役割
*この小説はフィクションです。
隼人、馨、風粏と別々になった寧々と探は救助を求める隊員の後についていった。場所は書庫室。
そこには大きな本棚が幾つもある。部屋自体は広いが、本棚で広さを把握しづらい。
そんな場所に辿り着くと、悲惨な光景が目に入った。何が起こっているのか想像していたものの余りにも被害が大きい。
見る限り大きな本棚の下敷きになっている隊員たちが何名かいる。正確な被害は分かっていない。
「なんだよこの状況は……」
想像以上の状況に探は声が出てしまう。
一方、寧々は落ち着いている。耳にしているイヤーマフを外すと、その場にしゃがんだ。
聴力を研ぎ澄まし状況を把握する。寧々の聴力は人並みを超えている。
「一人呼吸が落ちてるし、一人乱れてる。二人危ないかも。あとは軽い怪我。探、癒維さんには?」
寧々は探に状況を伝え、確認する。
「もう連絡してある。あとは待つだけ。すぐに来ると思う」
探の対応の早さに目を丸くする寧々はじっと探を見つめる。探は視線に気付いて、親指を立てている。
「建物内だろ。壁があれば、直ぐに伝えることが出来るのが俺だよ」
「そうだね」
探がしたり顔を決めるが、寧々は軽く返すだけ。そっぽを向いて、怪我を負っている隊員の方へと歩を進めた。
「なんだよ。本当、寧々は冷めてるよな」
「馨、聞こえてるから!」
小声で呟くも寧々に大声で言葉を返される。
そんなやり取りを気まずそうに耳にしながら、ここへ案内した隊員は怪我人に歩み寄る。その足音を聞いた寧々が振り返る。
「待って、危ない! 本棚が倒れるほどここは危険な場所。足元に何があるか分からないから私たちに従って」
「は、はい」
寧々が大きな声で隊員に呼び掛ける。声に隊員は驚き、返事をして足を止めた。
「探は軽傷の人たちの手当をお願い。私は重傷者の状態を見る」
「分かった。癒維さんが来たらあとは大丈夫だけど、無理はするなよ」
「ありがとう」
寧々が感謝の言葉を伝えると、意外な言葉に一瞬動揺する探だったが、気を直す。
二人の迅速な行動で事は進んでいった。
探は軽傷者のところへ向かう。動ける者が大半だが、足を怪我している者はその場に座り込んでいた。
その理由は下手に動けば、二次災害に繋がると考えたのだろう。
実際、組織の建物内の廊下は広くはない。避難する者とぶつかれば転んでしまう。
怪我を悪化させないためにはその場でじっとしているほうが安全だ。
「大丈夫ですか? 怪我の具合を見せてください」
探は近くの隊員に急いで近寄り声を掛ける。隊員は足を怪我して座り込んでいた。
「足を捻ってしまっただけです。大丈夫です」
「それなら、コレを貼ってください。俺は他の隊員も見なきゃいけないんで、すみません」
隊員は足を捻ったことを伝えると、探が小さなポシェットから湿布を取り出して渡す。
「ありがとうございます」
感謝の言葉を口にした隊員に探は笑顔で返した。
探は日頃から救急グッズを持ち歩いている。探の能力は触れた物や人を感知することに関係している。
そのせいか、代償として傷や痣が出来やすい。現に今も頬に絆創膏が貼ってあったり、腕や指に擦り傷が出来ている。
常に何が起こるか分からないため、救急グッズを持ち歩いているのだ。
重傷者を診れば、一度の代償が大きい。そのため、寧々に軽傷者を頼まれたのだ。
探はその場から離れ、他の怪我人のところへと移った。何人か手当てした後、探は一人の隊員へと駆けつけた。
隊員の額から血が流れている。
「大丈夫ですか?」
隊員は探の声で振り返ると、大したことないと答える。取り敢えず、止血した方がいいと思った探は隊員に近寄り手当をすると伝えた。
応急処置をし終え、その場から離れようとしたその時だった。探の横で倒れる音がした。
探が手当てをした隊員が倒れていた。
「大丈夫ですか!」
突然のことで、探は大きな声を掛ける。それでも、隊員は応えない。ふと、隊員に触れる。
探の身体に隊員の痛々しい感覚と怪我の具合が流れ込む。不意に顔を歪ませて目が眩んだ探はよろけた。
探の額に何かで切りつけたような傷が浮かび上がったかと思えば、傷から出血し始めた。
それでもなんとか探は体勢を立て直し、隊員に体を向ける。予想外の出来事に探は一瞬混乱する。
「なんだよ。寧々の奴、重傷者の人数間違えてるじゃん」
ぼそっと呟くと、倒れている隊員を揺さぶろうとする。直後、誰かに腕を掴まれる。
「動かさないでください。探くん、後は私に任せてください。その前に額の傷を手当てします。それと、あとであの人に重傷者に触れたこと怒られますよ」
探を知っている医療班の隊員が探の額の傷を見て心配そうな表情で言葉を口にする。
探は重傷者は触れないと分からないじゃんと零し、苦笑いで誤魔化した。
次話更新日は2月8日(木)の予定です。
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