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嫌な記憶と臭い

*この小説はフィクションです。

 力弥と流の二人は勇輝を含めて共に行動をしている一方で、隼人を中心に四人は救護活動にあたっていた。だが、今のところ被害が少なかった。

 普通ならば、ほっと安心するだろう。

 四人は不満を感じていた。その理由は力弥の指示からくるものだった。

「あー、もう! あの人の考えることわかんねぇよ」

「本当に分からない。もういっそ私たちも単独で動こう。私たちの能力ならいける」

 馨と寧々は不満を漏らす。寧々はなぜか自信満々だ。

 二人の言葉に隼人は眉を八の字にゆがめる。唯一、力弥と流の事情を知っている隼人は頼まれた以上、従うしか選択がない。

 その一方で二人が心配でもあった。少し急いでように見えたのは気のせいだろうかと隼人は一瞬過ぎる。

 隼人の目は二人の体調の悪さを見ている。不満を口にしている馨と寧々も悪さを認識しているだろう。

 現に、耳の良い寧々は力弥の呼吸音、匂いに敏感な馨は煙草の臭いのことを会議で口にしている。二人の本心は不安なんじゃないかと思っていた。

 そんな隼人の心中を他所に四人はその場を離れようとしていた。

「おい、勝手に動くな! 力弥さんに言われただろ」

 隼人は大きな声を張り上げる。隼人にしては今までにないくらい大きな声だったためか、四人は目を丸くして驚く。

 力弥に任された以上、隼人は責任を感じている。勝手な行動は命の危険になるかもしれない。そのため、なにがなんでも纏めなければならないと使命感を持っていた。


 不意に馨と寧々はお互い顔を見合わせる。二人は隼人に目を向けた。

「隼人の言いたいことは分かる。お前、責任感強いもんな。けどさ、俺たちがこのままってわけにもいかないだろ。お前も気付いてるはずだ。力弥さんと流さんの体調を。な、寧々」

「うん。二人の身体、間違いなく悪化してる。力さんの呼吸乱れてたし、流さんは何かに耐えてるような感じで様子がおかしかった」

 二人の言葉に耳を傾けていた隼人は重苦しい顔をする。やはり二人は見抜いていたんだなと確信した。

 一方、風粏と探はぽかんと口を開けている。二人は流と力弥の身体の悪化には気付かなかったようだ。それもそうだ。二人は会議中、菓子の話に夢中になっていたのだ。

 だからといって、力弥と流を心配していないわけではない。お互い力弥と流に救われている。特に力弥にだ。その為、心配はしている。

「まじか。俺、一瞬だけでも触れてれば良かったな。どのくらい悪化してるのか分かってたのに」

「俺もなんか、」

「探は役に立つ。風粏は役に立てないから!」

 寧々に言葉を遮られた風粏は泣き真似をした。寧々には効かないのか、ふんと鼻を鳴らしている。


「取り敢えず、今は被害の確認と手助けをしてくれ。一通り終わったら、俺たちで動こう。二人には内緒で。怪しい人物には会うなって言われたが、そうも言ってられない。見つけたら報告。単独行動はなし」

