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人ならざるものに愛を寄せて  作者: 柴野いずみ@『悪女エメリィの逆転劇』発売中
第九章 妖魅、『もののけ大紛争』を引き起こす
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敵地へ

 ――現代日本でこんなことが起こっているとは、誰も思っていないだろう。

 きっとこの紛争が終わっても、そのことを知る人は私たち以外にいないのだろうなと思う。逆に知れ渡ってしまったりでもすれば一貫の終わりなのだけれど。


 つまり、親にも警察にも消防にも国ですらも、頼ることはできないのだ。

 これは私たちが秘密裏で巻き起こした戦い。そして私たちだけで勝利しなければならない戦い。



△▼△▼△



 黒服集団に追われつつも、なんとか相談所へ戻ってこられた私たち。

 しかし、全員が無事ではなかった。


「どうしよう……。おかこおねえちゃんが、おかこおねえちゃんがっ」


「ごめんなさぁい。ワタシが何も力になれなくて」


 ――丘子がすっ転び、見事に捕まってしまったのだった。

 すっ転んだとは言っても勝手に転けたというわけではない。黒服の謎集団が、なんと石ころを投げてきたのだ。

 私たちはなんとかそれをかわしたが、まともに石が足に直撃した丘子は地面に倒れ、そこを捕らえられてしまった。


 私は逃げるのに必死で、それを阻止することすらできなかった……。


「丘子さんがどこに連れて行かれたのか、それが問題だわ」


 私は長く息を吐き、肩を落とした。

 丘子のことだから多少は大丈夫かと思うが、それでもやはり心配である。彼女は私より年下だし後輩だし、守ってやらねば。


 頭を悩ます私へ、妖怪たちが提案する。


「わたくしの腹に一度収まってくださいまし。そしてわたくしが空を飛び、敵地へお連れするというのはどうでしょう」

「オイラも出陣の時には戦力になるぜ」

「あっしの勘がきっと役立ちます」


 皆が皆言いたい放題過ぎる。

 第一、実際戦いになった時はともかく、今は敵の拠点を知りたいのだ。なんとかならないだろうか。


「ああもぅ、全然ダメぇ! 念話がちっとも通じないわぁ!」


 メリーさんもお手上げ状態。つまり丘子はすでに、この街にいない可能性が高い。


 そんな時、遠慮がちにウルフィーが手を上げた。


「僕に、いい案があるんだけど」


「何っ?」私はすぐさま食らいついた。「教えてちょうだい」


「そこまで期待されたら困るんだけど」と、彼は苦笑を浮かべ、言う。


「彼女、スマートフォン持ってるだろう? あれの位置情報確認機能をうまく使えばいいんじゃないかな」


「その手があったか! ウルフィーって天才ね!」


 私は思わず手を叩き、叫んでいた。



△▼△▼△



「ほんとうにおおかみさんになっちゃった」


「意外と迫力があるわねぇ。でも人間臭いわぁ」


 ――日が暮れて金狼となった青年を見て、レイちゃんとメリーさんがそれぞれに声を上げる。

 さすがオカルトに染まっているだけあって、二人はそこまで驚いていないようだった。


「肝っ玉が太い女の子たちなんだね。僕の故郷では、うっかり狼になったところを見られでもしたら、男も女も構わず絶叫していたのに」


「そうね。まあ、私たちはある意味普通じゃないから」


 そう言って笑いながら、私はスマホに目を落とす。

 最近の端末にはGPS機能がある。丘子は今通話には応答しない状態だったが、これで追跡はできるだろう。


 見ると、丘子は北の方へ向かっているようであった。


「結構離れてるね。どうするんだい?」


「行くしかないわ。あなた、車の運転できる?」


 ウルフィーに訊いたが、彼はゆるゆると首を振った。

「ずっと山で引きこもって暮らしていたから」とのこと。しかも、狼の姿ではそもそも運転などという器用なことはできないだろう。


