していたり、何よりも最悪なのは多くの人が横たわっていた。耳にはぎしぎしと倒れた物の音と混ざって、荒い呼吸や助けを求める人の声が流れ込んでくる。

 私は足が空くんで動けなくなった。どうすればいいのか頭を働かせるけど、体が思うように動かない。

 耳を塞いだまま、その場にしゃがんだ。そんな時、私の耳にある声が届く。


「おい、子供ガキ。大丈夫か?」

 目を開けると、目の前に見知らぬ男が立っていた。はっと我に返り、両耳を塞いでいた手を離す。そっと立ち上がると、男は誰かを呼んだ。また私に目を向ける。

「よく我慢したな。もう大丈夫だ。俺たちはお前を助けにきた」

 気付けば、女の人が側に来ていた。女の人は私に手を差し伸べている。

「もう大丈夫よ。ここに居たら危険だから私たちについてきて」

「でも、お母さんとお父さんが……」

 私の言葉に男女二人はお互い目を合わせると、男は首を横に振る。私はその様子に察してしまい、悲しみが押し寄せてきた。目から自然と涙が出ているのが分かった。

 女の人は私の頭を撫でてくれた。両親以外で優しさに触れたのは久々だった。

「まだ可能性はあるわ。一緒に行きましょう」

 私はついていくことにした。


 着いた場所は避難所。お母さんとお父さんは同じ病院で働いているから、もしかしたら救助をしているんじゃないかと思っている。だけど、ここにはいない。

 数ヶ所の避難所、病院にも行ってみた。幾ら探しても二人はいない。


「ここにもいねぇか。後は、」

「もういい」

 男が言葉を続ける前に遮る。思ってもいない状況に私は諦めていた。

 突然起きた『竜巻』被害。起こったのは私の周りに起きた一つ(••)ではなかった。そのせいか、被害が大きかった。行方不明者もかなりいるらしい。私の両親も行方が分からなくなっている。連絡しても職場に訪ねても安否が分からない。

 もしかしたら被害に巻き込まれたかもしれない。諦めるしかなかった。見ず知らずの男女二人にこれ以上は頼めなかった。


「仕方ねぇ。俺たちについてこい」

 突然、男は言葉を口にした。その意味が分からず、私はその場で立ち止まる。

「耳が良いんだろ。なら、俺たちに協力してほしいんだ」

 耳が良いという言葉にはっと我に返る。この人たちには言っていないのになぜか知られている。私はその理由が分からなかった。

「大丈夫よ。この人が何かしたら、ぶっ飛ばしてあげるわ」

 その言葉に恐怖と笑いが込み上がる。私は決めた。この人たちについていく、と。



 それがきっかけで私は勇輝と出会った。この現実で起こっている信じ難いことも知ることになった。

 最初は嘘だと思っていたけど、私が経験した悲惨な状況を思い返して信じることにした。これから私は新しい場所で誰かを助ける、そう決意した。



馨くん同様に寧々ちゃんの過去も悲しい…

美鶴さんと力弥さんが助けてくれたんだね。

二人ともありがとう

寧々ちゃん強く生きて

来週は敵の様子が明らかに


次話更新日は2月22日(木)の予定です。

良ければ感想、評価、コメントしてくださると嬉しいです。

誤字脱字もお待ちしてますm(._.)m

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