生田くんの墓参り
あれからしばらくが経って、私はとある場所へ足を運んでいた。
今日は休日だったけれど、相談所は少しお休み。どうしても来たい場所があるからとおねだりしたのだ。
「仕方ないですね、もう〜」丘子はそう笑って許してくれた。
今はレイちゃんも、ウルフィーもいない。私一人だけだ。
私が今いるのは墓地だった。今まで来たこともなかった、名も知らない墓地。
そこの真ん中に私はその名字が記された墓碑を見つける。自然に足がそちらへ向いていた。
「生田くん……」
私は懐かしい『彼』の名前を呼んだ。
『彼』が成仏して、いつの間にか一年が経っていた。
私の人生を大きく変えてくれた生田に、お礼が言いたい。私はそう思ってここまでやって来たのだ。
墓の場所は『彼』の家族から聞いた。幸い、どこに住んでいるのかは聞き及んでいたから。
初めて会った生田の両親はとても優しい人だった。息子を失った悲しみからも立ち直りつつあって、私――息子の友達が墓参りをしたいと言い出した時はそれはそれは喜んでくれていた。
生田は生前、きっと幸せだったんだろうな。
墓に水をかけ、御供物をする。
そして手を合わせると、私はそっと彼に話しかけた。
「ねえ生田くん。私のことを覚えてる?」
返事はない。『彼』の気配もここにはない。
わかっている。もう成仏したんだって。でも、それでも声を届けたい。
「私ね、生田くんと別れてから……あなたのことをずっと想ってた」
思い出す度に胸が熱くなる。そして、悲しくなる。
また会えたらどんなにいいだろうと思ったことは数知れない。本当に私は、『彼』が好きだったから。
「あれから色々なことがあったのよ。レイちゃんっていう女の子と出会って……。その子も霊だったの。私は彼女を助けてあげて、レイちゃんのお姉さんになったのよ。とても可愛い妹でね」
話を続ける。
「メリーさんっていう妖怪とも仲良くなったわ。それから、丘子さんっていう仲間も見つけてね。彼女らは愉快でとっても楽しい子たちなの」
傍にいないと知っていても、自然と言葉が溢れて出してしまう。
とめどなく、『彼』への想いが高まっていく。
「色々あって、外国へ行ったの。そこで私は恋をしたのよ。……あなたみたいにとっても優しくて素敵な人。見せてあげたいわ。あなたは、嫉妬してくれるかしら」
ポロリと涙がこぼれた。
この言葉が全部一人語りだとわかっているのに、『彼』がすぐそこにいるような気がして。
「生田くんのおかげで私、幸せになれたの。生田くんがいなかったらきっと……そうきっと、今の幸せとは巡り会えなかった。だからありがとう。――ごめんね」
全ての始まりは『彼』との出会いで、私を支えてくれていたのは『彼』の存在で。
私の楽しいこの一年間があったのは彼のおかげなのだ。
「私、今でも生田くんのことが好き。大好きよ。何十年経っても大好き。あなたと過ごせた時間は短かったけれど想いは色鮮やかに私の中で生き続けてるから。……生田くん、どうか私を、私たちを天国で見守っていてね」
そっと墓碑を抱きしめる。
大好きだったと涙ながらに伝えて、笑って。笑った顔をぐちゃぐちゃにして泣いて。
……こんな姿は誰にも見せられないななんて思いながら、静かに泣き続けていた。
『泣くなよ。あんたはほんと、変わってないな』
そんな声が聞こえたのは、きっと私の気のせいだろう。
△▼△▼△
成仏した幽霊はどうなるのだろう。
世界から消えてしまうのか、昇天してしまうのか、全く別の姿として生まれ変わるのか。
それは私にはわからない。ただ生田の安寧を願うことしかできないけれど。
私は軽く頭を下げて、そっと墓地を歩き去った。
生田はきっと私を見てくれている。だから勇気を出そうとそう思えた。
唇を噛み締め涙を拭い、決心を固める。
私は、私が愛するもう一人の彼の元へ向かった。




