いざ突入!
GPS上での丘子の現在地と、私たちの位置がぴったり重なったのは、とある廃墟ビルだった。
元々はオフィスビルだったのだろうか。でもすっかり寂れてしまい、今にも崩壊してしまいそうだ。
「うわー、ボロボロだね!」
「しー! レイちゃん静かに」
今騒ぎ立てられでもしたら大変だ。
私は慌てて背後のレイちゃんを黙らせ、周囲に視線を走らせた。
どうやら誰もいないようだ。
「ウルフィー、ありがとう。今降りるわ」
数時間ぶりに地面へ降り立った私。足がガクガクして、うまく力が入らない。
ここは東北地方中部。私たちの街は関東にあるため、ずいぶんな距離を走って来たことになる。
その間、人間には見つからなかった。悪霊にちょっかいをかけられることはあったがうまく追い払ったのでなんともなかった。
「さて。ここからどうするかが肝心要よね」
まずさらわれた丘子を救出しに向かうのが一番。彼女は確実にこの中にいると思われ、突破さえできれば難しくないだろう。
それより何より大変なのは、その後のことだ。敵対勢力と戦うことになったとして、どんな風に? 向こうが人殺しすら厭わないような人間たちならまだしも、ただ妖怪を抹殺したいだけの集団だったとしたら、こちらもどこまでの対応をしていいかわからない。
できれば話し合いで解決できればいいが。武力的な争いにしたくはないなと私は思う。
「でも状況によっては、それも致し方ないだろうね」
「そうよね」
……色々と心配事は尽きないが、グダグダ言っても仕方がない。
とりあえず、突入しよう。
「でも慎重にね。あなたたちはこっそり……」
「さぁみんな、行っちゃいましょぉ!」
私が背後の妖怪たちへ呼びかけようとした、その瞬間だった。
メリーさんの声とともに、彼らが一斉に入り口へと押しかけたのは。
「ぎゃっ」
叫び、私は咄嗟に飛び退く。
一方で人ならざるものの大群は、「イエーィ!」だとか「一番乗り〜!」とかわけのわからないことを叫びながら、ビルの中へ雪崩れ込んでいった。
私はそれをただ茫然と見つめ、そしてやっと我に返ると、言った。
「ったくもう! 突入!」
△▼△▼△
「うわっ。わあぁっ」
「殺れ、殺るんだ!」
「仕留めろ」「殺せ」
あーらら、始まったみたいですね。
ドアの外から聞こえた声に、あたしは思わずニヤリとしました。
大体状況は把握できます。妖怪の大群――メリーちゃんの集めて来たあの子たちが押しかけてきたってところですよね。
つまりは、妖魅ちゃんたちが来てくれたってわけですよ!
ならじっとしてられませんね。
あたしは縛りつけられた椅子から大きく身を乗り出します。ガタンと音を立てて椅子が倒れ、あたしの体は地面に直撃!
痛いですけど、これくらいでめげたりしませんよー!
「何をしている」
「モゴモゴモゴモゴ」
ああそうでした、猿轡されてるんだっけ。
まあいいです、もちろんあたしがすることは――。
ポケットから落ちたスマホ、それに顔を近づけて鼻で通話ボタンを、
「ワタシ、メリーさん。今、階段のところよぉ。もうすぐそっちへ行くわねぇ」
ありゃりゃ? まだ押してないというのに聞こえて来ちゃいました。
どういう仕組みか知りませんけど勝手に流れ出すようですねー。知らなかった。
ともかく、声の主はやっぱりメリーちゃんでした!
ホッと安心して笑いながら、あたしは精一杯に声を張り上げます。「あー! あーあーあー!」
男たちが様子に気づいて、あたしを取り押さえようと迫っていますね。何されるかわからないので来てくださいっ。早くっ!
幸い、見張りの男二人組があたしに手をかける前に扉が開いてくれました。
「――そこまでになさい」
ほらほら、カッコつけちゃって。可愛いですね〜。
ビシッと指を突きつける少女はもちろん妖魅ちゃんです。彼女はあたしを無事に連れ戻しに来てくれたというわけでした。
小さな女の子と人形の怪異、それから金色の狼を伴って、ね。
△▼△▼△
駆け足で飛び込んだ先、一階には謎の黒服男たちが屯していた。
私たちに気づくなり、騒ぎ立てながら武器を手にやってくる。
普通なら一瞬で鎮圧されてしまうだろうが、こちらには心強い味方がいた。
「ワタシ、メリーさん。みんな、やっちゃってぇ!」
男たちに向かって、一斉に群がる怪異たち。
つるべ落としが男の一人を轟沈させ、ろくろ首が敵へ襲い掛かる。小さな霊たちがわっと群がってあたりを埋め尽くした。
「妖魅さん、今のうちに上へ行くわよぉ」
「おねえちゃん、はやく!」
思わず見入っていた私は、ハッとなって、レイちゃんの指差す階段の方を見る。
上に敵の拠点があるらしい。ウルフィーが「乗ってくれ」と再び背中を見せた。
「行きましょう」
金狼は私たちを乗せ、優雅に駆けて行く。
もう何時間も走ってきたはずなのに、まるで疲れが見えない。そのまま階段を軽やかに駆け上がり、次々に降りてくる男たちを突き飛ばした。
「――丘子さんと繋がったわぁ」
その途中でメリーさんからそんな報告が入る。
「あー、あー」と言っていただけだったものの、丘子の生存が確認できたということだった。
けれど油断はしていられない。彼女の状態がいいのか悪いのか、それはまだわからないのだ。焦燥感に胸が焼け焦げる。
そしてそのままビル三階のとある一室の前で止まった。
一旦金狼から飛び降りる。私は一も二もなく扉を勢いよく押し開けて、声を響かせた。
「――そこまでになさい」
部屋の中央では、手足を縛られた少女がこちらを見上げている。黒服の男たちが慌てて顔を向けてきた。
さあ、ここからが本番だ。
男たちに指を突きつけながら、知らず、私は笑っていた。