 高二の私はまだ免許を持っていない。他に車を運転できるような人もこの場にはいなかった。


「代わりに僕の背中に乗るといい。というか、それしかないよ」


 ウルフィー――金狼はかなり大きく、体長二メートルほど。

 これなら私とレイちゃんは余裕で乗れるに違いない。


「でも、もののけたちはどうするの? 全員乗らないわ」


「無理してでも乗ってもらうしかない。いいかな?」


 不満そうな声、嬉々とした声、色々あったが結果的には妖怪たちも了承してくれたようだ。

 ともかく今は時間がない。急がなければ。


「できるだけ人に見つからないようにしないとな……。君は位置情報確認を頼むよ」


「わかってるわ」


 丘子の位置は、どんどんどんどん北へと向かっている。県境をいくつか越え、東北地方に入りそうな勢いだ。早く追いつかないとまずい。


 相談所を出て、金狼の背にまたがる。

 私は先頭に、レイちゃんが真ん中、もののけ集団が一番後。まさか狼の上に乗るなんて経験を人生でするとは思っていなかった。毛がゴワゴワしている。


「夜のうちに、この戦いを済ませたいわ。お母さんに心配かけたくないもの。……ウルフィー、行って!」


 まるで夢やおとぎ話の世界のように、私は狼に乗って夜の街を駆けていく。

 丘子のことを心配に思いつつも、高揚する胸を抑え切れないのだった。



△▼△▼△



 はいはーい、あたしこと丘子ちゃんからの現地実況中継の始まりでございまーす!

 あたしは今、手足を縛られてぐるぐる巻きで連行中です! どこに連れて行かれるのかドキドキですよねっ!


 ……とかはしゃいでますけど、実は不安でいっぱいです。

 お札は取られちゃったし、猿轡が嵌められてるしで何もできません。現実で猿轡なんて嵌められるとは思ってもみませんで、正直すっごくびっくりしているのですが。


 目隠しされていないのが幸いでしたかね。ここの景色はしっかり覚えてます。……これを妖魅ちゃんたちに伝えられたらなぁ。


 あ、そうそう、あたしを連れ去ったのは黒服の男の人たちです。多分、敵ですね〜。あたしたちを監視してたのもこの人たちじゃないかと思われます。

 そもそも、敵って言葉を当たり前みたいに使うのってどうなんでしょう。あたしたち一般市民ですよ? それが争いをしようとしてるわけです。そもそも勝ち目あるの?って感じじゃないですか。


 でも妖魅ちゃんが引かなかったんですよねー。そりゃそうか、あの子、もののけに恋する変態さんですからね。

 あたしは絶対に妖怪を好きになったりしませんよ? それくらいの節度は弁えてますもん。


 妖魅ちゃんは変人なんですよねー。だからこそ、妖怪たちにも好かれるんだろうなあ。


 まあ、そんな変人の妖魅ちゃんですが、あたしを助けにきてくれないはずがありません! 第一、彼女が玃猿にさらわれた時はこっちが助けてあげたんですから、恩返ししてもらわなくちゃですよ!


 そうこうしているうちに、なんだか変な建物が見えて来ましたね。


「着いたぞ」


 そう言われてあたしは、車から降ろされます。そして男たちに担がれて、建物へ連れ込まれるわけですよ。

 ああ、楽しみ〜。でも変なことされないか、ちょっと心配です。体を奪われたらどうしよう?


 でも何を言ってもなるようになるだけですし、あたしは大人しく助けを待つしかないみたいですね。


 はぁぁ、明日までには家に帰れますかねー。期末テストが近いので早く帰らなきゃなあ。

 ……そうです、あたしはこんな状況でもそこまで……いいえ全く危険とは思っていないのですっ。


 妖魅ちゃん、待ってますよー!

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― 新着の感想 ―
[一言] ウルフィーさん、妖怪も載せられるって……どんだけデカいの(;'∀') そして……敵はどこまで北上したのか(゜Д゜;)
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