無血の勝利
バタバタと足音を立てながら、レイちゃんが飛び出してきた。
「おねえちゃん、だいじょうぶ!?」
「レイちゃん、私は無事よ」
不安げな顔のレイちゃんの頭を撫でてあげると、彼女はホッとしたように笑った。
「おねえちゃんはすごいね。こわいおとなのひともやっつけちゃうんだもん。わたしもおおきくなったらおねえちゃんみたいになりたいな」
やっつけたというのとは少し違うけれど、レイちゃんが私のことをそう思ってくれるのは嬉しい。
でもあまり私のようにはならないでほしいなと思う。だって、私はかなり無謀なのたから。先ほどだって一歩間違えば死んでいたし。
サイレンがどんどん近づいてくる。同時に、新たな参入者が転がり込んできた。
「妖魅ちゃん!」
おかっぱ頭の少女――丘子である。
そしてメリーさんや妖怪たち大勢も引き連れていた。
「お待たせぇ、妖魅さん」
私は歓喜に頬を綻ばせる。
「あなたたちが警察を呼んでくれたのね」
「はいっ! この案件、残念ながらオカルト少女の専門外ですので!」
たまには彼女も正しい判断をするのかと私は心底感心した。いつもそんな風に理性的に動いてくれればいいのに。
「まあいいわ。とりあえず、人の目につく妖怪たちを隠さなきゃね。丘子さん、お願いできる?」
「もちろん! 狼さんもこっちいらっしゃいませ〜」
丘子はもののけ集団を率いて再び下へと降りていく。ウルフィーも、「あとは任せたよ」と言って外階段へ飛び出していった。
「はぁぁ。結局後始末をするのは私なのね……」
私は、失望に沈んでいる女――土井を見遣りながら、そっとため息を漏らした。
△▼△▼△
土井警部と黒服の男たちは、まあともかく色々な罪で逮捕された。
不法侵入罪もそうだし、土井警部に関しては職務外だったので銃刀法なんかにも問われているらしい。ざまぁ見ろだ。
それと同時に、もちろんのこと私もたくさんの事情聴取を受けさせられた。面倒臭いが私が通報者ということにしておいたせいもある。
丘子たちはすでに撤退していたし周囲に防犯カメラがないのは確認済みなので、私とレイちゃんだけでここへ来たということにしておいた。理由は、肝試しだったと適当に言っておく。
……今後のことが少々心配だが、仮に裁判沙汰になったとして、土井が真実を吐くことはないだろう。吐いたとして誰も信じないだろうし。
丘子が拘束していた他のメンバーたちはどこへともなく逃げ去ったし、さらに呼び出されて後からやってきたもう数人のメンバーも同じくして帰っていったという。
結局真相は私たちだけが知るものとなり、世間一般には、『私服の女警官が廃墟ビルに潜伏しており、肝試しにきた少女たちを撃とうとした怪事件』として処理されることになった。
巷では色々な論議が交わされたが、そんなことはどうでもいい。
私が全ての尋問を終えて警察の車で家に送り返された時には、もう日付が変わっていた。
そして言わずもがな、お母さんに叱られ、心配されてしまった。
「まったく、妖魅は」
「ごめんなさい……」
何があったかは言わなかったけれど、きっとお母さんには通じていたような気がする。結局「仕方ないわね」と笑って許してくれるような人だもの。
私たちはその後すぐ布団へ潜り、泥のように眠ったのだった。
△▼△▼△
翌日、またもや朝寝坊した私は、急いでレイちゃんを送り届けて高校へ向かう。
その途中、丘子が待っていた。
「妖魅ちゃん、おはようございまーす!」
まるで何事もなかったかのような普段通りな笑顔。本当に彼女は疲れを知らないみたいだ。
「おはよう。……昨日は大変だったわね」
「そうですねー。今となってはもう、まるで夢みたいですけど」
丘子たちはあれから、ウルフィーに乗ってここまで戻ってきたらしい。
ともかく、全員無事で何より。
「一夜で全部片づいちゃったわけですけど、『もののけ大紛争』と銘打ったにしてはずいぶんと小規模な争いでしたよね〜」
笑いながら丘子がそんなことを言い出す。
確かに……彼女の言う通り、思っていたよりは小さなものだったけれど。
「でも無力な二人の女子高生と小学生の女の子が挑むにしては、とても大きな諍いだったと思うわ。銃だって向けられたわけだし」
「あたしもさすがに銃声がって言われた時はびっくりしちゃいましたよー。ここは米国かって思いましたね」
「メリーさんから電話がかかってきた時、ちょうどウルフィーが壁を走っていた時だけど、私、きちんと伝えられたか心配だったわ。でも良かった。通報してくれなかったらきっとこうはうまくいかなかったわ」
それから私たちは昨晩のことを色々語り合ったのだけれど、そこは割愛する。
「今はあの戦いに無血で勝利したことを喜びましょう」
「はいっ! それと、霊視少女たちが繰り広げたオカルト騒動――いいえ、新しい『都市伝説』の誕生を祝して!」
都市伝説とはちょっと違うと思うが……。
まあ、でもあれだけテレビで放送されている事件だし、一種の不思議都市伝説になるかも?
それだったら、ちょっと嬉しいかも。
私たち二人が喜びに互いの手を叩き合わせる音が、いつも通りの朝の通学路に響き渡った。