 不満を漏らしていた馨と寧々は隼人の言葉で納得した様子を見せた。探と風粏はやる気でお互い拳をぶつけ合っている。

 そんな雰囲気の中、一人の下級隊員らしき人物が彼らに近付いてきた。

「みなさん、ここにいたんですか。実は怪我をしている隊員たちがいて助けようにも助けられなくて……」

 一同がはっと我に返る。隊員の様子が只事ではないと感じたのだ。隼人がすぐに案内するように頼むと、隊員は首を縦に振って返事をした。それから、直ぐに歩き出した。

「寧々と探はついていってくれ。念のため、瘉維さんも呼ぶといいかも。馨と風粏は俺と一緒に一般人の様子を見に行こう。寧々たちは終わったら来てくれ」

「分かった」

「おう」

 隼人の指示に二人は相槌を打ち、先を行く隊員に急いでついていった。

 残った風粏と馨は隼人の指示を待つ。隼人は真剣な表情で二人を見やる。

「いいか。怪しい人物を見つけたら勝手に動かず、報告すること。特に風粏」

 隼人は風粏に視線を向ける。風粏は不機嫌な表情を見せた。

「は? なんで俺は勝手に動くって決めつけるのさ。大丈夫だって」

「ほら、そういうところ。風粏は何も出来ないんだから、俺か隼人に知らせる。分かったか?」

「どういうところだよ! 馨まで俺が何も出来ないって決めつける! 知らせればいいんだろ。知らせれば!」

 悔しそうに唇を噛み締める風粏を余所に隼人は呆れ返る。一方で風粏の気持ちを考え、何も言わないことにした。

 三人はそのまま外に出て状況を確認しにいった。


 *


 風粏は驚いてきょとんとしている。

 外に出て十分程度歩くと、人がぞろぞろと通り過ぎていく。その姿に唖然としていた。

 隼人と馨は気にせずに真っ直ぐ歩いていく。

「おい、待てって。驚かないの?」

 風粏は声を上げ、二人の姿に驚くばかり。

「この状況から見て、恐らく揺れで電車が停まったんだろう。大きな地震だったんだ。停まったままってことは動くのに時間が掛かる。それぐらい把握しないといざっていう時にやられるぞ」

 馨が隼人の代わりに言葉を返し、険しい顔を向ける。風粏は泣きべそを掻いてしまった。

 その様子を見た隼人が馨にそのぐらいにしときなと一言掛けると、馨は黙った。


 三人が歩を進めて時間が経った頃、馨が何かの異変に気が付いた。直後、眉間に不快の色を漂わせる。

「この先やばい。俺、行きたくないかも」

 その言葉に隼人と風粏は振り向き、心配そうな眼差しを向ける。


 馨は鼻が異常に利く。そのせいか、かなり距離が離れていても何のにおいか分かる。それは嫌な臭いでさえも。ちょうど今がそれだった。

「無理しなくていい。馨はここで待っててくれ。俺と風粏で確認してくる」

 隼人は馨に声を掛け、先に行ってしまった。追いかけるように風粏はついていく。

 馨は悩む。過去に縛り付いたまま、この先誰も助けることが出来なくていいのか、と。過去に起きたことは悲しくて、とても残酷で今も馨の心を抉る。

 火事で両親と兄を亡くしたことは今でも馨の記憶に焼きついていた。

 馨は一歩踏み出す。


「待ってくれ。俺も行く」

 前を歩いている隼人と風粏ははっとして振り向く。いつの間にか、馨が二人の後ろまで来ていた。

「いいのか? 嫌な記憶なら無理に、」

 心配そうに顔をしかめる隼人は口にする。風粏も心配している。

 二人は馨の事情を知っている。二人も馨と同じで家族、大切な人を亡くしている。

 同じ立場だからこそ辛さも知っている。


 それでも、馨は覚悟を決めていた。

「臭いを知っているし、嗅ぎ分けるなら俺がいないと駄目だろ」

 言葉を口にする馨の手は震えていた。それを察した隼人は浮かない顔をする。

「無理だったら、いいから。能力は違えど、俺だって見分けられるんだ」

「俺も、」

「風粏は味しか頼りにならない」

 きっぱりと言い切られてしまった風粏は落ち込んでしまった。風粏の肩を軽く叩く隼人は馨に目配せをする。

「こっちだ」

 馨は指を右方向へと指差し、先頭を切って進んだ。二人はその後をついていった。



先週は投稿控えましたので、今回は新年初めての更新となります。

今後は残酷描写増えると思います。


次話更新日は1月18日(木)の予定です。

良ければ感想、評価、コメントしてくださると嬉しいです。誤字脱字もお待ちしてます。

今年もよろしくお願いしますm(._.)m

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