プロローグ
力弥は建物の屋上の柵に前のめりで煙草を咥えながら、夕日を眺めていた。力弥はこれからの行く末を考えている。
ある時から、世界は変わってしまった。安心、安全の世界がある日を境に災害を起こしやすくなった。その理由は時間を変える者の仕業だ。
それを止めるために、どう動くべきか、最善の方法を模索していた。
そこへ近付いてくる者が現れる。力弥は気付いているが、振り向きはしない。
「力弥さん、ここに居たんですか」
落ち着いた声で流は声を掛ける。力弥は振り返ることなく、夕日を眺め続けている。
「なぜ、ここにいると分かった?」
力弥の質問に一瞬笑みを浮かべた流だが、煙草の臭いで不安そうな表情に変わった。
「力弥さんの行く場所は検討がつきますよ。多分、司も分かるんじゃないんですか。煙草、また吸ったんですか」
流は過去に力弥に助けてもらってから力弥を慕っている。信頼性も高い。そのせいか、力弥が行く場所は当たり前のように頭に入っている。
その分心配性でもある。いつも煙草を吸う力弥の体調も気にしていた。
「で、なんだ。緊急事態か?」
流の心配を他所に力弥はそれとなく問い掛ける。問いに流は眉間に皺を寄せ、顔を歪ませた。
「行方不明だった勇輝くんが見つかりました」
力弥は動揺することもなく、短い溜め息を漏らす。
「なんだ、いつものことじゃねぇか」
力弥のいう通り、いつものことだった。話に出る勇輝という人物はよく行方不明になる。その理由は能力の代償の記憶力のせいだ。
その度に組織の人間、主に流や司が捜索する。いつもならすぐに見つかりそれで終わる。だが、今回は何かがおかしいと流は思い、力弥に報告しに来たのだ。
力弥は流の様子に何かを察する。
「あいつ、勇輝は連れ戻したのか?」
「いえ、逃げられてしまいました」
その言葉に力弥はあきれてため息をつく。かと思うと、咥えていた煙草を地面に捨て、足でぐりぐりと潰した。
「仕方ねぇ。俺が連れ戻してやる。お前は本部に戻れ。作戦会議の準備もしろ。いいか、勇輝のことはまだ言うな」
「待ってくださ、」
力弥を呼び止めようと流は言葉を口にするが、力弥の姿はすでにない。瞬間移動のように一瞬にして消えたのだ。
「全く、本当に行動だけは速いんですから。まあ、そこがいいんですけど」
流は誰にいうわけでもなく独り言を零すと、顔を緩ませ微笑んだ。直後、流の横に力弥と入れ替わるように人物が立っていたことに気がつく。
「司、いつから話を聞いてたんだ」
「お前が現れる少し前だ。勇輝のことはあの人に任せればいい。俺らで奴らを探るしかない」
得意げな顔をする司。対して不安な表情をする流。
司は重要な時に限り、決まって姿を消す。だが、力弥が連れ戻そうとしている勇輝とは違う。
司は記憶がある。『旅に出ていた』と知らせ、必ず戻ってくる。
どこに行っていたのか分からない司の言葉に少しばかり不安を抱いていた。
「お前いつもそう言ってどっかに行くんだろ?」
問い掛けた時にはその場に司はいなくなっている。力弥と同じように瞬間移動のようにして消えていた。
流は内心思う。二人とも行動だけは速い、と。
久々の連載で色々と忘れかけてますが、更新頑張ります。